第百九話 見習いでも神がそんな邪悪な感じでいいのかよ!
冷静に考えてみると、これはまたとないチャンスだ。
神に対して俺のスキルがどこまで通じるのか? いつか天空神のクソジジイをぶっ飛ばすために、悪いがレイバーには実験台になってもらうぜ!
「邪魔だぁあああああああッ!! そこをどけオフトゥヌスぅううううううッ!!」
怒り狂ったレイバーが黒い波動弾を俺にぶっ放してきたな。よし、まずは〈嫉妬の解析眼〉からだ。
黒い波動弾の軌道。威力。回避方法の最適解。それらが俺の視界に表示される。神の技については問題なく〈解析〉できるようだ。
神自身の〈解析〉は……ダメだな。奴が身に着けている物なら問題ないけど、神自身のステータスは名前くらいしかわからない。まあ、これはわかってたことだけどね。
「我の攻撃を避けるなッ!?」
黒い波動弾が当たらないと判断したらしく、レイバーは暗黒オーラを無数の触手みたいにして俺に殺到させた。なにアレきもい帰りたい。
「見習いでも神がそんな邪悪な感じでいいのかよ!」
次に〈傲慢なる模倣〉を試す。もっとも、これは〈解析眼〉あってのスキルだ。詳細データがなければ使えないし、そもそも神の〈模倣〉ができないことは天空神で検証済み。それは新神でも同じらしい。
仕方なく古竜を〈模倣〉し、爆上げされたステータスで触手を回避する。たぶんあの触手も触れたら強制労働者になっちまうからな。避けるしかないんだよ。
他に検証済みなのは〈怠惰の凍結〉だ。ネムリアが〈凍結〉しなかったらからレイバーも一緒だろうね。
あと〈色欲の魅了〉も検証しない。どうせ神には効かないし、効いたとしても野郎やジジイがメロメロって俺損で帰りたくなる。
言うことを聞かせられて元の世界に帰れるかもしれないって?
じゃあ、今まで〈魅了〉した奴らはどうなったよ? 理性とかどっかに吹っ飛んでたでしょ?
「ネムリアぁあッ!? まだ、まだ我のことを思い出さないのか!?」
レイバーの暗黒オーラが俺の後ろでなんか祈るように集中しているネムリアを狙う。
「させるかよ、〈強欲の創造〉!」
神を〈創造〉なんて当然できない。だが、それ以外の創造物なら効果はあるはず。そう考えてネムリアの周囲をコンクリートの壁で囲んでやると、レイバーの暗黒オーラは弾かれて霧散したよ。
さらに三機の戦闘機を〈創造〉する。自動操縦で戦闘を行うそれらがミサイルを発射すると、レイバーはオーラを広げて盾を作り防御した。
いいぞ。防いだということは、効くってことだ。
「おのれ小癪な! 人間の創造物ごときでこの我を討ち取れると思うな!」
闘技場の上空で飛燕のようにアクロバティックな空中戦を繰り広げるレイバー。オーラの触手が戦闘機に絡みつき、黒い波動弾が撃ち抜き、範囲攻撃の衝撃波が叩き落とす。
バグってても神なんだよなぁ。戦闘機程度じゃ相手にならんぽい帰りたい。
暗黒オーラがレイバーの前方に集中する。
やべ。なんかでかい技が来そうだ。
「オフトゥヌス! 貴様にはもはや勤労の慈悲も与えん! 消え去るがいい!」
特大の暗黒ビームが上空のレイバーから放射されたぞ。〈解析眼〉が緊急アラートを訴える。まともにくらったら闘技場ごと吹っ飛んじまうらしい。
俺は暗黒ビームに向かって手を翳す。
「――〈暴食なる消滅〉!」
打ち消しスキルだ。頼む効いてくれと願ったけど、残念ながら暗黒ビームは僅かも威力を衰えない。どうやら神に関係するものは消せないっぽいな。やべえ帰りたい!?
「くっ、〈憤怒の一撃〉!」
打ち消せないなら純粋な破壊力で相殺してやる。俺の手から放たれた破壊光線は暗黒光線と激突し、拮抗。よし、すり抜けたり逆に吞まれたりはしなかった。
あとは単純な力比べだ。
「こ、の、負けるかぁああああああああああああああああッ!!」
「おのれオフトゥヌスぅうううううううううううううううッ!!」
押し押されが延々と繰り返される。こっちは古竜のタフネスになってるってのに、レイバーも負けてないってどういうことなの? どんだけネムリアに覚えられてなかったことがショックだったんだ?
まずいな。
このままじゃ、先に激突の余波だけで闘技場や周辺が崩壊しちまう。流石にそっちまで守っているような余裕とか俺にはないぞ。
「……準備完了なの」
天使の声を聞いた。
コンクリートの壁の向こうから、純白の翼を広げたネムリアが浮上してきたんだ。レイバーとは違う神々しいオーラを纏ったネムリアは、眠たげな顔ながらも全てを包み込む聖母のような微笑みを浮かべていた。
「……我、安息を司る者なの。紡ぎしは寛容。紡ぎしは抱擁。紡ぎしは慈愛。安息神の名の下に、不当な労働者に安息の祝福を! なの!」
心安らぐ純白の輝きがネムリアを中心に爆発する。その光に照らされたレイバーの暗黒ビームが弱まり、俺の〈憤怒の一撃〉が呑み込んだ。
「くそう、くそう、我はこの世を建労にして、ネムリアの目を覚まさせたいのに……」
破壊光線がレイバーへと迫る。暗黒オーラが浄化されるように消えていく。
「なぜだネムリアぁあああああああああああああああああああああッ!?」
俺とネムリア、両方の光に呑み込まれたレイバーは――そのままお空の彼方へとぶっ飛んでキランとお星様になるのだった。まあ、うん、たぶん死んでない。神様だし。
「……ネムはずっと寝ていたい、なの。起こそうとする人、迷惑なの」
翼を羽ばたかせて俺の隣に舞い降りてきたネムリアは、空を見上げながら腰に両手をあててぷくぅと可愛くほっぺを膨らませていた。




