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それでも俺は帰りたい~最強勇者は重度の帰りたい病~  作者: 夙多史
十三章 わたしたち人は働く生き物です!
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第九十八話 わたしは正気ですよ?

 時は少し遡るです。

 リリアンヌさんが経営しているカフェで作戦会議をしていたわたしたちは、そこで偶然見かけた建労信徒のエディ・アーネルさんに取り入って建労神教会を利用する方法を思いついたです。最初は怪訝そうにしていたエディさんでしたが、『建労神教会に入信したいです』と伝えたら態度が一気に変わったです。


「いやぁ、建労の心がわかる若者が二人も入信を希望してくれるなんてありがたいことです」


 エディさんが口添えしてくれるおかげで、わたしとヴァネッサさんは無事に建労神教会へと潜入することができそうですね。


「ここですか……」

「辺鄙なところにあるのじゃな」


 建労神教会の聖堂は安息神教会があった地区とは反対側の片隅にあったです。一見どこにでもありそうな小さな教会だったですが、門前の掲示板に貼られた入信者を募集するポスターの数が異常です。


『三ヶ月で司教になれる!』


『ノルマは一切なし!』


『アットホームな教会です!』


 とかいろいろと宣伝文句が書かれていたですね。なるほど、こちらの教会も信者集めを頑張っているようです。なぜかヴァネッサさんが白い目をしていたですが、悪くない教会だと思うですよ?


「お二人にはまず大神官様にお会いしていただきます。新規の入信者は初めに大神官様からの洗礼を受ける決まりになっていますので」

「いきなり大神官様に会えるですか!」


 というわけで、わたしたちは教会の聖堂へと案内されたです。そこには他の入信者たちも集まっていて、大神官様が現れるのを椅子に座って待っていたです。ちゃんと椅子です! お布団じゃないです!


「のう、エディとやら。建労神教会は具体的にどのような活動をしておるのじゃ?」


 大神官様を待っている間にヴァネッサさんがそう質問したです。この作戦にあまり気乗りしてなかったヴァネッサさんは、心なしか顔が引き攣っているような気がするです。


「働くことの素晴らしさを説き、怠惰を許さず、人が人たるための世界作りに貢献しております。仕事の斡旋や職業訓練など、労働者への支援活動も欠かせません」

「素晴らしいです! どこぞの安息とか言ってるよくわからない教会とは大違いです!」

「でしょう! エヴリルさんはわかってますね!」

「それだけじゃと聞こえはいいのじゃが……」


 エディさんはこんなにも素晴らしいこと言っているのに、ヴァネッサさんはなぜかげんなりと肩を落としたです。


「あとは……アレですね。安息神教会を潰すことです」


 今まで穏やかだったエディさんの顔が険しくなったです。


「えっと、それはどうしてです? 確かによくわからない教会ですが、普通は争ったり信者の奪い合いはしないと思うです」

「その『普通』とは七神教会のことでしょう? エヴリルさんが信仰している天空神(ウラヌス)などは元々知名度が高く、他の教会と争う必要がないのです。そもそも、この国では信仰の掛け持ちが認められておりますし」


 七神教会――太陽神(ヘリオス)天空神(ウラヌス)竈王神(ヘスティア)海洋神(ネレイス)地母神(ガイア)雷霆神(ゼウス)暗黒神(ヘカテー)のいずれかを信仰している教会のことです。確かにそれ以外の教会のことを、わたしはあまり知らないですね。安息神(フトゥン)建労神(ハトァラケー)なんて神は最近初めて聞いたです。


「じゃとしても、安息神教会だけを目の仇にしておるようじゃが?」

「彼らの教えが我らとは相反するからですよ。どちらかが信徒を集めれば、自然ともう片方を削る形になってしまいます。安息は我らが神敵。今後、安息神をあまり擁護するような発言は控えることをお勧めします」


 擁護するつもりはないですが、建労神教会では口にしない方がよさそうですね。袋叩きにされては敵わないです。

 でも、この敵対心は思った通りいい感じです。勇者様を安息神教会から引き剥がすために、建労神教会に取り入ったのは正解だったですね。


「お、大神官様が来られたようですよ」


 と、エディさんが壇上を見上げたその時だったです。


「なっはっはっは! よくぞ集まってくれた! 敬虔なる建労を願う人々よ!」


 祭壇の頭上。そこに眩い輝きが出現したです。その輝きがゆっくりと壇上へと下りてくると、一人の少年に姿を変えたです。

 灰褐色の髪に整った顔をした男の子です。見た目の年齢はわたしと同じくらいですかね? でも、背中から生えた髪と同じ色の翼が人間じゃないことを示しているです。

 これは、安息神教会の時と同じです。


「我は建労神教会大神官にして、次代の建労神を担う者――ハトァラケー=レイバーである! なっはっはっは! 笑う門にこそ建労あり!」


 神官服をはためかせ、男の子――ハトァラケー=レイバー様は声高々と笑ってみせたです。なんだかすごく爽快なお方みたいですね。

 このお方も、フトゥン=ネムリア様と同じ『新神』というものですか?


「諸君らは自らの怠惰に気づき、我が教会の門を叩いた! よいぞ! 実によい! 諸君らは勇敢で賢明な人間だ! 誇れ! そして笑うがよい! なっはっは!」


 レイバー様は不作法にも祭壇から身を乗り出すと、わたしたち集まった入信者を一人ずつ見回したです。


「よく聞け信徒たちよ! 人類とは働くために存在する! 働いて、働いて、働き続けることで世界は発展していく! そこに休息など無用! 過労を恐れることなかれ! 我が建労神教会の加護があれば諸君らはいつまでも働ける!」


 キメ顔ですごいことを言ってるです。働くことが世界の発展? まさにその通りですね。怠けているだけじゃなにも生み出すことができないです。


「(え、エの字、あの人なんかやべーこと言ってるのじゃ!? この教会やっぱり危ない気がするのじゃ!?)」


 焦った様子のヴァネッサさんが小声で耳打ちしてきたです。


「(静かにするです、ヴァネッサさん。今大神官様がありがたいお言葉を仰っているところですよ)」

「(エの字が既に洗脳されておるのじゃ!?)」

「(? わたしは正気ですよ? ほら、みんな拍手してるです)」

「(わしがおかしいのかや!?)」


 聖堂に響く拍手喝采。ヴァネッサさんは目を回してるですが、わたしはレイバー様のお考えに概ね賛同できるです。少しでいいから爪の垢を煎じて勇者様に飲ませてやりたいですね。

 せっかく七つ星冒険者になって、いい感じに仕事してくれるようになったですのに、ちょっと目を離したら安息神教会なんて変なところに転がり込んだりして本当にダメ勇者様です。わたしがここで建労の教えを学んで叩き込んでやるです!


「これより諸君らに最初の加護を与えよう! それを持って洗礼の儀を完了とする!」


 レイバー様がニィと笑ったです。

 その瞬間、灰褐色の光が聖堂全体を覆い尽くしたです。


「――よい建労を(レンジ・ツ・サビザン)!」


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