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それでも俺は帰りたい~最強勇者は重度の帰りたい病~  作者: 夙多史
九章 わたしたちの夢のマイホーム
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第七十話 最初から泥船だと思っているです

 ファウルダース家の所有する小闘技場は王都の北東にあるです。

 朝も早くからリリアンヌさんが迎えの馬車を用意してくれたので遅刻はしなかったですね。ベッドに張りつく勇者様を引きずり倒すのにちょっと苦労しただけです。

 そのまま小闘技場の控室に案内され、簡単な説明だけ受けて開始時間まで待機中なのですが……窓から見える観客席を埋め尽くさんばかりの人・人・人。千人は余裕でいそうです。一体どんな宣伝をしたらたかが冒険者の決闘にこれほど集客できるですか。商人恐るべしです。

 というか結局、これといった対策もなく決闘当日を迎えてしまったです。な、なんとかなるですかね? 激しく心配です。


「うっ、思ったより人が多い……見世物……やだ……帰りたい」

「クックック、今こそわしの封印されし力を大衆に見せつける時じゃな。弱き者どもが暗黒の大地に沈む様が目に浮かぶのう」


 激しく心配です!

 勇者様は観客の多さに白目を剥いているですし、ヴァネッサさんは変なスイッチが入ったのか顔を手で覆ってわざとらしく怪しい嗤い声を上げているです。わ、わたしがしっかりしなくては……ッ!


『それではお時間になりましたので、両チーム入場してくださいな』


 拡声の魔法具からアナウンスがされるです。この声はリリアンヌさんですね。見物だけじゃなく司会をやってくれるようです。


「勇者様、ヴァネッサさん、こうなったらもうなるようにしかならないです! 気合いを入れて行くですよ!」

「帰りたい」

「フッ、この地母神の愛娘たるわしに全て任せるがよい」

「……」


 二人とも一回ぶん殴って目を覚まさせた方がいいですかね?


「さあ行くぞヴァネッサ! 誰を敵に回したのか相手チームにわからせてやろうぜ!」

「そうじゃなイの字! お主らの夢はわしの夢でもある! 負けられぬ戦いじゃ!」


 神樹の杖を構えた途端の早すぎる変わり身だったです。しかし妙に息の合う二人ですね。むむむ。

 わたしたちは歓声響く中、割と広めに設計されている小闘技場の対戦フィールドの中央に歩いていくです。

 どうやらどっちが勝つか賭けをやっているみたいですね。わたしたちに賭けてくれている人は圧倒的に少なそうです。まあ、相手は星六つの元冒険者チームですから当然です。勇者様がドラゴンを退けた事実はそんなに広まってないようですし。

 相手チームは既に整列していたです。


「よぉ、会いたかったぞそのマヌケ面に」


 相手のリーダーが勇者様を見るなりメンチを切ってきたです。他の二人もやっぱりあの時の取り巻きさんたちですね。盗賊のような軽装備に身を包んだ男性と、竈王(そうおう)神教会のローブを羽織った女性の魔導師です。


「てっきり俺んちに襲撃かけてくるかと思ったが、少しは自重する脳みそを持ってるようで感心した」

「あぁ!? 本気で殺すぞガキが!?」

「お前の攻撃が俺に通用しないって学習してないの? 帰るなら止めないぞ。俺も帰れるし」

「よーし決定だ。てめえは殺す。殺しは反則だが、なぁに、()()()死ななけりゃいいだけの話だ」


 煽っていくスタイルですね勇者様。この前はかなりビビッていたですのに……いざとなったら、いえ、これは最初から大人げないことやる気満々ですね。


『これより現役五つ星冒険者チームと元六つ星冒険者チームの決闘を行いますわ! 司会・実況はあたくし、リリアンヌ・ファウルダースが務めさせていただきますわ!』


 司会席にいる豪奢なドレスを着た金髪縦ロールの女性は――やっぱりリリアンヌさんです。このイベントを心の底から楽しんでいるような弾んだ声が小闘技場内によく響いているです。


『そしてこちらは解説の――』

『ヘクター・マンスフィールドです』


 ヘクターくんなにしてるですか!?


『あたくしの未来の旦那様ですわ!』

『違います!?』

『彼とあたくしの初めての共同作業ですわぁ!』

『兄貴お願いですから頑張ってくださいッッッ!?』


 頬を赤らめてくねくねするリリアンヌさんに、逆に顔を青褪めて絶叫するヘクターくん。美男美女のカップルに観客たちが冗談混じりの野次を飛ばし始めたです。それにしても本当にヘクターくんはリリアンヌさんのなにが嫌なんですかね? 美人でいい人ですのに……ハッ! まさかヘクターくんそっちの気が……ッ!?

 なんてそんなわけないですよね。勇者様がサムズアップで応えるとぱぁあああっと顔を輝かせて血色を取り戻したことに深い意味はないはずです。


『それでは小難しい挨拶は抜きにして、さっそく第一決闘を始めたいと思いますわ。両チーム、先鋒のお方以外は控室にお戻りください』


 挨拶もそこそこに、ついに決闘が始まるです。緊張してきたです。


『ルールはスタンダードですわ。相手を気絶させるか、降参させれば勝ち。ただし、殺してしまうと反則負けですの』


 相手のリーダーは勇者様を殺す気満々ですけど……。


「じゃあ、打ち合わせ通りにやるぞ」

「わしからじゃな」


 ヴァネッサさんが自信満々な様子で頷くです。決闘の順番は昨日の夜に決めていたです。先鋒がヴァネッサさん、次鋒が勇者様、大将がわたしになっているです。大将は勇者様がやるべきだと思ったですが、万が一にも二連敗してしまうとそこで終わってしまうですからね。確実に勝てる勇者様を二番目に置く作戦です。


「わし一人で三人相手にしてもよいくらいじゃが、ククク、大船に乗ったつもりで期待しておれ」

「エヴリル、準備運動はしっかりやっとけよ。絶対に出番回ってくるからな」

「心配無用ですよ、勇者様。最初から泥船だと思っているです」

「エの字!?」


 ヴァネッサさんには悪いですが、正直勝てる見込みは薄いです。昨日特訓のために近場で魔物退治の依頼を受けた時、わたしでも魔法なしで勝てる小さくて弱い魔物に過剰な魔法を使おうとしてフルボッコにされていたですから……。


『第一決闘! 現役五つ星冒険者チームは地母神教会の魔導師――ヴァネッサ・アデリーヌ・ワーデルセラム!』


 紹介されるとヴァネッサさんは無駄に膨らんだ胸を張ったです。本当に無駄ですね。なんで服の上から揺れるですか。全く羨ましくなんかないです。


「ふぅん、最初は地母神教会の娘ね。なら、アタシが行ってもいいかい?」

「おう、丸焦げにしてやれ」


 別に順番は運営に提出しているわけじゃないので、変えようと思えば変えれるです。やっぱり相手はこちらの状況を見て決めてきているですね。


『元六つ星冒険者チームは竈王神教会の魔導師――イザベル・フェイユ!』


 地母神と竈王神は相性的には良くも悪くもないです。ヴァネッサさんがちゃんと小回りの利く魔法を使ってくれれば勝てない相手ではないと思いたいですが……あの既に勝ち誇った顔が根拠のない自信じゃないことを祈るです。


『それでは――決闘を始めてください!』


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