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それでも俺は帰りたい~最強勇者は重度の帰りたい病~  作者: 夙多史
六章 俺は絶対に結婚なんてしない
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第四十話 警備しようぜ!

「天のお父様、これから一日の仕事が始まります。どうか今日一日、平和に帰宅できるようにお導きください」

「お祈りしてるところ悪いですが、『天のお父様』ってこの世界だと天空神ウラヌス様のことになるですよ?」

「そうだったあのヒゲジジイ降りて来い踏み潰してやるッ!!」


 公衆の面前だろうが敬虔なる信徒の面前だろうが知ったことではない。俺を理不尽にも異世界に放り込んで、異変とやらを解決したのに元の世界に帰らせてくれないヒゲを敬う広い心なんて持ち合わせていないんだよ。

 まあ、本当にアレが異変だったのかはわからないが、違うなら違うと一言言ってくれれば百回くらいぶん殴るだけで許してやったものを……いや足りないな。五百にしておこう。


 あの〈呪いの魔女(カース・ウィッチ)〉――ゼノヴィアを捕まえてから数週間が過ぎている。王都の復興はもうだいぶ落ち着き、元の賑わいを見せ始めていた。多少隕石の破片が降ってきた程度だからな。そこまで壊滅的な被害じゃなかったってのが幸いだった。

 冒険者ギルドも再開したため、俺たちは今まで通り依頼を受けてこなす日々を過ごしていた。

 神からのコンタクトもなければ、新しい異変の兆候も見られない。

 日常をこよなく愛する俺だが、元の世界に帰るためにはなにかあってもらわないと困るんだよ。なんなら魔王とか出現したりしないかな。

 まあ、そういう情報を集めるためにギルドに入ったわけではあるんだが――


「よぉ、帰宅勇者! 毎日毎日彼女と一緒で見せつけてくれるねぇ!」

「ドラゴンを追い払った英雄だってのに今日もシケたツラしてんなぁ! ガハハ!」

「エヴリルちゃん、いつでもウチに移籍してもいいんだよ?」

「おう、二人ともこっち来て飲め飲め!」


 いきなり酒盛りしている筋肉四人組に絡まれたからもう帰っていいですか?


「何度も言ってるけどあんたらと飲む気はねえよ」

「だからわたしは彼女じゃないです! あと絶対そっちには行かないですから!」


 こうやって飲み会を断る日常が来るなんて社会人になったみたいです。ん? 社会人なら断れないのか? いやまあ、あいつら俺の上司じゃないから別にいいか。


「にしてもあの筋肉チームはいつ働いてんだ?」

「わたしも飲んでる姿しか見たことないですね」


 でも毎日飲んでるってことはちゃんと稼いでいるってことだよな。夜の仕事を請け負っているとか? なにそれ夜勤とか死ぬほど帰りたい。

 俺は普通に仕事して普通に帰るもんね。定時で。もちろん定時で! なんならさっさと終わらせて定時前に早退するまである。


「ん? あれ? ヘクターはどこだ?」


 いつもなら俺より先に来て掲示板の前で待ってるはずのパーティーメンバーが今日はいないぞ。遅刻か? オフトゥンが手放せなかったって理由なら許す。それは自然の摂理であるからして。台風で電車が止まるのと同じレベル。


「あ、ヘクターくんですが、今日は商会の方の仕事があるって昨日言ってたです」

「え? なんでエヴリルさんにだけ話してるの? いつ聞いたんだ?」


 このパーティーのリーダーって俺じゃなかったの?


「昨日の仕事が終わった後です。勇者様は聞く前にさっさと帰ったじゃないですか」

「仕事が終わったら一秒でも早く帰りたいだろ。もたもたしてると上司に捕まって余計な仕事をやらされて残業することになるから気をつけろって俺の家にご先祖様から代々伝わっています」

「勇者様は家系から帰りたい病だったですか!? 薄々思っていたですが!?」


 しかし困ったな。ヘクターがいればいつも程よい仕事を見つけてくれているんだが……今日は自分たちで探すしかないか。

 薬草採取の依頼来てないかな? ちょっと王都の外に出てちょっと近くの森まで行ってちょっと摘んで帰るだけの簡単なお仕事。何度もやってるから効率よく事が運ぶのだ。

 ……ないな。そういえばドラゴンが森を焼いたんだった。


「勇者様、今日はせっかくですので上のランクから仕事を選ぶです」

「なんだと!? 正気か!?」


 難しい仕事って数日かかるものもあったりするんだぞ! それをエヴリル、お前というやつはッ!


「わたしたちの冒険者ランクは上がってるですのに、いつまでも星二つの仕事ばかり受けるわけにはいかないです!」


 エヴリルは眉を吊り上げて俺を睨んだ。ドラゴンを退けた俺たちには七つ星が付与されるという話になっていた。星七つと言えば王国に二つしか存在しない伝説級の冒険者チームのレベル。王都ギルドにも一チーム所属しているが、だいたいいつもどこかに出ていて未だに顔を合わせたことのない連中だ。

 そんな伝説の仲間入りを、俺はやんわりと断った。何ヶ月も帰れなくなるとか馬鹿じゃないの?

 だがギルドと王国、あとついでにエヴリルさん的にはドラゴンを追っ払った英雄を昇格させないわけにはいかず、妥協点として星五つをもらうことになったわけだ。星五つでも充分ハイランカー。俺としてはもう二つくらい下がよかったなぁ。向上心なんて犬にでも食わせろ。


「いきなり星五つはわたしが足引っ張っちゃいそうですから……星三か四の仕事を……」


 くっ、エヴリルさんが探し始めたぞ。こうなったら俺が先に星二つから素晴らしい仕事を見つけるしかないな!


「あっ、これって……」


 ちくせう!? エヴリルさんが一枚の依頼書を手に取ってしまった!? 早く! 早く俺も! ええい星二つならなんでもいいや!


「勇者様! 貴族様の結婚式の警備依頼があるです! これにするです!」

「いやいや! それより俺はこの仕事がしたいッ!」

「王都中のドブさらい……? ゆ、勇者様がそんな単純だけどとても一日二日じゃ終わらなさそうな肉体労働をやりたいなんて」

「警備しようぜ!」


 俺は自分が引っぺがした依頼書を丸めてポイした。受付のお姉さんがすごい睨んできたから後で直しておきます。すみません。


「――って、結婚式だと?」

「はいです。なんか結婚式を中止させるような脅迫状が届いたとかなんとか。貴族様たちの正規の護衛もいるようですが、わたしたちは参加者のフリをして警戒してほしいとのことです」

「中止すればいいだろ。結婚式なんて」


 ゴッ!


 神樹の杖で殴られた。

 なぜだ? 結婚式を挙げなくても結婚はできるだろ。それともこの世界では儀式として必須なの?


「まったく、勇者様に結婚式の素晴らしさを伝えるには丁度いい依頼です」

「やだ行きたくない帰りたい!? 参加者ってことはお祝儀とかいるんじゃないのビンボーな俺たちにそんな大金払えませんッ!!」

「仕事ですから必要ないです! いいから依頼人のところに行くですよ!」


 なんとか別の仕事を、と思って俺は掲示板と睨めっこするが、残念ながらエヴリルさんが受付のお姉さんに依頼書を持って行ってしまった。

 知り合いの結婚式にも行きたくないのに、見ず知らずの他人の結婚式なんて帰りたいだけだぞ。

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