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それでも俺は帰りたい~最強勇者は重度の帰りたい病~  作者: 夙多史
十二章 みんなの安息は俺が守る!
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第九十六話 ヘクターのチクショォオオオオオオッ!?

 衝撃波が王都の一部を大きく振動させる。

 ラティーシャと、ラティーシャの能力を超越コピーした俺が衝突しただけでその有様だ。人間やめてやがる。いや、俺じゃなくてラティーシャが。

 数ヶ月前に地下水路で剣を交えた時よりも遥かに強くなってんな。七つ星冒険者としてやばい経験をいくつも積んだ俺でも、ここまで切迫した戦闘はエンシェント・ドラゴン以来だ。


「ちょっと見ない間に強くなりすぎてません?」

「当然だろう。毎日筋トレを続けているからな!」

「なにそれどこのワンパンヒーロー?」


〈模倣〉のモードを古竜に変更すれば、たぶん、まだ圧倒できる。だが、その切り替えの一瞬を突かれたら終わりだ。今のラティーシャならそのくらい平気でやってきそうだから帰りたい。

 ただ、それより想定外なのは――


「ラティーシャ様! 兄貴は次にフェイントをかけて攻撃するはずです!」


 長らく一緒のパーティーメンバーとして活動していたヘクターが、俺の性格や癖を分析して的確な指示を出していることだ。

 まんまとフェイントを見抜かれて本命の一撃をかわされちまった。くそう、ヘクターの野郎。この人外バトルには流石についていけなくなってるってのに、厄介この上ないぞ。帰りたくなる。


「背中ががら空きだぞ、勇者殿!」


 サイラス将軍が俺の背後から剣を振るう。こちらは伊達に『将軍』を名乗っていないようで、ちょくちょく人外バトルの隙をついて攻撃してくるんだよ。それ騎士道精神に反してませんかね?


「チッ、ホント面倒だな!」


 超反応でサイラス将軍の剣を左手の長剣で防ぎつつ、ラティーシャの大振りの一撃を右手の大剣で受け止める。


 王都の底が抜けた。


「王女殿下ぁあッ!? だから力加減をですな!?」

「落ち着くのだ、サイラス。手加減できる相手じゃないことはわかっているだろう?」


 俺たちは仲良く地下水路へと落ちてしまった。

 そんで落ちながらなんかもめてるな。これはチャンス!


強欲の創造アワリティア・クリエイト〉――エロスライム!


 地下水路の幅いっぱいに広がる不定形モンスターが出現した。俺はそれをクッションにして落下の衝撃を和らげる。


「む?」

「これは、あの時のスライムか?」


 離れた位置に着地した二人が唸る。フフフ、警戒しているな? 俺以外の人間を〈創造〉しても人形でしかないが、こういうモンスターなら三分間だけ指示通り動かせるんだよ。

 俺自身を創ってもよかったけど……俺だからなぁ。ヘクターが綿毛鳥の羽毛ベッドを無償提供するとか言われたら余裕で寝返りそうだもん。嫌だよ? 俺の敵が俺になるとか。


「病原体は持ってないから安心しな。てことで、さよなら!」


 俺は後のことをエロスライムに任せて脱兎のごとく地下水路から地上へと跳び上がる。物理攻撃が効きにくいスライムなら、魔法を使えないあの二人の足止めには丁度いいだろ?

 そう、思ってたんだけどなぁ。


 バチャアアアアン!!


「ホワッツ!?」


 なにかが盛大に弾ける音と共に、地上に跳び出た俺に向かって大量の水飛沫、じゃなくてスライム飛沫が飛んできたぞ。


「エロスライムぅうううううううううう!?」


 服だけ都合よく溶かすスライムを頭から被って俺の上半身はすっぽんぽん。イヤーン帰りたい。


「逃がさんぞ、勇者殿!」


 地下水道から銀髪の女騎士が飛び出してきた。こいつマジか? 物理だけでスライムを爆散させやがった。普通スライムに溶かされて「く、殺せ」ってなるのそっちだろ! 誰得!

 だが、ここまで距離を取れば〈古竜の模倣(ドラゴンフォース)〉ができるぜ。


「ラティーシャ様! 兄貴がドラゴンを〈模倣〉しようとしています! 剣を投げて!」

「ふむ、こうか?」


 ブォン!

 ラティーシャの腕力で投擲された大剣が馬鹿みたいな速度で俺に迫る。待って、死ぬ!?


「ヘクターのチクショォオオオオオオッ!?」


古竜の模倣(ドラゴンフォース)〉は間に合う。間に合うけど、たとえ竜の防御力になったとしてもアレは痛い。絶対痛い。『痛い』で済むけど帰りたい!


「そこまでなの」


 俺の目の前に、天使が割って入った。

 純白の翼を広げ、ちっちゃな手を前に翳した天使――ネムリアは、心休まるような温かな光を放つ。するとどうだ。あれだけ殺意満々で迫っていたラティーシャの大剣が速度を落とし、鈍い金属音を轟かせて地面に横たわり、眠るように沈黙した。


「な、なんだと?」


 ラティーシャは普通なら必殺となる一撃をあっさり無力化されたことに瞠目していた。


「あの翼は、天使様?」

「馬鹿な。なぜそのような存在がこんなところにいる?」


 ヘクターとサイラス将軍もネムリアの神々しい姿に驚愕を禁じ得ないらしいな。

 まあ、そんなことはどうでもいいとして。


「ネムリア、先に帰ってたんじゃなかったのか?」

「……荷物だけ置いてきた、なの」


 あ、しっかり帰ってたんですね。しかし戻って来るとは……俺を助けるため? 確かにあの脳筋が予想外すぎてピンチに見えたかもしれんけど、こっから古竜モードで大逆転するつもりだったんだけどなぁ。


「……これ以上ネムの英雄と戦うと問題なの。街が破壊されたら誰も安息できない、なの」


 ネムリアは眠そうな瞳で周囲を見回す。どう考えても俺たちが原因と思われる破壊の跡が点々としていますね。このまま古竜モードであの脳筋(バグ)とぶつかれば……考えただけで帰りたい。

 それは流石にラティーシャにも伝わったようで――


「ふむ、確かに。このままでは私のお小遣いでは足りなくなるな。ならばこの私自ら汗水を垂らし筋肉を苛めながら建築作業を」

「だからそういう問題じゃないと言っているでしょう王女殿下!?」


 ダメだこの王女全然反省してない! サイラス将軍も苦労してるんですね。帰ればいいのに。


「しかし天使様、王都で働いている者たちが関わっている以上、オレたちも黙って見逃すわけにはいかないのです。話し合いをするというのなら歓迎ですが」


 ヘクターめ、引き下がらないな。どうやら商会にとって安息神と建労神の衝突はそれほどの問題らしい。休みすぎたり働きすぎたりしてるんだろうね。

 ネムリアも自分から正体バラすようなことしたし、ラティーシャの戦闘力を甘く見積もった俺のミスもある。こりゃさっさと話した方が早く帰れるかな。

 と、思ったのに――


「……そこは考えてきた、なの」

「え? ネムリアさん?」


 むふん、とネムリアは全く起伏のない胸を張った。それから手元を輝かせ、どこからともなく一個の枕を取り出す。

 それはさっきあの寝具店で買った、トゲトゲイラストの枕。


「……枕投げで、勝負なの」


 お目目をキラッキラさせて、ネムリアはそう宣言した。

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