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第二十話 だから使いたくなかったんだぁあッ!?

「フィーちゃんのお母さんなんです! わたしにとっても大切な家族なんです! よくわかりませんけど、どうか元に戻してください!」

「そうです兄貴! 綿毛鳥がいなくなったら、もう羽毛のベッドも生産できなくなります!」


 そいつは大変だ。

 俺は〈憤怒の一撃〉を撃つ手を止めた。至上最高のオフトゥンが作れなくなるのは困る。アレの商品化は俺の待望の一つだ!


「あれ? フィーちゃんは!?」


 アイリーンちゃんが周りに綿毛鳥の赤ちゃんがいないことに気づいた。もしかして赤ちゃんまで〈呪い〉状態になっているんじゃ……?

 ピー! ピー!

 いた。よかった白いままだ。空の親鳥に向かって必死な様子で鳴いている。

 親鳥は我が子を見つけると、金切り声を上げて突進してきた。もう自分の子供の区別もついていないのか?


「くそっ!」


 俺は間一髪で飛び込んでフィーちゃんを救出した。うわ、なんだこの抱き心地! これが綿毛鳥。もうずっと抱いていたい――って思ってる場合じゃないな。


「ヘクター!」


 ちょっと乱暴だったが、俺はフィーちゃんをヘクターに投げ渡した。ふわっとした綿毛鳥の赤ちゃんは風に運ばれるように飛んでいき、ヘクターの腕の中へと収まる。


「わかったよ。殺さないようにやってみる」


 とはいえ、どうすればいい?

 殺すだけなら簡単だ。〈憤怒の一撃〉を当てるだけでいいし、〈強欲の創造〉で対空ミサイルでも作ればいい。

 俺は上空から襲い来る親綿毛鳥の猛攻を避けながら、魔眼を発動し〈解析〉を続ける。

 あの〈呪い〉を解く方法を探せ。解呪できない〈呪い〉なんてあってたまるか! もしあるなら諦めて帰るしかなくなる。

 そして何度目かの突進を回避した時、やっとこさ〈解析〉が完了した。

 あの〈呪い〉を解く方法は、三つ。


 ①呪われた生物の生命活動の停止。

 ②高位の神官クラスが使える解呪魔法。

 ③現状のものより強い〈呪い〉での上書き。


 当然①は却下だ。蘇生ができるなら話は別だが、俺の力にそんなものはない。②も俺が〈模倣〉できる解析済みのストックの中には入っていない。

 となると、③になるわけだが……アレが〈呪い〉だとするのなら効果はあるかもしれない。

 でも、アレはできれば使いたくないんだよなぁ。俺が持っている七つの能力の中で恐らく最も危険な力。使いどころを間違えれば俺自身も破滅してしまう。

 やるしかない。やらなきゃならない。

 方法はこれしかないんだ。


「ヘクター、アイリーンちゃん、少し目を閉じていてくれ!」


 俺は遠くに避難していた二人に向かって叫ぶ。距離はあるが、視認できる範囲内だと確実に巻き込んでしまう。

 俺は魔眼で二人が目を閉じたことを確認すると、可能なら封印したいその力を、発動させた。


「……〈色欲の魅了(ルクスリア・チャーム)〉」


 呟いた途端、俺の体がピンク色に輝き始めた。きもいとか言うな。俺だってきもいです。

 そんなピンクに発光する俺を見た親綿毛鳥が、突進をやめて空中でピタリと停止する。そしてなにやら苦しむように金切り声を上げると、力尽きたように地面へと落下した。

 その姿が、すーっと真っ黒から真っ白に変わっていく。

 成功だ。やっぱりこれ〈呪い〉扱いだったのね。


「兄貴!」

「冒険者様!」


 マンスフィールド兄妹が心配そうな表情で駆け寄ってくる。


「冒険者様、その、一体なにをなされたのですか?」


 アイリーンちゃんが恐る恐る訊ねてくる。よかった、二人はちゃんと目を閉じてくれていたようだ。


「えーと、なんて言えばいいか……どわっ!?」


 言葉に困って頭を掻く俺は、急に背後から真っ白いふわふわが抱き寄せてきて悲鳴を上げた。

 正気に戻った親綿毛鳥さんだ。白く巨大な翼で俺を抱いて持ち上げて、甘えるような声を発して頬擦りしてくる。やばい、これが本家綿毛鳥。なんて気持ちよさだ!


「あの、えっと、兄貴……?」

「あは、その子も感謝しているようですね」

「いや、違う」


 頬擦りされまくりながら俺は否定する。


「俺はこいつに別の〈呪い〉をかけたんだ。〈魅了〉っていう〈呪い〉をな。つまるところ、こいつは俺にメロメロになっちゃったわけ」


〈色欲の魅了〉は、発動している間の俺を見るだけで俺のことを心の底から好きになってしまう能力だ。その効果時間は永遠。つまり時間経過で解けることはない。これさえあれば簡単にハーレムが作れてしまう恐ろしい力である。

 なんでハーレムを作らないのかって? いや、人の心をそう簡単に弄んじゃ倫理的にダメだろう。それに現実でハーレムなんて修羅場以外のなんでもない。なにより一人一人を相手にしていたんじゃ俺の帰……あとは言わなくてもよい子のみんなはわかるよね?


「メロメロって、綿毛鳥は魔物ですよ?」

「ヘクターくんいいところに気がついた」


 まさにそこが問題点なんだよ。視力があればどんな生物だってメロメロにしてしまうんだ。異性だって関係ない。俺を見ただけでこうなっちまう。

 つまりさんざん頬擦りされた後、こうやって巣の方へ連れていかれて上に乗っかられて交尾っぽいことをされるのも自然な流れなわけで――


「脱出!?」


 俺は親綿毛鳥の一瞬の隙をついて巣から逃げ出した。当然、親綿毛鳥は俺を追いかけてくる。ケーケーと甘い声で鳴き、卵を産ませろと迫ってくる。


「だから使いたくなかったんだぁあッ!?」


 やだもう帰る!!

 おうち帰るぅううううううううう!!



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