3話~幸太郎、死す(精神的に)~
「コータローさーん?起きてくださーい。登録終わりましたよー」
「ハッ俺は何を」
気がつくと周りに集まっていた人々はいなくなり、それぞれの仕事へと戻っている。
どうやら幸太郎が目を開けたま気絶している間にそこそこ時間がたっていたらしい。
「はいどうぞ。ステータスカードを返却いたします。それとこちら、冒険者の方からの奢りだそうです。」
そう言うと受付嬢は幸太郎のステータスカードとビールのような液体を差し出してきた。
(酒か……)
一瞬お酒は20歳からという言葉が頭をよぎったが、よく考えればここは異世界だ。
幸太郎を縛る日本の法律はない。
とはいえ別に幸太郎は酒やタバコに憧れる悪ぶった不良などではない。
むしろそういうものに溺れる人を軽蔑するような人間だった。
だが今は事情が別だ。
幸太郎はちらりとステータスカードを見た。
だがそこにかいてあるのはやはり10前後のステータスと2000万超の幸運。
見間違いではないかと光に透かしたり見る角度を変えたりしたが数値は変わらなかった。
「なあ、念のため聞くけどステータスの平均ってどれくらいなんだ?」
「えーと職業によってだいぶ振れ幅がありますけど、レベル1の農民が平均8~15くらいですね。」
「だよなぁ」
思わずため息がでる。
勇者だ何だというから期待したというのにあのネタステータスは何だ。
幸運だけが異様に高くて他はレベル1の農民の平均の最下層あたり。
これでどう世界を救えというのだ。
(こうじゃないんだよ。俺はこういうのは求めてないんだよ。普通に戦って普通にハーレム作って普通に世界が救えたらそれで満足なんだよ。なのにナニコレ。世界は俺に何を求めてんだよ。そもそも俺この世界来てから特別運がいいとか思ったことないし。むしろ異世界テンプレを既に2.3個逃してるし。こんなステータスじゃギャグキャラ一直線じゃねえか。どーすんだよこのままじゃ勇者5人集結したときに俺だけカレーを延々とたべ続けるイエローみたいなポジションになったら。ちくしょー俺は赤か青がやりたのにぃぃぃいいいいっ!)
頭を抱えてうんうん唸る。
今なら酒やタバコに溺れる人の気持ちが少しだけわかる気がする。
どうしようもない現実を忘れて再び戦えるようになるため酒を飲むのだ。
「あのー幸太郎さん?」
「……」ガッ
「ひっ」
幸太郎は突然再起動してビールのジョッキを掴むと勢いよく呷った。
温い炭酸と馴れない苦味に体が拒否反応を起こそうとするが、それらを無理やり抑え込みまとめて胃の腑へ流し込む。
初めての酒は大人の足がした。
「げふっ」
無事飲み終えると口の周りについた白泡を拭いジョッキをテーブルに叩きつけた。
「受付嬢さん!!」
「はっ、はい!」
直前まで死んだ目をしていたのに突然一気飲みをしだした幸太郎に完全にドン引きしていた受付嬢だが、流石に呼ばれては無視するわけにもいかず営業スマイルを顔にはりつける。
「受付嬢さん、何か手っ取り早く強くなる方とか無いっすか」
「強くなる方法ですか、ありますけど」
「わかっています。そんな虫のいい話があるわけないと。でも俺は強くならなくちゃ……え、あるんですか?」
「はい。ちょうどそのプランについてお話しようと思っていたところで。ステータスカードを見てください。副業の欄が未設定になっているでしょう?」
「あっほんとだ」
「基本的に本業である職業を変更することはできませんが、副業はジョブオーブというアイテムを使うことで自由に変更が可能です。」
「おーそんなアイテムが」
「注意点として副業は本業と違いレベルアップしてもステータスは上昇せずスキルポイントだけしか入手できません。また本業と副業でスキルポイントを共有する事はできません。」
「ふーむなるほど。まぁ戦いの手札を増やせるだけでも充分か。とにかくその何とかオーブを見つければいいんだな?」
「ええ、そしてそのジョブオーブはこちらにあります」
「ええ!?」
受付嬢はコトリとジョブオーブを机の上に置いた。
先程のスキルオーブは薄青色だったが、こちらは薄赤色である。
