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第七十四話 とんでもない『実験』があったものなのよ

幻惑の魔女(ダズル・ウィッチ)〉ヘラヴィーサ・ホルバインの手引きで脱獄に成功したあたしは、しかし奴に付き従うことはなかったのよ。ここ数日は王都に潜み、奴がなにを企んでいるのか調べることに専念していたのよ。


「……一国の首都を丸ごと巻き込むなんて、とんでもない『実験』があったものなのよ」


 王都にいくつもある時計塔の一つから街並みを見下ろすのよ。街は至るところから煙が上がり、人間たちが悲鳴を上げて大パニックになっているのよ。

 魔物の襲撃に遭ったように三々五々に逃げ惑う人間たち。でも、彼らが逃げているのは魔物からじゃないのよ。


「同じ人間……それもついさっきまで隣を歩いていた人々なのよ」


 突然、気が狂ったように暴れ出したのよ。街を破壊し、人を襲い、物を奪う。欲望のままに行動する彼らは魔物の方がまだ理性的に思えるほど獣だったのよ。


 これは〈呪い〉なのよ。

 あたしが魔物たちにしてきたのと同じ、でもそれ以上に強力な呪法で人間たちの理性という枷を破壊し、本能を引きずり出しているのよ。


「あいつは、なにがしたいのよ?」


 ヘラヴィーサはこれまでも何度か〈呪い〉を発動させて小競り合いレベルの騒ぎを起こしていたのよ。たぶんそれはちゃんと発動するかなどの前準備的な確認で、本命はこの大規模同時発動。〈改変〉の魔法で人間が文字通りの意味でどこまで人間を辞めてしまうのか、今頃どこかの安全地帯から俯瞰して楽しそうに観察していると思うのよ。

 それがなんの意味になるっていうのよ?

 ヘラヴィーサの、いや、ヘラヴィーサたちの最終目標は世界の〈創造〉だと言っていたのよ。あたしに無理やり渡してきた『ヘロイアの書』の実験もそこに至る過程だとしても、既にある秩序を破壊しているだけにしか見えないのよ。


「まさか全て破壊してから一から〈創造〉するつもりなのよ?」


 だとすれば、あたしの愛する魔物たちも滅ぼされる日が来るということなのよ。それもただ殺戮されるのではなく、恐らく〈改変〉により全く異なる存在へと書き換えられてしまうのよ。

 そんなのは、許せないのよ。

 人間はどうなろうと知ったことじゃないのよ。でも、あたしが守りたいものにまで手出しされるとなると黙って傍観するわけにはいかないのよ。

 あたしはあいつから渡された『ヘロイアの書』の写本を取り出すのよ。


「この禁書の知識を使った実験なら、きっとこの禁書の知識で止めることができるはずなのよ」


 ページを繰るのよ。

 そこにはこの世界とは異なる文字が連なり、写本とはいえ見ているだけで気が狂いそうな意味のない情報が頭に飛び込んで暴れ回り始めるのよ。


「くっ」


 あたしが解読できたのはこの一ページ目だけなのよ。それだけでも数ヶ月の時間を要したのよ。止める手段が載っているとすれば、二ページ目以降……。


「やっぱり、あたしにはこれ以上無理なのよ」


 堪えられなくなってあたしは禁書を閉じたのよ。


「不本意だけど、こうなったらできそうな奴に頼むしかないのよ」


 あたしは凄まじい暴風の荒れ狂う小闘技場の方に目を向けたのよ。


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