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それでも俺は帰りたい~最強勇者は重度の帰りたい病~  作者: 夙多史
八章 さりとて俺は病気しない
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第六十三話 待ってられなかったもんで

「やめるのじゃ!? 向こうに行けなのじゃ!? わしを食べても美味しくないのじゃああああああああ!?」


 悲鳴の聞こえた方向に走ると、そこには地竜とも呼べそうな巨大なトカゲがヴァネッサに襲いかかっていた。

 ヴァネッサは鳶色のツインテールを振り乱して全力で逃げているな。走る度に背丈に見合わず豊満に膨らんだお胸様がバインバインして大変目によろしい……じゃなくて、どうやら冗談抜きでピンチらしい。


「あのトカゲ……サラマンダー、だよな?」


 鱗は赤黒くて全体的にゴツゴツしてるけど、どう見てもトカゲだし尻尾にはちゃんと炎が灯っている。嫌な予感、というかお約束な予感がして〈嫉妬の解析眼インウィディア・アナリシス〉を発動させると――


【バグ・サラマンダー】

【ステータス――〈呪い〉】


 ですよねー。

 たぶんゼノヴィアが〈解放〉と称してバグらせまくった魔物の生き残りなんだろうけど、なんで俺の行く先々でトラブルが発生するのん? 運命の嫌がらせを感じます。行く先々で事件に巻き込まれる探偵の気持ちがよくわかる。帰りたい。


「おーい、助けてやろうか?」


 涙目で逃げ回るヴァネッサに声をかけてやると、よっぽど怖かったのか、まるで救世主でも見たかのようにパアァアアと顔を輝かせたよ。


「い、イの字! いいところに来たのじゃ! 早く助け……い、いや、必要ないのじゃ!」


 言葉の途中でヴァネッサはなんかハッとした。それから涙を袖で拭って赤くなった目元を隠すように掌を顔にあてる。例のかっこよさげなポーズである。走りながらだとめちゃくちゃかっこ悪いけど言わないでおこう。


