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第三十四話 魔物にも宗派とかあんの?

 どこかの空間と繋がった黒い穴から俺はポイッと放り出された。


「くそっ」


 どこだここは? 位置は空のままで、景色はあんまり変わってない。けどゼノヴィアはもちろんドラゴンの姿は見えないな。

 あの魔法は〈解析〉によると、吸い込んだ物体を半径五十キロ圏内の座標にランダム転移させるものだ。好きな場所に出られるなら超俺得だったのにちくしょー。

 とりあえず、どっちに飛べば帰れるんだ? GPSが使えたらなー。現在位置なんて一発なんだけどなー。


「勇者様!」


 お? エヴリルの声が聞こえたぞ。そんな馬鹿な。やばい、帰りた過ぎて幻聴を聞いちゃったかもしれん。まさかランダムに飛ばされた場所に偶然エヴリルたちがいたなんてご都合的な奇跡があるわけ――


「勇者様!!」


 あった。

 ラティーシャと一緒に綿毛鳥に乗って後方から飛んで来てました。助かった。これで方角がわかる。


「なにがあったのだ、勇者殿? 突然黒い穴から出てきたように見えたが……?」

「あの魔女っ子に強制転移させられたんだよ。面倒なことにな」


 二人と出くわしたということは運がよかった。まあ、本当にラッキーなら王都の宿のオフトゥンへ直行なんだけどね。


「彼女は〈呪いの魔女(カースウィッチ)〉とか言ったな?」


 ラティーシャが難しい顔をして考え込んだ。


「知ってるのか?」

「前に一度聞いた話を思い出したのだ。〈呪いの魔女(カースウィッチ)〉――彼女は暗黒神教から異端者として追われているらしい。王宮にも手配書が回っていた」

「異端? 暗黒神教自体が邪教とかそんなんじゃねえの?」

「いや、聞こえはあまりよくないが、暗黒神は悪ではない。天空神が風を司るように、暗黒神も闇を司っている。無論、自然としての闇だ」


 闇=悪じゃないってことか。そういう概念の話ならゲームでもよくあるから理解できる。というかこの世界、属性ごとに神がいるのね。恨むべきは俺をこの世界に引きずり込んだ天空神のジジイだけか。気をつけよう。


「どうして異端者扱いになったです?」

「禁忌に手を出したのだ。恐らくそれが君たちの言う〈呪い〉のことだろう」


 本人は〈呪い〉じゃなく〈解放〉と言っているけどな。人間の存在に縛られることなく、魔物が自由に好き勝手できる世界。そんな世界になるなら俺は全力で元の世界に帰るわ。いつも全力だけど。

 ん? ちょっと待て。


「あいつ、魔物に拾われて育てられたとか言ってたぞ? 魔物にも宗派とかあんの?」

「え? 魔物にですか?」


 人間の言葉を喋るし、服だって人間のものを着ていた。ずっと魔物と暮らしていたならそうはならないはずだ。もっとこう、文字通りの野生児になってるんじゃないか?


「ふむ……となると、暗黒神教がその魔物を討伐した際に保護したのかもしれないな」


 それなら筋は通るな。人間を嫌っている感じも理解できる。なにかしてやりたいと思わないわけでもないが、困ってる女の子を見かけたらなりふり構わず手を差し伸べるラブコメ的主人公に俺はなる気なんてない。

 ゼノヴィアは敵で、俺は帰りたい。戦う理由はそれで充分だ。

 なんにしても、俺たちの価値観を一方的に押しつけていい話じゃなさそうだからな。


「まあ、あの魔女っ子の過去なんてどうでもいいか。今は関係ない。それより王都はどっちだ?」


 ラティーシャが指を差す。


「このまま北へ真っ直ぐだ」

「よし、すぐに追うぞ!」


 話し過ぎた。こうしている間にもドラゴンは王都に近づいているんだ。今の俺はドラゴンより速く飛べるけど……追いつけるかな? 

 いや、追いつくしかない。

 相手は俺の〈憤怒の一撃(イラ・ブロー)〉ですらたいして効かないが、倒す手段がないわけじゃない。追いつけさえすればなんとかなる。


「待つです勇者様!」


 と、飛び立とうとした俺をエヴリルが引き止めた。その真面目な声音を俺は無視できず、振り返る。

 エヴリルは悔しそうに神樹の杖を握り締めていた。


「わたしはあの魔女さんに比べたら魔導師としてまだまだ未熟です。飛行や転移なんて高等な魔法は使えないです。でも、それでも、勇者様のお役に立ちたいです!」


 エヴリルは瞳に力強い意志を宿して俺を見詰めた。自分にできることを精一杯考えて、考えて、考えて――そして彼女は提案する。


「気休め程度かもしれないですが、風の加護で勇者様の移動速度を上げることはできるです」


 それはなんともありがたい申し出だった。


「頼めるか?」

「お安い御用です!」


 俺に頼まれたエヴリルは、ぱぁあああっ。花咲くように、笑った。

 基本的にチート能力で大体のことはできちまう俺からの頼み事だからな。いつも見ているだけのことが多いエヴリルにとっては嬉しいのかもしれない。


「行くですよ!」


 エヴリルは杖を翳し、呪文を唱える。


「碧天を流浪せし疾風の使徒よ。彼の者に瞬迅の加護を与えるです」


 ヒュルッ、と俺の足元から風が巻き起こった。その風はやむことなく、俺に纏わりつくように流れ続ける。


「おお? なんか体が軽くなった」


 気がするってレベルじゃない。今までがくっそ重い亀の甲羅でも背負ってたんじゃないかってくらい軽いぞ。これなら一気に追いつけそうだ。


「勇者殿、これは王女として頼む。どうか王都を守ってくれ」

「わたしたちもすぐに追いつくですから」

「ああ、任せろ」


 俺はエヴリルたちに頷くと、初速からマックススピードで王都の方角を目指した。


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