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それでも俺は帰りたい~最強勇者は重度の帰りたい病~  作者: 夙多史
九章 わたしたちの夢のマイホーム
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第七十一話 頑張るです、ヴァネッサさん!?

「吼えよ大地! 地母神の怒りを刃に変え、我が敵を切り裂くのじゃ!」


 先手を取ったのは意外にもヴァネッサさんだったです。細かい砂がヴァネッサさんの翳した杖の先端へと集まり、それが一つの鋭い刃となって勢いよく射出されたです。

 ヴァネッサさん、こんな短い詠唱で使える魔法も知っていたですね。大技は相手の隙を作ってからだと口が酸っぱくなるくらい言い続けた甲斐があったです。


「唸れ業火! 赤き猛撃により爆ぜるがいい!」


 ですが、相手の魔導師も速いです。後手に回ったのにもう砂刃を相殺するための魔法を発動させたです。射出された火炎の魔法弾が砂刃と激突して爆風を巻き起こしたです。


『開幕早々に激しい魔法戦ですわ! 皆さんもご存知の通り、地母神教会は地属性、竈王神教会は火属性の魔導師ですの。やはり魔法は見栄えがいいですわね。白熱した戦いが期待できますわ』

『どちらも初級の魔法です。まだ両者とも小手調べと言ったところですね』


 実況と解説もちゃんとやっているです。リリアンヌさんがイチャイチャしようとしてヘクターくんが悲鳴を上げるだけになるかと思っていたですが、二人とも仕事にはしっかり責任を持つタイプのようです。


「ならばこれはどうじゃ! 大地よ応えよ! 狂乱せし臥竜の顎! 喰らい尽くすのじゃ!」


 衝撃波で蓬色のローブをはためかせながらヴァネッサさんが次の魔法を唱えたです。相手の魔導師――イザベルさんの足下が大きく盛り上がったです。


「おや?」


 危険を察知したイザベルさんはバックステップでその場を離れたです。次の瞬間、地面から無数の土槍が飛び出し、まるでドラゴンが大口を閉じるようにイザベルさんがいた場所を挟み込んだです。


「アレ普通に受けてたら普通に死んでる気がするです」

「避けると思った……わけないよな。まあ、加減はしてたっぽいぞ」


 勇者様も心配だったみたいですね。冷や汗を浮かべながら魔眼で魔法の〈解析〉をしているです。加減て……急所に当たらないようにしていた感じですかね?


「お返しよ。――沸き立つは灼熱。果てなき憤激を浴びて熔化するがいい」


 今度はイザベルさんの攻撃です。彼女は意味深に杖を振るったですが……特になにかが射出されたりすることはないです。

 不発? いえ、そんなわけがないです。


「気をつけろヴァネッサ! 敵も足下を狙ってきたぞ!」


〈解析〉を続けていた勇者様が真っ先に気づいたです。ヴァネッサさんの魔法ほどわかりやすくないですが、彼女の足下の地面が次第にオレンジ色に染まっていくです。


「わひゃ!?」


 ヴァネッサさんは次の魔法の準備を中断して転がるように飛び退いたです。一瞬遅れてヴァネッサさんが立っていた場所に――よ、溶岩の柱が噴き上げたです!? いやそれも普通にくらってたら死んでるですよ!?


「さあ、畳みかけさせてもらうよ!」


 イザベルさんは次々と火炎弾の魔法を唱えて間断なくヴァネッサさんを狙い撃ちしてくるです。


「ひゃあああああっ!? ちょ、ま、タンマなのじゃタンマ!?」


 悲鳴を上げ、走り転がって火炎弾を避けることしかできないヴァネッサさん。火炎弾は地面に着弾する度に爆発を起こしているですから、上手くかわせても爆風に吹き飛ばされてダメージを受けてしまうです。

 まずいです。完全に相手のペースですよ。


「頑張るです、ヴァネッサさん!?」

「そんなこと言われても――ぎゃっ!? け、堅牢なる大地の盾! 我を守るのじゃ!」


 爆風で転がされたヴァネッサさんが必死に魔法を唱えるです。今度は自分の周囲の地面が隆起して半球状の壁を作ったです。火炎弾が直撃してもすぐには崩れそうにないですが、時間の問題ですね。


「あらら、引き籠っちゃったか。なら、嫌でも出てきてもらうしかないね」


 イザベルさんが嗜虐的な笑みを浮かべて舌嘗めずりをし――


「我が火は真紅。其は朽ち果てぬ灼炎の檻。竈王神の御名の下、無慈悲に滾り吹き荒ぶがいい!」


 少し長めの詠唱を唱えたです。

 するとヴァネッサさんが隠れている土壁の周囲に真っ赤な魔法陣が展開し――轟ッ!! と。物凄い熱量の火炎が竜巻を起こすように土壁ごとヴァネッサさんを呑み込んだです!


