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それでも俺は帰りたい~最強勇者は重度の帰りたい病~  作者: 夙多史
四章 わたしと勇者様とドラゴン退治
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第二十六話 今すぐこの場から野郎どもを排除するです!

「話の通じない上司に海外出張を命じられて強制的に外国語のお勉強会に参加させられた気分。帰りたい。オフトゥン」


 ギルドの前の通りに出て王女様と対峙した勇者様は、なんだかこの世の終わりのような顔をしてぶつぶつ呟いていたです。


「さて、始めよう。君が勇者と呼ばれる所以、この目で確かめさせてもらう」


 そんな勇者様のことなんてお構いなしに、王女様は兵士さんが五人がかりで運んできた大剣を片手で軽々と持ち上げたです。


「ちょっとすみませんです」


 わたしは野次馬さんたちを押しのけて勇者様の傍に近寄ったです。


「勇者様、これもうドラゴン退治しちゃった方が早く終わる気がするです」

「俺もそんな気がしてきた」


 勇者様は一つ溜息。このまま抵抗を続けても、あの王女様はきっと勇者様が従うまで付き纏いそうです。その間に被害が拡大してしまうかもしれないですし、ここは素直に従うべきだと思うですよ。


「わかった。もうこんな試験さっさと終わらせてドラゴンでもなんでも退治してやるよ」


 諦めた勇者様の顔つきが変わったです。やっと切り替わったですね。普段はダメダメな勇者様ですが、いざ仕事を始めるとこういう真面目な顔もしてくれるです。


「フフ、よい顔になった。では行くぞ!」


 王女様が好戦的に笑って大剣を構えたです。

 すると――


「お待ちください、王女殿下」


 兵士さんたちの中から、漆黒の豪奢な鎧を纏ったダンディなおじさんが王女様の前に進み出て来たです。


「なんだ、サイラス?」


 水を差された王女様は少し不機嫌そうになってサイラスと呼ばれた兵士さんを睨んだです。


「あの人は……?」

「サイラス・ボージェス。グレンヴィル王国軍の三大将軍の一人ですよ、エヴリルさん」


 ヘクターくんが教えてくれたです。将軍さんですか。普通の兵士さんたちと比べたら雰囲気からして違うですね。

 将軍さんが王女様に言うです。


「此度は戦闘技能を見る試験。王女殿下では力が強過ぎて検証できぬでしょう。私にお任せください」

「それは私が君に剣術で劣るから、と言っているのか?」

「加減の尺度が一般とかけ離れている王女殿下では街を破壊し兼ねないと申しているのです! 先日の訓練中に乱入してきて王宮の塔を一つ崩壊させたことをお忘れですか!」

「あ、あれは……塔が脆いのが悪いのだ」


 王女様はバツが悪そうにそっぽを向いたです。いやいやいや、塔を一つ崩壊って……一体なにをどうしたらそうなるですか!


「だいたい腕相撲をしただけでギルドの備品が壊れたり壁に穴が開いたりするのですよ! こんな街中で王女殿下に戦闘など、とてもじゃないですが許可できません!」


 ごもっともだと思ったです。兵士さんやギルドのみんなもうんうんと頷いていたです。


「むむむ……わかった。技能試験は君に任せよう」


 物すごく不満そうに唇を尖らせて王女様は下がったです。将軍さんが常識人でよかったです。なんだか親近感が湧くですね。


「冒険者の君も、それで構わないかね?」


 将軍さんが勇者様にも確認を取るです。勇者様は軽く肩を竦めたです。


「どうでもいいよ。どの道帰らせてはくれないんだろ? まあ、これ以上女の子をぶっ飛ばさなくて済んだってところは安心したね」

「フン、大した自信だ。私や王女殿下に勝てるつもりでいるとはな」


 将軍さんは鼻息を鳴らして腰に佩いた剣を抜いたです。


「負けたら帰っていいなら、あんたの名誉のためにも負けてやるけど?」

「情けを貰って守られる名誉などいらぬ。……む? 武器を持っていないのか? おい、誰か剣を貸してやれ!」

「必要ない」


 勇者様は〈創造〉の力で将軍さんと同じ剣を生み出し、同じ構えで握ったです。既に〈模倣〉は王女様から将軍さんに変わっているみたいですね。


「今のは魔法……か? なるほど、王女殿下に腕相撲で勝ったのも魔法の力というわけか」

「正確にはちょっと違うが、卑怯だと思うか?」


 思うです。


「いいや。魔法も実力の内。冒険者の君に騎士道を問うつもりはない」

「そうか。じゃあ、遠慮なく使うぞ」


 先に地面を蹴ったのは勇者様だったです。一瞬で将軍さんとの間合いを詰めて、剣を下から掬い上げるように振るったです。


「ぬぅ!?」


 勇者様の動きに驚いた将軍さんだったですが、すぐに対応して勇者様の剣を自分の剣で受け止め、受け流し、そのままの勢いを乗せて斬り返したです。勇者様も同じように受け流しからの斬り返し。将軍さんは今度は受け止めずにかわし、剣を刺突に構えて目にも留まらぬ速さで連撃を繰り出したです。

