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それでも俺は帰りたい~最強勇者は重度の帰りたい病~  作者: 夙多史
四章 わたしと勇者様とドラゴン退治
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第二十五話 そこまでして関わりたくなかったですか、勇者様……

 ドカン! ドカン! ドガシャン!


 き、筋肉たちが次々と王女様に敗れてぶっ飛んでいくです。ムキムキでガチムチで黒光りする肉塊が躍るように宙を舞う……なんですかこの視界の暴力は!?


「どうした! その筋肉は見た目だけか!」


 大のマッチョを腕相撲で投げ飛ばすという人間離れした所業をやってのけている王女様は、実に爽やかな且つ好戦的な笑顔を浮かべていたです。


「あ、あの人、本当に王女様ですか!?」


 疑ってしまうです。わたしの抱いていたお姫様の幻想が音を立てて崩れていくです。あんな筋肉たちと意気投合できるような脳筋さんなんかじゃないんですぅ!


「そういえば、ラティーシャ様は〈王女騎士〉の異名を持つ王女でありながら戦士でもあるお方でした。噂によると兵士百人を素手だけで薙ぎ倒したことがあるとか」

「ヘクターくん思い出すのが遅いです!?」


 もっと早く知っていたら……いえ、なんにも変わらないですね。わたしの驚きがちょっと少なくなるくらいですね。


「エヴリル、ヘクター、俺たちは俺たちの仕事してさっさと帰ろうぜ」


 腕相撲の見物にも飽きてきたらしい勇者様が、薬草採取の依頼書をヒラヒラさせて受付に向かって歩き出したです。

 やっぱりドラゴン退治には参加する気ないみたいですね。報酬はよくても、たぶん一日二日じゃ帰れない仕事になりそうですし……。


「ダメだダメだ! もっと骨のある者はいないのか! ここは王国最大のギルドだろう!」


 どうやら王女様のお気に召す冒険者はいなかったみたいですね。マッチョ四人組を始めとしたギルドの筋肉自慢たちが死体のようにあちこちで倒れているです。


「仕方あるまい。自力で探し出すつもりだったが、名乗り出てもらおう」


 王女様は肩を竦めると、すっと優雅な仕草で椅子を引いて立ち上がり――


「この中に、『勇者』と呼ばれている者がいるはずだ!」


 そう、声高々に告げたです。


「えっ?」


 瞬間、わたしも含めたギルド全員の視線が勇者様に向いたです。


「アーデン村を魔物の群れから救った英雄のことだ! いるのであれば名乗り出よ!」


 間違いないです。アーデン村はわたしの村の名前です。勇者様の噂が王都の王宮にまで届いていたなんて……驚きです。


「あの村ちゃんと名前あったんだな」

「当たり前です!?」


 全く失礼ですね勇者様は。いえ、勇者様の前で村の名前を言った覚えはないですが……。


「君がそうか?」


 みんなの視線を見て王女様も勇者様に気がついたです。勇者様は王女様に背を向けたまま、とっても面倒臭そうな顔をしてたです。

 王女様が歩み寄ってくるです。


「君が『勇者』で間違いないのだな?」

「いえこの人です」

「オレ!?」


 あ、勇者様、咄嗟にヘクターくんに擦りつけたです。


「む? そうか、すまない。そちらの彼だったか」


 王女様がヘクターくんの手を取ったです。ヘクターくんはどうしたらいいかわからずあたふたしているですね。


「あの、ラティーシャ様……オレは……」

「さあ、勇者よ。君の力を見せてくれ。腕相撲で!」

「兄貴ぃいッ!?」


 ボゴォオオオオオン!!


 試合開始コンマ一秒くらいで、ヘクターくんの体は吹っ飛んで壁に突き刺さっていたです。これもうわたしの知ってる腕相撲じゃないです……。


「酷いですよ兄貴!? 勇者は兄貴じゃないですか!?」

「あ、生きてたです」


 ヘクターくんも一応鍛えているだけあって意外と頑丈だったです。


「なに? ではやはり君が勇者なのか?」

「違います」

「おい、違うと言っているぞ」


 この王女様もしかして天然ですか……?


「あの、お姫様、そいつは勇者は勇者でも『帰宅勇者』だ。人違いじゃないですかね?」


 筋肉の一人が床に這い蹲ったままそう言ったです。力負けしたせいか最後ちょっと敬語になっていたです。


「キタク勇者? よくわからんが、まあいい。試せばわかることだ。勇者か否かは筋肉で語り合えばわかるだろう」


 わかってたまるかです。王女様は勇者様の腕を掴んで近くのテーブルに着席させたです。そろそろテーブルの数も少なくなってきたですけど、これ弁償してくれるですかね?


