第一話 俺は、とにかく帰りたいんだ!
「なんなんだ……なんなんだあんたは!?」
夕暮れ色に染まった路地に三十路近い女のヒステリーな声が響き渡った。目は大きく見開かれ、冷や汗を大量に掻き、後ろに従えた盗賊っぽい格好の男たちと同じく恐怖に震えながら俺を見据えてくる。
「勇者様は勇者様です」
その疑問には、俺の斜め後ろに立つ魔法使いの少女が答えた。すると女は余計に瞠目し、ツバを飛ばす勢いで捲し立てる。
「勇者だって!? 勇者がどうしてあたしらの邪魔をするんだい!? あんたには関係ないだろう!?」
「関係ない? ふざけんなよ大ありだ!」
俺は沸き上がる怒りに拳を握り、強く叫んだ。
「理由ならさっきも言った気はするが、もう一度言うからその足りない脳味噌に刻み込め! いいか!」
この盗賊たちは絶対にやってはいけないことをやらかしたんだ。それは世界の真理にも抵触する大罪。何事にも寛容な俺が唯一許せないこと。
そう!
「お前らが、俺の、帰宅を邪魔したからだろうがぁああああああああああああッ!!」
現代社会に生きていた俺はこの異世界に転生することになったわけだが、いろいろとチートなスキルも手に入れて使命的なものもあるわけだが、そんなことはどうでもいい!
俺は、とにかく帰りたいんだ!




