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第百五話 応戦しろ! あの枕には絶対に当たるな!

 建労魔法を付与された枕が弾幕となって押し寄せる。


「応戦しろ! あの枕には絶対に当たるな!」


 俺の号令に従い、安息信徒たちも負けじと安息魔法の込められた枕を投げまくる。一見すると無秩序な枕投げ大会に見えるが、俺たちにとっては戦争だ。だって、奴らの(たま)が当たればめちゃくちゃ働きたくなってしまうんだぞ! そんなの嫌だ帰りたい!


 安息神教会と建労神教会の聖戦が始まった。

 戦場として選ばれたのは、以前俺たちが六つ星冒険者チームと決闘をしたファウルダース家の闘技場だ。ヘクターの伝手で貸して貰えたらしい。あの時ぶっ壊した部分はまだ修繕中みたいだが、まあ、今回は枕投げだし器物破損はしないだろうね。


「ビシバシ働く覚悟をするです、勇者様!」

「そんな覚悟するくらいなら俺は帰る!?」


 エヴリルが風魔法でブーストした枕弾を一斉射出。俺は横に転がって枕の連射を回避する。その隙に味方が隙を見せたエヴリルに枕を投擲した。

 だが、それらは突如足下から競り上がってきた壁によって防がれちまったよ。


「土の壁……おのれヴァネッサ卑怯だぞ!?」

「魔法は禁じられておらんからのう!」


 エヴリルの風で攻撃面を補助し、ヴァネッサの土で防御面も完璧。安息建労以外の魔法について触れなかったのはこういう作戦があったからか。


「だったらこっちもスキルを……」


嫉妬の解析眼インウィディア・アナリシス〉――枕を避けるくらいにしか使えん。


傲慢なる模倣(スペルビア・トレース)〉――ラティーシャとか古竜とかを模倣すると人が死んじゃう。


強欲の創造アワリティア・クリエイト〉――枕切れになった時の最終手段。


憤怒の一撃(イラ・ブロー)〉――なんに使えと?


暴食なる消滅(グラ・ヴァニッシュ)〉――マクゥラちゃんを消滅なんてできるわけないだろ!


怠惰の凍結(アケディア・フリーズ)〉――一見使えそうだが、時間が止まってると当たり判定なくなるんだよな。


色欲の魅了(ルクスリア・チャーム)〉――論外。


「くっそゴミスキルしかねぇええええええええええッ!?」


 せいぜい創造で壁を作るくらいだ。それも三分しか持続しないから一時凌ぎにしかならん。ウラヌスのクソジジイめこんな使えないスキルばっかり与えやがって帰ったらぶっ飛ばしてやる!


「もらったです勇者様!!」

「なっ」


 しまった。今はヘイトを天空神に向けてる場合じゃなかった。


「危ねえオフトゥヌス!!」


 エヴリルの風でブーストされた枕の弾幕は、俺を庇うようにして割って入った巨体が盾となって防いでくれた。


「オフトゥーソン、お前……」


 がくりと膝をつくオフトゥーソンは、息も絶え絶えにニィと無理やりはにかんで親指を立てた。


「へっ、お前がやられちゃあ……安息側に勝ち目はねえからよ……あとは、頼んだぜ……」

「オフトゥーソン!?」

「うぉおおおおおおお力が! 力が漲る! 働くぞ! 俺は働いて働いて働くぞぉおおおおおおおおッ!! よい働きを(レンジ・ツ・サビザン)!」

「オフトゥーソォオオオオオオオオン!?」


 くそう、オフトゥーソンですら建労魔法の洗脳に堪え切れずあっち側についちまった。なんて恐ろしい力なんだ。もう帰りたい。


「〈安息の四護聖天〉オフトゥーソンを討ち取った! 流石エヴリエル様です!」

「流石エヴリエル様!」

「さすエヴ!」

「「「さすエヴ!」」」

「やめてくださいです!?」


 なんかエヴリルがエディたちにワッショイされてる。こっちの主力を一人奪ったんだ。胴上げもしたくなるだろう。

 建労に染まったオフトゥーソンは狂戦士のごとき勢いで暴れ回ってやがる。安息信徒が一人、また一人と建労側に奪われていく。


「寝返ったオフトゥーソンは私にお任せください」


 と、俺の傍に立った紳士然としたお爺ちゃんが落ち着いた口調でそう言った。


「オフトゥレプト……わかった。お前に任せる」


 命じると、オフトゥレプトはやんわりと微笑んでからオフトゥーソンの下へと駆けていった。オフトゥーソンのことはあいつに託すしかない。


「くそ、俺もマクゥラちゃんを投げれないなんて甘えたこと言ってらんねえな」


 心を鬼にしろ。このまま枕を投げられなけりゃ俺は負ける。

 そうなってしまうと、俺はまたあのブラック企業でさえ涙目になりそうな英雄生活に逆戻りだ。それは俺が帰りたいものじゃない。

 せっかく目が覚めたんだ。たとえ今帰れなくても、もう二度と、あんな生活には戻ってやるもんか!


「オフトゥヌス、なんか妙だし! ウチらもけっこう建労信徒を仕留めてんのに、なぜか押されてるっぽいし!」

「なんだと?」


 オフトゥニアスの報告に俺は眉を顰めた。オフトゥーソンが建労側についたせいかと思ったが、それはたった今の出来事だ。それ以前の趨勢は拮抗しているように見えたが……


「まさか」


 周囲を見回し、俺はあるとんでもない事実に気がついた。

 それが本当かどうか確かめないと。


「おいヴァネッサ! あそこにお前の婆ちゃんが!」

「ふぁっ!? ごごごごごめんなさいなのじゃしばらく帰ってなかったのは深い理由が――あれ? いないのじゃ?」

「隙ありぃいいいいいいッ!?」

「あへ……むきゅう……」


 よし、アホのヴァネッサなら簡単に引っ掛かってくれると思ったよ。俺の投げた枕が当たったヴァネッサは変な声を上げてフラフラし、その場に倒れ込んですーすーと寝息を立て始めた。


「やっぱりそうか! くそ、やられた。エヴリルの奴……」

「一体どういうことだし、オフトゥヌス?」


 キョトンとしたオフトゥニアスが訊ねてくる。趨勢が建労神教会に傾いている理由。それは――


「俺らの安息魔法の枕が当たった奴は全員、メガネの坊主の麻酔銃にでも撃たれたかのように眠っちまうんだ」

「メガネの坊主って誰だし?」

「逆に建労魔法の枕が当たれば、働く意欲が増して超絶パワーアップしたまま建労信徒に寝返っちまう。こんなの俺たちの勢力が削られていく一方だぞ帰りたい!?」


 エヴリルは安息魔法を一度くらっている。こうなる展開を予想できただろうな。だから枕に魔法を込めることをルールにしやがったんだ。


「さあ、勇者様、そろそろチェックメイトです」

「ぐぬぬ……」


 こんなの、絶体絶命じゃないか。


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