「見た目の筋肉は並みか」

「俺もう帰りたいんだけど」

「だが目に見える筋肉だけでは筋力は測れぬ」

「帰っていいですか?」

「いざ尋常に勝負!」

「うわーい、会話が成り立たなーい」


 バゴォオオオオオン!!


 試合開始直後、勇者様もヘクターくんと同じように壁に減り込んでしまったです。筋肉たちは「ほらやっぱりな」と馬鹿にしたように爆笑しているですが、勇者様の能力を知っているわたしにはわかるです。

 勇者様、わざと負けやがったです。


「そこまでして関わりたくなかったですか、勇者様……」


 王女様もさぞがっかりなされたですね。


「……」


 そう思って王女様を見ると……あれ? なんか難しい顔をして自分の掌を見詰めていたです。


「君、今の腕相撲、本気を出していないな?」


 王女様は壁に減り込んでお尻だけこっちに向いている勇者様を睨んだです。そんな馬鹿な。王女様は勇者様の能力を知らないはずです!


「なぜ、そう思ったですか?」


 沈黙し続ける勇者様(たぶん気絶したフリです)に代わってわたしが王女様に訊ねたです。王女様はわたしを見据え、キリっとした自信満々のドヤ顔で――


「勘だ!」


 根拠の欠片もないことを当然のように言っちゃったです。


「さあ、君! 寝たフリなんかしてないでもう一戦だ!」


 王女様は勇者様の足を持って壁からすぽっと引っこ抜いたです。それだけでも女性とは思えない馬鹿力ですよ。


「嫌だ俺は帰りたい!?」

「大丈夫だ頑張れ!」

「さっき無理強いしないって言ったよね!?」

「君の本気を見せてくれ!」

「ねえせめて意思疎通させて!?」


 す、すごいです。あの勇者様が圧倒されているです。脳筋王女様……恐ろしい子、です。


「私はこう見えてしつこいのだ。君が本気を見せるまで何度でも続けさせてもらう」

「一瞬で終わらせる。早くかかってこい」


 全力で抵抗していた勇者様は急に真面目な顔になって席に着いたです。無駄に大物っぽい雰囲気を醸し出してテーブルに肘を立てる勇者様。この変わり身の速さはもういっそ清々しく思えてきたです。


「ほう……目の色が変わったな。戦士の目だ」


 違うと思うです。


「君の本気は、果たしてこの私を唸らせられるかな?」

「御託はいい。さっさと始めるぞ」


 勇者様と王女様の右手が握り合ったです。さっきまでとは違う、ピリピリとした空気がギルド内を支配していくです。

 二人とも、本気です。

 審判役の兵士さんが生唾を飲み込んで――今、開始の号令を下したです!


 バゴシャアアアアアン!!


 勝負は本当に一瞬だったです。

 一瞬で、あの王女様が壁に突き刺さっていたです。勇者様の能力は知っているですから驚かないと思ってたですが、わたしも唖然としてしまったです。


「一国の王女様相手にそこまでしちゃダメですよ勇者様ぁあああああッ!?」


 すぐに兵士さんたちが来ると思ったですが……どうやら、王女様が負けて一番驚いているのは彼らみたいだったです。ビックリし過ぎて、なにが起こったのかも理解できない顔で、兵士さんたちはただただ突っ立っていただけです。

 壁に上半身を減り込ませた王女様はピクピクと痙攣していたです。スカートが大変な感じに捲れ上がって真っ白な下着まで見えちゃってます。


「――って男は見ちゃダメです!? あっち向いてろです!?」


 わたしを筆頭に逸早く気がついた女性冒険者たちが王女様を庇う壁になったです。今何人か鼻血を吹いてる野郎どもは後で王女様に代わってわたしが成敗しておくです。まず勇者様から!


「フフ、フハハハハハ! まさかこの私が力で負けるとはな!」


 王女様は何事もなかったかのように自力で壁から上半身を抜いて高々と笑ったです。もしかして変なところ打っちゃったですか?


「いいぞ! 君は最高だ! やはり私の勘は正しかった!」

「いやいや、なんで嬉しそうですか!?」

「当然だ。私を純粋に力で負かす者など初めてだからだ」


 それこそ当然です。勇者様は相手の能力を超越して〈模倣〉してしまうです。どれだけ王女様が凄まじい力を持っていても、勇者様には絶対に敵わないです。卑怯ですね。

 王女様はたいそう機嫌よさそうに勇者様に歩み寄っていくです。


「君は合格だ」

「辞退します」

「では次の二次試験で技術を見せてもらおう」

「話が違う!?」

「表へ出よう。室内での模擬戦は危ないからな」

「いーやーだー俺は帰るんだーっ!?」


 今は王女様より力が強くなっているはずですのに、勇者様はなんだかんだで力任せの抵抗はせず表へと引きずられて行っちゃったです。


 これ、一体どうなるですかね……?


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