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それでも俺は帰りたい~最強勇者は重度の帰りたい病~  作者: 夙多史
二章 これがわたしの勇者様
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第九話 お仕事に行くですよ

「あー、帰りたい」


 今日も今日とてわたしが勇者様のお部屋を訪ねると、勇者様は今日も今日とてベッドで毛布に包まってゴロゴロしていたです。

 そんな見慣れてしまった光景には毎度溜息をつくです。わたしはベッドに近づいて、蓑虫の魔物みたいになっている勇者様に声をかけるです。


「起きてくださいです勇者様。お仕事に行くですよ」

「わかっている。今日も仕事しないとお賃金が貰えないことくらいわかっている。だがオフトゥンが! オフトゥンがぼくを放してくれないんだ!」

「勇者様が毛布を放そうとしてないだけです!?」


 勇者様の言う謎言語『オフトゥン』が毛布やベッドを指す単語だと知ったわたしは、勇者様が包まっている毛布を一欠片の容赦もなく剥ぎ取ったです。


「ああっ!? 待ってその子は、その子だけはぁあっ!?」

「なんで子供を攫われそうになってる親みたいな顔してるですか!? こうなったらもう勇者様の部屋のベッドも毛布も全部処分して今日から床で寝てもらってもいいのですよ!?」

「なんて酷いことを!?」


 ここまでしないと勇者様はベッドから下りないです。まったく、このダメ勇者様はまったく!

 わたしがいなかったらどうなるんですかね? きっと一日中毛布に包まってお腹が空いたら食料を求めて徘徊して、すぐ帰ってまた毛布に包まるような生活になるです。それじゃダメダメです。

 勇者様はベッドから引き剥がせばちゃんと動いてくれるです。しぶしぶな態度を隠す気もないのは腹立つですが、ほらこうやってすぐに着替えを始め――


「だから着替えはわたしが部屋を出てからしてほしいです!?」

「いいだろ別にパンツまで脱ぐわけじゃなし」


 あわわわわ勇者様の裸が! 裸が! 最近ちょっと引き締まってきた体ががが――はっ! いえ違うです毎日観察してるわけじゃないです目に入ってくるだけですわたしは悪くないです!


「乙女の前でハレンチな格好になるのをやめろと言ってるですぅうッ!!」


 わたしはついいつもの癖で神樹の杖を使って勇者様を殴ろうとしたです。ですが勇者様は生意気なことに避けやがったです。


「フッフッフ、なにを言ってるのかなエヴリルさん? ガッツリ見てるくせに」

「みみみ見てないです!? 気のせいです!? いいから早くなにか着てくださいですッ!?」


 ぶんぶんぶん! ひょいひょいひょい。

 わたしが杖を振り回しても、今日の勇者様には当たってくれないです。


「フハハ! そう毎度同じように殴られる俺ではない! その杖の動きはもう見切った! これで俺の帰宅を邪魔する最大の鬼門をクリア――」

「――世界を巡る悠久なる風よ。我が声に従い敵を撃つです!」

「んんッ!?」


 わたしは咄嗟に得意の風魔法を唱えたです。収束された風の弾丸が下着一丁で見せつけるように小躍りする勇者様を吹っ飛ばしたです。

 窓から転落した下着一丁の勇者様は――近所の人たちに汚物を見るような目で見られ、タイミングがいいのか悪いのか巡回してきた衛兵さんに見つかって追いかけられて行ったです。


「おのれエヴリル覚えてろよぉおおおおおおおッ!?」

「止まれそこの変態! 逃がすと思うなよ!」

「逃がさなくていいから帰らせてくださいッッッ!?」


 アレが、わたしの勇者様……。

 出会った頃はもっとかっこよかった気がするですのに、どうしてこうなったですか。いえ、今も稀にかっこいい時はあるですが。


「うぅ……ちょっとやり過ぎてしまったです」


 衛兵さんには事情を話して勇者様を解放してもらう必要があるですね。仕事の前に面倒なことをしてしまったです。

 そう思ったですが――


「いやいや、だいたい勇者様が悪いです。たまには一日帰らせず冷たい牢獄で過ごさせるのもいい反省になるです」


 勇者様が本気になれば衛兵さんを返り討ちにできそうですが、流石に勇者様も犯罪者にはなりたくないですし、そんな真似はしないと思うです。


「今日は、久々に一人で仕事をするです」


 そう独りごちて、わたしは借りている宿を出てギルドへと向かったです。


 出会った頃のかっこいい勇者様に戻ってもらうためにも、わたしが頑張らないと、です。


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