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それでも俺は帰りたい~最強勇者は重度の帰りたい病~  作者: 夙多史
十一章 わたしが勇者様を正気に戻すです
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第九十話 怪しいことには変わらないです

 気がつくと、わたしは自分の寝室のベッドに寝かされていたです。


「えっと、わたしは確か安息神教会で勇者様に……ッ!?」


 慌てて飛び起きるです。アレは夢なんかじゃなかったです。わたしは確かに勇者様を見つけて、連れて帰ろうとしたけど断られてしまったです。


「勇者様が、ここまで運んでくれたですか?」


 周りを見回してもここがわたしたちの家だということは疑いようがないです。改修した宿は勇者様の希望通り一階部分をわたしたちの家にしているです。寝室にリビングに書斎と二人で暮らすにはかなり広くなってしまったです。

 今はわたしが一人ですから、なんか酷く寂しいですね。


「む? 起きたかや、エの字」


 寝室の扉が開いてヴァネッサさんが入ってきたです。ノックをしなかったのはわたしがまだ眠ってると思ってたからですかね。


「余程疲労が溜まっておったのじゃろう、エの字は丸一日眠っていたのじゃ」

「丸一日も……?」


 そういえば、なんだか頭がスッキリしているです。寝すぎてだるい感じもないですね。これが安息魔法の効果ですか……?


「ヴァネッサさん、勇者様は?」

「わからぬのじゃ。わしも目が覚めたら自分の部屋のベッドにいたのじゃ」


 残念そうにヴァネッサさんは首を横に振ったです。もし勇者様がわたしたちを運んだのだとすれば、一度帰ってきたはずなのにまたあの教会に戻ったということです。


「安息神教会、少々調べてみる必要がありそうじゃな」

「そうですね。悪いことしてる集団ではなさそうですが、怪しいことには変わらないです」


 勇者様を取り戻すためには、あの教会が一体なんなのか突き止める必要があるです。


「その件についてだが、私たちも話し合いに混ぜてもらえないか?」

「兄貴が関わっている二つの教会について、わかっていることがあります」

 

 バン! と勢いよく寝室の扉が開いたです。そして白銀の鎧を纏った女の人と、身なりのいい男の人が入ってきたです。


「王女様!? ヘクターくんも!?」


 二人はノックくらいしてくださいです!


「久しいな、エヴリル殿」

「合鍵持ってるヴァネッサさんはいいとしても、なんで王女様たちまで勝手に入ってきてるですか!?」


 ヴァネッサさんは二階に一室借りていて、わたしとよく一緒にごはんを食べたりするので合鍵を渡していたです。でも王女様とヘクターくんは違うです。


「鍵はかかっていなかったぞ?」


 王女様が不思議そうに小首を傾げたです。


「……ヴァネッサさん?」

「フッ、このわしの居城に施錠など不要。何人だろうとわしへの挑戦を許すのじゃ」

「………………ヴァネッサさん?」

「………………忘れてたのじゃ。ごめんなのじゃ」


 そういえばこの人は王都の北の森に曾お祖母さん一緒にくらしていたです。人なんて滅多に来ないから施錠の習慣がないんですかね。

 まあ、それはもういいです。

 そんなことより――


「ヘクターくん、二つの教会がどうのって言ったですか?」


 王女様が頷くです。


「彼の二つの教会について、私の筋肉覚が不穏な筋肉反応を捉えたのでな。軍の情報部とヘクター殿の商会の力を借りて調査していたのだ」

「王女様の謎感覚はどうでもいいとして、なにかわかったですか?」

「わかってることがあれば教えてほしいのじゃ。イの字が変な宗教に完全に染まってしまう前にの」


 もう充分染まり切っていた気がするですが、よく考えたら最初から勇者様はあーですね。


「うむ、ヘクター殿」

「はい」


 王女様に促され、ヘクターくんが持っていた鞄から資料を取り出すです。


「まず、安息神教会と健労神教会が作られたのは先の事件の後になります」

「暴徒の件じゃな」


 三ヶ月前のことです。〈幻惑の魔女(ダズル・ウィッチ)〉ヘラヴィーサ・ホルバインがわたしを含めた王都の人たちに呪いをかけ、暴徒に変えることで国家の転覆を図った事件があったです。


