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それでも俺は帰りたい~最強勇者は重度の帰りたい病~  作者: 夙多史
四章 わたしと勇者様とドラゴン退治
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第三十話 これが勇者様の力です

 ワイバーンは小さいドラゴンです。小さいと言っても牛の二倍はあって、飼い慣らせば人を乗せて飛ぶこともできるそうです。どこかの国ではワイバーンに乗った竜騎士がいると聞いたこともあるです。

 ただ、モーランの村を襲っているワイバーンはやっぱり様子がおかしいです。

 頑丈そうな黒い鱗に覆われ、ドス黒い瘴気が体中から溢れているです。わたしの村を襲ったエッジベアのリーダーと特徴がよく似ているです。


「バグ・ワイバーン。くそっ、やっぱり〈呪い〉の魔物かよ!」


 青い目になって魔物を〈解析〉した勇者様が叫んだです。わたしたちの目的のドラゴンとは違うですが、嫌な予感が当たってしまったですね。


「行くぞ!」


 王女様は綿毛鳥をそのまま村に突っ込ませたです。


「エヴリル殿! 君は村人たちの救助と避難を! 勇者殿は私と魔物を蹴散らすぞ!」

「了解です!」


 王女様は綿毛鳥の荷物にいつの間にかこっそり積み込んでいた大剣を引っ手繰ると、勇者様と一緒に背中から飛び降りたです。


「――ってこれわたしどうすればいいです!? 手綱渡されても困るです!?」


 実は馬にも乗ったことないですよわたし!? この手綱をどう操作すれば綿毛鳥が思った方向に動いてくれ……あ、この子ちゃんと降りてくれたです。わかってるです。頭のいい子です。

 わたしは綿毛鳥の背中から降りると、まず近くに人がいないか探すです。その間にワイバーンが一匹襲ってきたですが、綿毛鳥が翼で払ってくれたです。綿毛鳥の大きさはワイバーンの三倍はあるですからね。頼もしいです。


「逃げ遅れた人はこっちに来てくださいです! この子の傍なら安心です!」


 わたしが呼びかけると、あちこちから何人か出てきたです。子供やご老人、赤ちゃんを抱っこしたお母さんもいるですね。


「あっ!」


 村人たちを見つけたワイバーンが三頭、こちらに突っ込んでくるです! まずいです。ここからだとわたしの魔法は間に合わないです!


「そうはさせるか!」


 そのワイバーン三頭を、間に飛び入った王女様が大剣を一薙ぎするだけで斬り飛ばしたです。助かったです。王女様、やっぱり強いですね。

 わたしも――


「――舞い降りしは旋風! 天空神の加護の下、我らを守る楯となれです!」


 わたしたちの周囲に風が渦巻き、ワイバーンが侵入できない壁を作ったです。風の結界魔法。この中にいればひとまず安心ですね。

 王女様は結界の外でワイバーンの首を斬り落としながら――


「被害の状況からして、まだ襲われてそう時間は経っていないだろう。勇者殿の言う通り、のんびり馬で来ていたら間に合わなかった」


 三日もかかっていたらとっくに壊滅していたですね。感謝するのは勇者様じゃなくて綿毛鳥を連れて来たヘクターくんです。


「わたしはここで結界を張っているです。すみませんが王女様、他に逃げ遅れた人がいたらここまで誘導してほしいです」

「そうしたいところだが……」


 王女様はワイバーンの吐いた炎を大剣で振り払ったです。そして横から大口を開いて噛みついてきた一頭をかわすと、その頭に左手を置いて地面に叩きつけたです。もがくワイバーンの首を素手で折ってトドメを刺し、そのまま別のワイバーンに投げつけたです。なんて力技。

 気づけば、大量のワイバーンがわたしたちの周りを取り囲んでいたです。


「こう数が多くてはエヴリル殿の結界が保たない。寧ろ魔物をこの場に引きつけ、殲滅する方が得策だろう」


 確かにこのまま騒いで、村を襲っているワイバーンが全部わたしたちのところに来れば他は安全になるです。


「さあ、来い! ワイバーンども! 私がまとめて相手になってやろう!」


 王女様がワイバーンを呼び寄せるように大声で叫んだです。数は十や二十は超えているです。それら全部一気に相手にしようとしている王女様は……なんで楽しそうに笑っているですか?

 まったく、その必要はないですよ、王女様。


「目には目を。歯には歯を。数には――数だ」


 だって、勇者様がいるですから。


「〈強欲の創造アワリティア・クリエイト〉――F-2戦闘機を三十。10式戦車を二十」


 その声が聞こえた瞬間、地上と上空に見たこともない鉄の魔物が召喚されたです。いえ、地上の足が芋虫みたいな魔物は前に一度あるですね。あの砲台の角からとんでもない威力の攻撃をするです。

 上空のは……鉄の鳥ですかね? お腹に響く轟音を発しながら物すごい勢いで飛び回っているです。そして空にいるワイバーンたちを――バババババババッ! なんかよくわからないですが、たぶん弾丸を飛ばして次々と撃ち落としていくです。


「これは……勇者殿は召喚魔法も使えるのか」


 王女様も目を見張って驚いているです。わたしも最初はこんな顔していたんですかね?


「これが勇者様の力です。まだまだこんなものじゃないですが、とりあえず王女様も結界の中に入ってくださいです。巻き込まれたら大変です」


 わたしの力じゃないのに、なんだか胸を張りたくなるですね。

 上空と地上。勇者様が召喚した鉄の魔物たちは、あっという間にワイバーンの群れを減らしてしまったです。

 これならすぐに殲滅が完了するですね。


《まったく酷いのよ。彼らはただ食事をしていただけなのに》


「えっ?」


 どこからともなく声が聞こえたです。


「王女様、なにか言ったですか?」

「いや、私はなにも」


 王女様が首を横に振った、次の瞬間だったです。


《可愛い魔物たちを殺す悪い子は、消えてしまえばいいのよ》


 再び女の子の声が聞こえたと思ったら……ゆ、勇者様が召喚した鉄の魔物たちが、まるで闇に侵食されるようにボロボロと朽ちて消え去ってしまったです。


「なっ!?」


 一番驚いているのは、勇者様だったです。


「またお前なのよ。あたしの邪魔をしないでほしいのよ」


 今度ははっきり聞こえたです。残りのワイバーンを引き連れて、純黒のドレスを纏ったお人形さんみたいな女の子が箒に乗って空に浮かんでいたです。

 わたしと同い年くらいですかね。黒くて長い髪に赤紫色の瞳。肌の色は白磁のように白くて、触れたら砕けてしまいそうな儚さがあるです。


「お前は誰だ? お前が魔物を呪っているのか?」

「〈呪い〉だなんて酷いのよ。あたしは魔物たちの本能を縛りから〈解放〉しているだけなのよ」


 勇者様の問いかけに、女の子は妖艶に笑って口を開いたです。


「あたしはゼノヴィア。〈呪いの魔女(カース・ウィッチ)〉と呼ばれているのよ」


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