第二十七話 貧相というのはですね、わたしみたいな人のことを言うですよ
それから一時間ほど経ったです。
「すまない。私としたことが、先ほどは見苦しい姿を見せてしまった」
なんと、王女様が勇者様に頭を下げたです! 一国の王族のお方が勇者様みたいな底辺ゴミクズ人種の帰りたい病患者なんかに謝罪するなんて普通は大変なことですよ。ちなみに王女様は新しい白銀鎧を装着しているです。顔はまだほんのり赤いですね。
「いえいえ、王女様が謝ることじゃないですよ」
寧ろ勇者様の方こそ地面に顔を埋める勢いで謝るべきです。
「いや、このような貧相な体はさぞ見苦しかったろう。私は力こそあるが、ギルドの男衆のような美しい筋肉ではないのだ」
「そっちですか!?」
普通に裸見られたから恥ずかしがってたわけじゃないんですか……? 脳筋さんの考えはよくわからないです。
「王女様は全然貧相なんかじゃないですよ! 貧相なんかじゃ……」
わたしは王女様のばいんと膨れた胸を見てしまったです。
「貧相なんかじゃ……」
続いて自分の申し訳程度に服を押し上げる胸を見るです。
「貧相というのはですね、わたしみたいな人のことを言うですよオノレオノレオノレ……」
「どうしたのだエヴリル殿!? 急に目が死んだぞ!?」
なんかこの話題はもう嫌です。帰りたくなってきたです。
まあ、帰る前に、勇者様を出してあげないとですね。
牢屋から。
勇者様はその、事故とはいえ王女様を引ん剥いた罪で逮捕されていたです。
「ほら勇者様、王女様のおかげで釈放許可が下りたですから、ベッドで毛布に包まってないでここから出るですよ」
「俺、オフトゥンさえあればなにもいらない気がしてきた。もうここに住む」
「誰ですか勇者様にベッドと毛布を与えたのは!?」
これじゃ勇者様が出て来ないじゃないですか! 勇者様を閉じ込めるならベッドなんていらないです! 藁だけでいいですよ!
「ふむ、状況はよくわからんが、とりあえず牢を開けよう」
「そうですね。ちょっと待ってくださいです。今看守さんから鍵を――」
バキッ! ガチャ!
「開いたぞ」
「開いたぞじゃないです!? せめて鍵を使って開けないと看守さんが泣くですよ!?」
この人普通に素手で牢屋の鉄扉を壊しちゃったです。これじゃ勇者様が脱獄したみたいになっちゃうじゃないですか。ほら、向こうで看守さんが「えー」って顔してるです。
まあ壊れた物はしょうがないです。わたしは悪くないです。知らないです。
「勇者様、起きてくださいです。本当に一生牢屋で過ごすつもりですか?」
「それも悪くないかなぁ、と最近思うようになりました」
「悪いですからはよ起きろですこのダメ勇者様ッ!?」
わたしはいつも朝にやるように勇者様の毛布を引っぺがしてベッドから蹴り落としたです。今日も結局やらなきゃいけなかったですね。なんか悔しいです。
「勇者殿はいつもこうなのか?」
「そうです! 勇者様はいっつもダメダメです!」
ほら見てくださいです。王女様にも飽きられてしま――
「なるほど、筋肉は破壊と超回復によって作り出される。今はこうして体を休めることで無駄な筋肉の消耗を抑えているわけだな。参考になった」
「ちょっと王女様がなに言ってるかわからないです」
なんであんなダメダメな姿を見て感心できるですか? わたしにはもうなんかいろいろとわからないです。
「さてエヴリル、帰るぞ。牢屋の硬いオフトゥンも慣れれば悪くなかったけど、やっぱり我が家が一番だ」
「あ、待ってくださいです勇者様! まったくもう、ベッドから出たら無駄にはきはき動くですから」
牢屋から出てきた勇者様は軽く伸びをして出口へと歩いて行ったです。わたしも慌ててついて行くです。でもなんか大事な用事を忘れている気がするですね。
「君たち、なにを帰ろうとしている? これからドラゴンを退治しに行くのだぞ」
あ、そうだったです。そもそもそういう話で勇者様が捕まって牢屋にぶち込まれることになったんですよ。……意味がわからないです。
「辞退します」
「今サイラスが監獄の外に馬を用意しているところだ」
「今日はもう疲れたので出発は明日がいいと思います」
「君たちは先行してドラゴンの居場所を探ってもらうことになる」
「あんなところに上腕二頭筋が!」
「なに!? どこだ!?」
どこだもなにもそんな猟奇的な物体が落ちてるわけないですよ。ていうか、勇者様も段々と王女様の扱い方がわかってきたみたいですね。
会話にならないから今の隙ついて逃走してしまったです。




