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第二話 オフトゥンは世界の宝だと思うの

 初めに言っておくと、普通の物語として語られる冒頭はとっくに終わっている。

 俺こと伊巻拓(いまきたく)がなんやかんやで異世界に飛ばされ、なんやかんやでチート能力を得て、なんやかんやで魔物を倒してしまって、なんやかんやで勇者として崇められ以下省略。なんやかんやが知りたければ、その辺にゴロゴロ転がっている異世界トリップ系の小説を読むといい。だいたい合ってるからさ。


「人はなぜ戦うのか。戦う理由があるからだ。つまり戦う理由のない俺は戦う必要なんてなく、命を懸ける必要なんてなく、かと言ってネットもテレビもない見知らぬ異世界の街で楽しく過ごすなんて現代っ子の俺には到底無理なわけで、なにが言いたいかと言うともう帰りたい」


 王都にある宿屋のベッドに寝っ転がって有り難い演説を唱えてあげると、ベッド脇に立つ魔法使い然とした格好の美少女が呆れたようなジト目で口を開いた。


「またなにをダメ人間みたいな寝惚けたこと言ってるですか勇者様」


 エメラルドのように綺麗な長い緑髪にクリっとした大きな青い瞳。ミルク色の滑らかなお肌にはシミもソバカスもなく、胸はなくはないんだがちょっと残念な部類かな。大きな三角帽子に黒いマント、手には神樹の枝から作られたらしい杖を握っている。

 名前はエヴリル・メルヴィル。職業は見ての通り魔導師。

 年は十五。俺より一つ下の女の子だ。


「いいかエヴリル、どんな生物にも帰巣本能ってものがあってだな。最初こそ『うっひょ異世界マジやばくね? 貰った能力強すぎ超ウケるんですけど魔物よえーwww』ってテンション上げて調子乗ってたけどさ、いざ冷静になってみたらなんか虚しくなってもう帰りたい」

「それ帰巣本能じゃないと思うです」


 エヴリルは俺が神的な存在によってこの世界に召喚されてから初めて遭遇した人間だ。ポジション的にはメインヒロインなんだけど年下はなぁ……可愛いんだけどなぁ……リアル妹と同い年ってお兄ちゃん的倫理観がゲシュタルト崩壊起こしそうでとりあえず帰りたい。


「とにかくもうすぐお昼になっちゃうです! 起きてくださいです!」

「起きてるじゃないか?」

「ベッドから下りろと言ってるです!?」

「えー」

「えーじゃなくて!?」

「オフトゥンは世界の宝だと思うの。だから俺はこれを守る番人になる」

「なんですかオフトゥンって!? またわたしの知らない異世界用語並べ立てて誤魔化そうとしたってダメですからね!?」


 ぷんすか怒って俺をベッドから引きずり下ろすエヴリル。嗚呼、オフトゥン。君と俺は離れ離れになる運命なのか……。

 まあ、仕方ないから着替えることにしよう。


「――っていきなりなんで服脱ぎ出すですか!?」


 上半身裸になった俺を見てエヴリルは顔を真っ赤にして両手で目を隠した。でも指の隙間からしっかり見ているな。こんな平凡な男子高校生の体見てなにが楽しいのかね?


「いや、着替えを……あ、しなくていい? ベッドに帰っていい?」

「このダメ勇者様!?」


 杖で殴られた。割と痛い。神樹の杖は人の脳天をぶっ叩くための道具じゃないと思うの。


「き、着替えたらお仕事行くですよ!」

「仕事……うっ、頭が」

「仮病禁止!?」

「違うんだ。働きたくないわけじゃなくて、俺はただ帰りたいんだ」

「言い訳が意味不明です!?」


 伝わらなかったか。

 働かざる者食うべからず。理屈はわかる。タダ飯は気持ち的に美味いけど、働いた後の飯は味覚的に美味い。ニートと呼ばれるのは大変不名誉なので俺は働く。どこの世界でも働いて稼がなきゃ生きていけないもんな。


 その辺は俺だってちゃんとわかっている。

 わかっているんだが……。

 それでも俺は帰りたい。

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