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第百十一話 俺は帰宅部なんだ

 キーン コーン カーン コーン!


 時計塔から響く鐘の音が、学園全体に授業の終了を告げた。窓際最後列の机に突っ伏していた俺はがばっと起き上がると、二秒で帰宅の準備を済ませて教室の扉へと足早に歩いていく。


 がしっ、と俺の手が誰かに掴まれた。


「待つです、勇者さ……()()()()! どこ行くですか!」


 長い緑の髪に青い瞳をした少女――学園の制服を着たエヴリルさんだった。


「どこって、授業が終わったから帰るんだよ。委員会だろうと部活だろうと寄り道しちゃいけないってじっちゃに教わったから、真っすぐにな」

「まだ一時間目です!? 授業はあと九時間あるですから帰っちゃダメです!」

「一日十時間授業などやってられるか! 俺は家に帰らせてもらう!」

「そのまま殺されてしまいそうな台詞吐いてないで席に戻るです!?」

「やだやだ帰るのー!? おうち帰るのー!? オフトゥンちゃんとイチャイチャするのー!?」

「駄々こねんなです!? あと全寮制ですから家にはどの道帰れないですよ!?」


 そうだった。帰りたいのに帰らせてもらえない。この世の地獄を煮詰めたような悪魔の制度を採用してるんだった、この学園は。

 とはいえ、貴族階級の子供ばかりが集められてるから寮は豪華なんだよな。相部屋なのはいただけないけど、最高級品のベッドがもうふっかふかなの! 卒業したら記念品として持って帰れないかな? ダメか。


「俺は帰宅部なんだ。帰宅部っていうのは、いついかなる時でも帰っていいという部活動である。よって問題ない」

「そんなわけないですから!?」

「ほら、俺はオフトゥンの中じゃないと勉強が捗らない(たち)でして」

「勇者様ならあり得そうですが、今はちゃんと授業を受けるです」


 エヴリルが腰に下げた神樹の杖に手を伸ばす。あ、あかん。これ以上は本気でぶん殴られる。その困ったら物理攻撃に走る癖、なんとか学園で矯正してくれませんかね?


「てか、エヴリルさんや。本来の目的忘れてない? 俺たちは授業を受けるために入学したわけじゃないんだぞ」

「も、もちろん覚えてるですよ」


 目が泳いでるね。バッシャバッシャとクロールと背泳ぎを繰り返す勢いで。


「もしかして、楽しんでます?」

「うぐっ……仕方ないじゃないですか! この学園に通うことは平民のわたしたちにとっては普通なら絶対無理で、あ、憧れだったんですから!」


 項垂れて白状するエヴリル。学園に入学することが決まった辺りから目に見えてウキウキしてたからね。そうじゃないかと思ってたよ。


「浮かれすぎてまたバグったり洗脳されたりしないでくださいよ、エヴリエルさん」

「その名前で呼ばないでくださいです!? わかってるですよ。で、でも、だからと言って不真面目な行動をすれば目立ってしまうです」

「早く帰るためなら多少目立ってでも情報収集するべきだ。入学してもう一週間経つけど、まだなーんにも手掛かりすら掴めてないんだぞ」

「それは、その通りですけど……」

()()()()()()はどうなってる?」

「同じ状況みたいです」


 俺は困ったもんだと溜息をつく。七つ星冒険者として休みなく活動していた頃でも、ここまで長期の調査依頼はなかったもんだ。まあ、本当は年単位でかかりそうな調査でも俺の〈解析眼〉ですぐ解決しちゃうからね。


「とにかく、授業をサボるのはダメです。早く席に戻ってくださいです」

「はいはい」


 確かに、優等生でも不良でも目をつけられたら帰れなくなるもんな。元の世界でも俺は先生からの好感度をプラマイゼロに調整して、余計な仕事や補習を押しつけられないようにしていたっけ。

 別に授業を真面目に聞く必要はない。出席して不特定多数に混ざることが大事なんだ。まあ、本音は死ぬほど帰りたいけどね!

 俺は慣れない()()()()()()()()()()()を翻して自分の席へと戻る。


 なんで異世界に来てまで学校に通うことになってしまったのか?

 頬杖をついて窓の外をぼんやりと眺めながら、俺はあの日の出来事を思い出す。


 約二週間前の、あの腹立たしい記憶を――。


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