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それでも俺は帰りたい~最強勇者は重度の帰りたい病~  作者: 夙多史
四章 わたしと勇者様とドラゴン退治
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第二十二話 明日は嵐か大雪です

 長いようであっという間だった休日も終わり、わたしたちの日常にいつも通りの朝がやってきたです。


 昨日は勇者様と王宮見学をして楽しかったですが、今日からは気持ちを切り替えてしっかりお仕事するですよ。

 そのためにはまず勇者様をベッドから引きずり出さないといけないですね。どうせ今日も「帰りたい」とか言って毛布に包まっているはずです。


「勇者様! 朝です起きるです!」


 いつものように合鍵で勇者様の部屋に入って呼びかけるです。わかってるです。それだけで済むなら苦労はしてないです。毛布を剥ぎ取って、ベッドの上で幼虫みたいに丸まってる勇者様を蹴り落して、それから着替えを……


「おはよう、エヴリル」


 ……えっ?

 わ、わたしは夢でも見てるですか?

 勇者様が、あの勇者様が、叩き起こす前にもうベッドから出て着替え終えていたです!


「勇者様? え? なんで? え?」

「いや、そんな一流のニートが社会復帰したのを見たような顔されても」

「どんな顔ですか!?」


 でもでも、どうして勇者様がもう起きてるですか? 目が覚めても頑としてベッドから出てこないあの勇者様ですよ?

 考えられることは一つです。


「えいっ!」

「痛っ!? なんで!? なんで神樹の杖でぶん殴られるの!?」


 むぅ、幻でも偽物でもなさそうです。もしかしてわたしが時間を間違えてるですか? そう思って時計を見たですが、やっぱりいつも通りの時間です。ほっぺを抓ってみたですが、普通に痛かったです。

 となると――


「おい、エヴリル。なにやってるんだ。仕事行くぞ」

「ふぁ!?」



 し ご と い く ぞ!?



 これはもう間違いないです。勇者様が、改心してくれたです!


「ぼ、防災具を買いに行かないとです。明日は嵐か大雪です」

「失敬だな!?」


 非常に心外そうに勇者様は叫ぶと、やれやれと肩を竦めてなにか語り始めたです。


「いいかエヴリル。休み明けってのはいつもより五倍増しで帰りたいが、だからと言って仕事をサボっていいわけじゃないんだ。休み明けだからこそ気合いを入れて仕事に取り組み、汗水垂らしてお賃金を貰って至上のオフトゥンを買……自分たちの生活をより豊かにしていく努力をするべきなんだ」


 ――ん?


「勇者様、今、なんて言いかけたです?」

「言いかけた? ははは、なにを言ってるのかなエヴリルさん」

「オフトゥンって聞こえたです」


 勇者様がぐいんと顔をわたしから逸らしたです。どうやらわたしの聞き間違いだったわけじゃなさそうですね。


「勇者様、まさか一昨日のベッドを買うために仕事しようとしてるですか?」

「え? なんだって?」

「聞こえないフリしても無駄です!?」


 この距離でけっこう声を大にして言ってるです。耳が遠くなったおじいちゃんでも聞き取れるですよ。

 勇者様は観念したようにフッと笑ったです。


「ああ、そのまさかだ」


 そして開き直ったです。


「綿毛鳥の羽毛ベッドだぞ! エヴリル、お前だって堪能したはずだ。いや、半日寝てたエヴリルさんだからこそ理解しているはずだ! アレは、欲しい! 仕事してでも!」

「そのことは言わないでくださいです!? あと『仕事してでも』ってどういうことですか!?」


 やっぱり勇者様は勇者様だったです。なんかおかしいと思っていたですが、そういう動機があったですね。あのベッドは危険です。買わせるわけにはいかないです。


「だいたいまだ値段も発売日も決まってないですよ。そもそも取れる羽毛の量が少ないですから量産は無理という話だったですし、商品にはならないかもです」

「エヴリルさんは俺に真面目に仕事してほしくないの?」

「うっ、それは……」


 た、確かに、動機はどうあれ勇者様がやる気になっているです。このチャンスを逃すのは勿体ないですね。


「わかったです。もうわたしはこの件についてなにも言わないです」


 どうせヘクターくんとはギルドで会うですし、開発状況を逐一把握して勇者様の耳には入らないように仕組むことにするです。


 できればこのままずっと、「帰りたい」なんて言わず働いてくれる勇者様でいてほしいですね。


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