 その連撃を、勇者様は最小限の動作だけで全部かわしちゃったです。

 勇者様は息もつかせず同じ刺突の連撃を将軍さんに放ったです。将軍さんは剣で防ごうとしたですが、いくつかを鎧で受けることになってしまったです。


「私と同じ剣技……だが私より速く重いだと?」


 堪え切った将軍さんは驚愕に目を見開いていたです。


「す、すごいです……」


 わたしはつい感嘆の声を漏らしたです。勇者様のことじゃないです。将軍さんのことです。今の勇者様は将軍さんより強くなっているはずなのに、将軍さんはすぐにやられていないですよ。


「サイラス将軍ほどの達人になると〈模倣〉して超越しても大差ないのかもしれませんね。これは、決着は長引きますよ」


 手に汗握って二人の戦いを見ていたヘクターくんが予想を口にしたです。たぶん当たっているです。ほら見てくださいです。勇者様が面倒臭そうな顔をしてるです。

 このままだと三分以上経過して、勇者様の〈創造〉した剣が消えちゃうです。そうなったらもう一度〈創造〉する前に将軍さんが勝ってしまうですよ。


「実力はサイラスより上だな。よしよし、ならば私が代わろう!」

「王女殿下は私の後ろで見ていてください!?」

「……サイラスの石頭め」


 将軍さんは王女様とは絶対に交代せず、勇者様に斬りかかったです。王女様はぷっくりと頬を膨らませて戦いを見ていたです。ちょっと可愛いですね。


「チッ、さっさと倒れてくれれば早く終わるってのに」


 凄まじい速度で繰り出される剣撃を勇者様は全て避けているです。瞳が黒から青に変わっているってことは、〈解析〉の魔眼を発動させているですね。たぶんそれで将軍さんの攻撃を見切って避けているんだと思うです。


「魔法を使っているとはいえ、ここまでやるとは思わなかったぞ!」


 戦っている将軍さんは、なんだか楽しそうです。


「うるせえ! 俺は一秒でも早く帰りたいんだ!」


 戦っている勇者様は、死ぬほど帰りたそうです。


「悪いがこれで決着だ! 反則負けで退場にしてくれると嬉しいな!」


 勇者様が将軍さんを弾いて後ろに跳んだです。そして剣を持っていない方の左手を前に突き出したです。なにかの能力を使う気ですね。

 これは勝った――そう思った時だったです。


「ええい! やはり我慢ならん! 私も混ざるぞ!」


 ちょ、王女様が剣を構えて飛び出してしまったですよ!? 今はダメですって!? もう勇者様が能力を発動してしま――


「武装を喰らえ! ――〈暴食なる消滅(グラ・ヴァニッシュ)〉!!」


 ガシャアアアン!! と。

 ガラスが砕けるような音が街中に響くのと同時に――将軍さんと王女様の剣と鎧が粉々になって吹き消えたです。

 いえ、剣と鎧だけじゃないです。その下の服まで消滅して……ふ、二人とも下着姿に剥かれてしまったです!


「……あれ?」


 王女様まで巻き込んだことに気づいた勇者様が目を点にしたです。将軍さんも王女様も下着姿のまま、なにが起こったのか理解できず固まっているです。ていうか、将軍さん、ピンクでハートのパンツって……。


「あ、あの、えーと……せ、説明しよう! 今の力、〈暴食なる消滅(グラ・ヴァニッシュ)〉とは、俺の視界に映る俺が指定した物体をこの世から抹消する能力である。〈創造〉と対極に位置する力だな。三分で戻ってくるような時間制限がない代わりに、生物を消すことはできないのだ! 帰りたい!」


 勇者様は現実逃避気味に能力の説明とか始めちゃったです。つまり将軍さんの武器と鎧を剥いで決着をつけようとしたけど、王女様が割り込んできて被害を受けたということです。

 とりあえず――


「勇者様のお馬鹿ぁあッ!?」

「ごぶはっ!?」


 神樹の杖で殴り倒すことにしたです。でもまだです。次は王女様の下着姿を見て鼻血ぶーしてる男どもを成敗です!


「大丈夫です王女様! 今すぐこの場から野郎どもを排除するです!」


 ギルドの女性冒険者たちと協力して男を追っ払いながらそう言うと、ようやく状況を飲み込めたらしい王女様は、一気に耳まで真っ赤になって自分の体を抱き締め――


「いっ」

「い?」

「いやぁあああああああああああああああああああああああああッッッ!?」

「王女様!?」


 ええっ!? 羞恥の悲鳴を上げてどこかへと走り去って行ったです!? もちろん下着姿のままですよ!?

 あの王女様なら下着姿でも堂々としてるイメージだったですが……やっぱり王女様も女の子ですね。恥ずかしいものは恥ずかしいんです。


「王女殿下!? お前たち追え!? すぐに王女殿下を保護するのだ!?」


 将軍さんが指示を出して、戸惑っていた兵士さんたちが一斉に王女様を追いかけて行ったです。


「なんかもう……」


 ぐっだぐだですね。


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