「あの呪いは、暴徒全員の欲求を書き換えることで解決しました」

「そうじゃ。イの字をヒントに、誰もが持っている睡眠欲求を暴走させてみたのじゃ」


 ヴァネッサさんも解決に一役買ったと自分で言っていたです。ちゃんと役に立っていたかどうかは暴徒の一人だったわたしにはわからないですが……。


「まさか、その時の呪いが残ってる人たちが教会を立てたですか?」

「そのまさかです」


 ヘクターくんは肯定したです。


「正確には国民全員の解呪は成功している。軍が調査した結果、それは間違いない。だが、あの時の眠りの快楽が忘れられない者たちが一定数いたのだ」


 王女様が続けたです。つまり、その人たちが安息神教会を発足したわけですね。

 わからないでもないです。

 あの時の感覚は今でも少し覚えているです。幸せな時間を過ごしていたような気がするです。


「じゃあ、健労神教会はなんです?」


 安息神教会はわかったですが、健労神教会はどうして発足したのか謎です。

 その疑問にもヘクターくんは答えてくれたです。


「あの時の名残で多くの国民が目が覚めた後も働く気力が湧かなかったらしいのです。それで、このままではいけないと立ち上がった者たちが健労神教会を作ったようですね」

「どっちにしても極端なのじゃ!」

「今まで通り普通に暮らせばいいのに、アホばっかりですか!」


 ちょっと聞かなきゃよかったって思っちゃったじゃないですか。


「時に、ゼの字はどうしたのじゃ? あの者ならもう一度呪うなどして改善できそうじゃが?」


 ヴァネッサさんが思い出したようにそう言ったです。

 ゼの字――〈呪いの魔女(カース・ウィッチ)〉ゼノヴィア・キルマイアーさんは本来勇者様と並ぶくらい事件解決に貢献した魔導師です。あの子の力があれば確かにどうにかなるかもしれないですね。


「魔女殿は表彰式典以降行方が掴めておらぬのだ」

「王女様の筋肉でも見つからないですか?」

「私の筋肉も万能ではないぞ。我が国では指名手配を解除したが、もしかすると他国へ出てしまったのかもしれんな」


 てっきり万能だと思っていたです。ていうか国内ならわかるですか?

 ゼノヴィアさんがいないとなると、やっぱりこの場にいる戦力でどうにかするしかないですね。

 そういえば――


「そうです、王女様。『シンジン』ってわかるですか?」

「シンジン? そのような筋肉は聞いたこともないが?」

「筋肉の話じゃないです!?」


 この人の思考回路はどうなっているですか?


「新人冒険者とかの新人でしょうか?」

「いえ、たぶんそうじゃないと思うです。安息神教会の大神官様が天使様のような姿をしていたのですが、聞くとシンジンだと言っていたです」


 勇者様はあの天使様のために教会に残った感じだったです。だから教会そのものよりも、天使様が何者なのか調べた方がいいかもしれないです。


「新しい神ということかのう?」

「神様自身が人間の教会で神官なんてやるわけないじゃないですか!」

「最近エの字わしに厳しくなってないかの!?」

「友情が深まったからです」

「そ、そうなのかや? ククク、しかし孤高の存在たるわしに友など不要。従者ということにしてやろうぞ」

「ええ、決して巨乳が目障りだからという理由じゃないです」

「エの字!?」

「冗談です」


 ヴァネッサさんは命の恩人で、大切な友達で仲間です。巨乳は目障りデスケド……おっといけない〈呪い〉の影響がまだ残ってるミタイデスネ。


「ははは、元気がないと聞いていましたが、大丈夫そうですね」

「うむ、勇者殿が見つかったおかげだろう」


 ヘクターくんが爽やかに笑い、王女様もよかったと言うように頷いたです。


「では、その安息神教会の大神官とやらも調べておこう」

「お願いするです、王女様」


 頭を下げると、王女様はヘクターくんを連れて部屋を出て行ったです。さっそく調べてくれるようですね。


「わしらはこれからどうするのじゃ?」

「このまま待っていても仕方ないです」


 やることはもう決まっているです。


「もう一度、安息神教会に行ってみようと思うです」


 今度こそ勇者様の真意を聞くために。


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