「クックック、このような雑魚魔物なぞ、わしが本気を出さずとも充分。今はただ、ちょっと走りたい気分だっただけじゃ!」

「あーそう? じゃあ俺帰っていい?」

「それはわしが帰れなくなるのじゃ!?」


 ヴァネッサは逃げるのをやめてバグ・サラマンダーの巨体と対峙する。顔には手をあてたまま、もう片方の手に握った石杖でバグ・サラマンダーを指す。


「フッ、鬼ごっこは終わりじゃ。ちょっとでかいトカゲじゃからと調子に乗るでない。お主程度、わしの偉大なる大地の魔法で――」


 ベロン。

 サラマンダーから伸びたカメレオンみたいな長い舌が、ヴァネッサの爪先からツインテールの先まで一舐めした。


「ひゃああああああああああああああああああああああああん!?」


 悲鳴を上げるヴァネッサ。蓬色のローブが唾液でベトベトになっちゃってますな。


「くっ、このっ――猛き大地、騒めき踊るじゃ!」


 気をしっかり持ってヴァネッサは呪文を唱えて石杖を振るう。するとバグ・サラマンダーの足元が隆起し、鋭い大地の槍となってその巨体を突き飛ばした。

 貫けなかったのは、あの赤黒い鱗が硬すぎるからだ。


「あ、気をつけろ。そいつの唾液は発火するみたいだぞ」

「えっ?」


 魔眼が教えてくれた情報で注意を促すが――遅かった。


「ぎゃわああああああああああああああああああああああん!?」


 チロリ、とローブに赤色が灯ると、一瞬でヴァネッサの体が炎に包まれちまった。俺が咄嗟に大量の水を〈創造〉して消火しなければ、こんがり美味しく焼けていただろうね。

 プスプスと焦げ臭い煙を全身から噴くヴァネッサは……服が焼け焦げて大変けしからん格好でございます。ぐだりと脱力した腕を懸命に持ち上げ――


「――恵みの大地よ、我に癒しを与えるのじゃ」


 自分自身に治癒魔法をかけて火傷諸々を回復させた。確かに魔導師としてはかなりできる方じゃないかと思う。服はボロボロのままだけどね。


「こんの、よくもやってくれたのじゃ――」


 ベロン。

 ブチ切れかけたヴァネッサだったが、今度は長い舌が全身に巻きついた。


「ぴゃあああああああああああああああああああああああん!?」


 魔導師としては優秀かもしれないが、あいつ隙が多すぎじゃね? 実戦経験が皆無なんじゃないかと思うくらいに。

 ヴァネッサはそのままバグ・サラマンダーの大口へと引きずり込まれていく。転倒して石杖を地面に突き刺し抵抗しているも、あれじゃいずれ力尽きるな。


「やめろ!? やめるのじゃ!? 食べないでほしいのじゃああああああああああああっ!?」


 これは、ちょっとマズそうだ。


「――〈憤怒の一撃(イラ・ブロー)〉」


 俺の掌から放たれた説明不要の光線がバグ・サラマンダーの舌を焼き切った。解放されたヴァネッサは大粒の涙を流して間に割って入った俺を見る。


「ふえ、えぐっ、助かったのじゃあぁ、イの字ぃ。――ハッ! じゃなくて、た、助けろなんて頼んでいないのじゃ!」


 知ってたけどこいつめんどくせえ!


「お前に死なれちゃ俺が困るんだよ。患者が待ってるんだ。変な意地張ってないでさっさとぶっ倒して帰るぞ!」

「イの字……」


 ヴァネッサがなんか赤くなってきた。唾液が発火する直前だな。仕方ない。もう一度〈創造〉した水を頭からぶっかけて洗い流してやる。もうこれ以上こいつに遊ばせてたら俺が帰れねえんだよ。

 ヴァネッサはついでに頭も冷えたらしく、表情を引き締めて石杖を握る手に力を込めた。


「そ、そうじゃったな。よし、イの字、わしの魔法が完成するまで時間稼ぎを頼むのじゃ」

「長いのか?」

「今までのお返しじゃ。一発ドカンとでかいのをぶち込んでやるのじゃ!」


 それは見物だな。


「――母なる大地の眷属よ。大いなる星の僕よ」


 立ち上がり、石杖を構え、ヴァネッサが呪文の詠唱へと入る。


「我に集い、我に従い、破壊の力を齎したまえ」


 俺はバグ・サラマンダーと対峙する。舌を断ち切られて激おこの巨大火トカゲさんは猛り狂いながら俺に襲いかかってきた。


「――目覚めし力、金色(こんじき)の渦を成し」


 掌を翳す。正面から来るなら迎え撃つまでだ。


「――不当に踏み荒らす愚か者どもを」


 放て! 俺の帰りたい感情のストレス的波動! 〈憤怒の一撃(イラ・ブロー)〉! 敵は死ぬ。……あっ、ホントに消し飛んじまった。


「――其の怒れる牙にて噛み砕くのじゃ!!」


 ヴァネッサの魔法が解き放たれる。大地が破裂し、竜巻のように荒れ狂い、宙に打ち上げられた無数の地塊が尖鋭な刃となって降り注ぐ。


 が、そこにはもうバグ・サラマンダーはいない。

 超威力の岩礫がドッカンドッカン虚しく降り注ぐだけだった。わーい! 空振りしたせいで地面がめっちゃ揺れてるよ! 帰りたい。


「……」

「……」

「……」

「……なんで先にトドメを刺すのじゃ?」

「待ってられなかったもんで」


 俺にジト目を向けてきたヴァネッサは――ぷくぅ。フグのようにほっぺを膨らませた。結果オーライだからいいじゃないか。めんどくさいな。

 睨んでくるヴァネッサから目を逸らすと、その辺を這っていた通常サイズのサラマンダーを発見。手を伸ばすと勝手に尻尾を切ったので楽に入手できた。


「ほら、サラマンダーの尻尾手に入れたぞ。帰るぞ」

「なんか釈然としないのじゃ」


 尻尾を差し出す。ヴァネッサはまだ不満そうに唇を尖らせつつ、俺から受け取った尻尾を特殊な魔法瓶に入れた。

 と――


 ドゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!


 火山の頂上辺りから凄まじい爆発音が響き渡った。地面がさらに激しく揺れる。心なしか気温も上昇していくような気がする。

 見れば、どでかい火柱――もとい、溶岩柱が頂上から煌々と噴き上がっていた。


「おいコラ、お前の魔法でしっかりトドメ刺してんじゃねえか火山に!?」

「噴火したのじゃ!? 早く逃げるのじゃイの字!?」


 言われなくてもそうするよ。幸い〈古竜の模倣(ドラゴンフォース)〉は解除しないままだったからな。このまま飛んで帰る。

 超帰る!

 火山の噴火? 自然災害だからしょうがないね。俺たちはなんにも関与してません。


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