「ヴァネッサさん!? このままじゃ丸焦げです!? なんとかするです!?」


 土壁の中はきっと(かまど)のような状態です。あんなところに生身の人間が入って無事なわけないですよ!


「いや……大丈夫っぽいぞ」


 勇者様の青い目は、イザベルさんの背後を見ていたです。

 地面がボコンと小さく爆ぜたかと思えば、土塗れになったヴァネッサさんが勢いよく飛び出したです。


「どこを狙っておる? こっちじゃ!」

「なっ!? 地面からだと!?」


 魔法で地面の中を移動したようです。そんなこともできるなんて、やっぱり魔法の腕だけは間違いないですね。いえいえ、今回は上手く戦えているですよ。背後を取ったこの僅かな隙に素早く魔法をぶつければ勝てるです。


「クックック、隙ありじゃ! わしの究極奥義でトドメを刺してやろうぞ!」


 あ、嫌な予感です。


「――母なる大地の眷属よ! 大いなる星の僕よ! 我に集い、我に従い、破壊の力を齎したまえ! 目覚めし力、金色の渦を成し、不当に踏み荒らす愚か者どもを――」


「ヴァネッサさんそれ長すぎるやつです!?」

「――其の怒れる牙にてほぎゃあああああああっ!?」


 予感通りだったです。悠長に詠唱している間にイザベルさんは余裕で火炎弾の魔法を唱えてヴァネッサさんにぶつけたです。


「今の、仲間がいないと使えないレベルの大技でしょ? もしかしてこの子……バカなの?」


 火達磨になって吹っ飛んでしまったヴァネッサさんは――


「きゅぅ……」


 プスプスと焦げ臭い煙を全身から噴いて倒れ、目を回していたです。


「あーもう! 最後の最後で!」

「全く期待を悪い意味で裏切らないなあいつは! あれだけ前振りしてフラグブレイク狙ってたのに帰りたい!」


 ヴァネッサさんに駆け寄った審判さん(いたんですね)が彼女の状態を見て――赤い旗を挙げたです。

 決着の合図です。


『第一決闘! 勝者は元六つ星冒険者チーム――イザベル・フェイユですわ! 凄まじい魔法戦でしたが、ヴァネッサさんは最後なにをしようとしていたのでしょう、解説のヘクターさん』

『えーと……アレは彼女の悪い癖で、ド派手でカッコイイ大技を――』


 知り合いの恥を解説させられるヘクターくんの顔は、なんとも言えない感じに引き攣っていたです。

 ヴァネッサさんはすぐに意識を取り戻したようで、担架で運ばれる前に黒焦げのままトボトボと控室に戻ってきたです。


「ううぅ……すまぬ、負けてしまったのじゃ」


 いっそ可哀想なくらい項垂れたヴァネッサさんに、わたしたちは――


「本当だよチクショーメ!? お前が勝っていたら次で俺が勝ってさっさと帰れたのに!?」

「あれほど過剰な大技はダメだと念を押したですのになに忘れてやがるんですか!?」

「お主らもうちょっとわしを労わってくれてもよいではないかぁあッ!?」


 けっこう辛辣だったです。


「まあいい、エヴリル。いきなりもう後がなくなっちまった。予定通り俺たちで勝つぞ」

「そうですね、勇者様。わたしの相手はあの盗賊っぽい人になりそうですから、対策を考えておくです」

「切り替え早いのお主ら!? 泣くぞ!? わしもう泣いちゃうぞ!?」


 申し訳ないですがヴァネッサさん、この場において敗者に人権はないんですよ。まあ、もっとちゃんと戦って負けたのだったらわたしもこんな態度にはならなかったですけど。


『それでは第二決闘を始めますわ! 選手は入場してくださいませ!』


 整備が終わって次の決闘のアナウンスが流れるです。


「じゃあ、行ってくる。速攻でただいまするから考える時間あんまないかもしれんぞ」

「お、お手柔らかにお願いするですよ勇者さ――痛ッ」


 なんか今、首の後ろがチクっとしたです。


「ん? どうした、エヴリル?」

「いえ、なんでもないです……」


 虫にでも刺されたですかね?


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