第百八話 そんな微調整俺には無理です帰りたい!?
呪い。
これまで俺たちがさんざん見てきた呪われた魔物や人と同じオーラを、レイバーは纏っていた。アレが本当に〈呪い〉なら、〈嫉妬の解析眼〉で視ると名前がバグ・ハトァラケー=レイバーになっているはずだ。
ハトァラケー=レイバー。
「バグじゃない?」
俺の〈解析眼〉に表示される名前は変わっていなかった。相手が新神だからか? それとも、これは呪いじゃないってことか? ふえぇ、ぼくわかんないから帰りたいよぉ。
「おのれネムリアぁあああああああああああああッ!!」
バグじゃないのにレイバーは完全に理性を失って黒い波動弾を手から放ってくる。これが神の怒りってやつなの?
「ぴゃぎゃっ!?」
「オフトゥニアス!?」
やばい。黒い波動弾がオフトゥニアスに直撃しちまった。数メートルくらい吹っ飛んだオフトゥニアスは――むくり。あれ? 無傷で起き上がったぞ?
こけおどしか?
「しごと……しごとをしなきゃ……だし……」
「え?」
なんか、オフトゥニアスの目が生気を失っているんですけど。両手を前に翳して幽鬼のような足取りで「しごとしごと」と呟きながらどっか行ってしまったぞ。
見れば、他にも被弾した連中が同じように仕事を求め彷徨う者と化してやがる。
「……困った、なの」
黒い波動弾を避けて逃げる俺の隣を並走するように飛んでいたネムリアが、眠い目をこすりながら呟いた。
「なんか知ってるのか、ネムリア?」
「……バグなの」
「いや、視たところ違うっぽいんだけど?」
「……『バグ』は神のシステムが変質して暴走する不具合なの。この世界ではそれを〈呪い〉と呼んでる、なの。あの神はなぜかとても怒っていて、自分の力がバグってしまっているみたいなの」
「怒らせた自覚がない、だと……?」
レイバーは神であり、バグとは神のシステムの不具合。バグっているのはレイバーの力であってレイバー自身ではない。だから〈解析眼〉で視ても名前が変わらなかったのか。
待てよ、バグが神のシステムの不具合ってことなら、今までのも――
「ネムリアぁああああああああああうぉおおおおおおおおあああああああッ!!」
――って余計なこと考えてる場合じゃねえな。アレ絶対本人もバグってますって! だって地球育ちの戦闘民族に執着するバーサーカーみたいになってますもん!
「勇者様!」
と、まだ無事だったエヴリルが駆け寄ってきた。
「エヴリル! アレはお前んとこの神だろ! なんとかできないのか?」
「勇者様も建労の心を持つです。そうすればみんな幸せです。ほらほら、黒の万能薬を飲むです」
「ダメだバグってる!?」
俺はなんか無理やりやばそうなドリンクを飲ませようとするエヴリルの手を掴んで抵抗する。エヴリルの目は死んでなかったが、ぐるぐるの渦巻きになっていた。エヴリルさん最近こういう役回りになること多くないですかね? ヒロインポジションじゃなかったの?
「……その子は建労の加護を受けてる、なの。建労の力がバグっているせいなの」
「最悪だ。流石にこれを放置して帰ったら俺の安息がなくなっちまう……」
世界が二十四時間労働者で溢れ、ニートは摘発され休憩が罪となる。そんな世界を俺は認めない。断じて認めないぞ!
「勇者殿!? これは一体どうなっているのだ!?」
「来るな!」
異変に駆けつけようとしてくれたラティーシャたちを俺は止める。あいつらまで建労バグになっちまったらもう手に負えなくなるからな。
「ラティーシャ! 悪いがいろいろ帰りたい事態になっちまった! 闘技場を封鎖して誰も出さないようにしてくれ! こっちはこっちでなんとかする!」
「承知した! 説明は後でしてもらうぞ!」
よし、絶対バックレよう。
ラティーシャたちが闘技場の外へと出て行ったのを見届け、俺は安堵する。レイバーはそっちには見向きもせず相変わらず俺たち、いや、ネムリアだけを狙って攻撃しているな。
「なにか手はないのか?」
「……安息と建労は光と闇なの。同じだけの力をぶつければ中和できる、なの」
黒い波動弾を神通力で弾きながらネムリアは答える。つまり、安息魔法が有効なんだな?
「……でも、少しでも力の均衡が傾いていると無意味なの。全く同じ強さの力にしなきゃいけない、なの」
「そんな微調整俺には無理です帰りたい!?」
なにを隠そう、実は俺が使っていた安息魔法は他の誰かの〈模倣〉だったんだ。そんな器用なことができる奴は四護聖天にもいない。いや、修行はしたんだけどね。安息魔法、自分でもめっちゃ使いたかったし。なのに神に与えられたスキルが邪魔して習得できなかったんだよチクショーメ!
「……ネムがやる、なの」
「まあ、それしかないな」
相手が新神なんだ。こっちも新神が対抗しないとな。
「準備に時間がかかる、なの。ネムの英雄はそれまでネムを守ってほしい、なの」
「ぶっちゃけ帰りたいが……」
俺は立ち止まり、暗黒のオーラを纏うレイバーを睨み上げた。
「別に、俺があいつを倒しちまってもいいんだろ?」
「……それは全然構わない、なの」
いいのかよ。
なんかもうここまで脈なしだとお気の毒すぎるでしょ、建労の新神さん……。