「実はこのジョブオーブはつい昨日、当ギルドに売却されたばかりでしてね。製造法の判明している【ステータスカード】のスキルオーブと違ってジョブオーブはダンジョンで見つけてくるしか入手法がありませんから大変貴重なんです。それにオーブは基本的に使うまで中身がわかりませんから目当ての副業が出るまで買い漁る人もいて常に品薄状態なんです。
これが今ギルド内にあるのは珍しいことなんですよ?これもアナタの幸運のなせる技ということでしょうか」
「まさか……それを俺に……?」
「もちろんタダではありませんよ。しばらく依頼の成功報酬の1割を代金として天引きさせていただきます。かまいませんね?」
「はい、それはもう、ぜんぜん」
「わかりました。ではどうぞ」
受付嬢は薄赤のオーブを差し出してくる。
それを受け取る幸太郎の手は緊張か、もしくは興奮によってわずかに震えている。
「あの、その前に一つ聞いてもいいか?」
「はい、何でしょう」
「何で俺にこんなによくしてくれるんだ?」
幸太郎には少し疑問だった。
いくらステータスが異常であるからといって所詮自分は戦闘ど素人の新人だ。
そんな奴にこんな貴重な物を優先して売ってくれて、その上料金も後払いでよいだなんてどういうことだろうか。
「別段深い理由はありませんよ。あえて言うならアナタのステータスがおもしろ……興味深かったからです。それに他の人はあまり気にしていませんでしたが天運の勇者という職業……どうやらアナタは何か特別な使命をお持ちのようだ。」
受付嬢はそう言うとジョブオーブを掴む幸太郎の手をそっと包み込むように握った。
「幸太郎さん、私にアナタの天運を見せてください」
受付嬢の目はキラキラと輝いていた。
幸太郎への期待で輝かんばかりだった。
「あっなに何?この子ジョブオーブつかうの?おーいみんなー」
「へぇ幸運2000万の男がひくジョブオーブか。いったいどんな職業が出るのか見物だな」
「おいボウズ!この俺様が我慢しててめえに使わせてやるんだ。変な職業出したら承知しねぇかんな!」
幸太郎がふと周りを見渡すとギルドの中にいた人々が再び幸太郎たちを取り囲んでいる。
彼らは皆一様に応援の言葉を口にしている。
幸太郎は胸が熱くなるのを感じた。
「みんな……。ありがとう。よしやってやるぜ!お前らに見せてやるよ。俺の天運ってやつをな!」
幸太郎の手にしたオーブが赤い光を放つ。
それはそのまま幸太郎の体に吸収された。
そして人々は机の上に置かれた幸太郎のステータスカードを固唾を飲んで見守った。
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名前:コウノ・コウタロウ
性別:男
年齢:18
職業:天運の勇者Lv1
副業:呪術師Lv1
魔力:98/98
筋力:8
耐久:7
知力:12
精神:9
敏捷:8
器用:11
幸運:21335795
所有スキル:【ステータスカード】
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「呪術師……?」
どうなのだろうか。
幸太郎はこの世界の知識があまり無いのでこの職業が強いのか弱いのかよくわからない。
名前からして物凄く地味なことに僅かに不安が首をもたげたが、幸運2000万超えの自分が弱い職業を引き当てるわけないと思い直す。
「なあみんな、この職業は……」
強いのか、と聞こうとして気づいた。
先程まで周りを囲んでいた冒険者やギルド職員がいなくなっている。
あれっと思いさらに奥を見るとまるで何事も無かったかのようにカウンターに座って仕事をしていたり酒場で酒を飲んだりしている。
まるで幸太郎から興味を失ったかのように。
「あの、受付嬢さん。この職業は……?」
唯一自分の周りからいなくならなかった受付嬢に声をかける。
声をかけて初めて気づいた。
受付嬢の目が死んでいる。
先程まで希望と期待に満ちていたはずの受付嬢の目は、まるで何も写していなかった。
「呪術師……。相手のステータスを下げたり状態異常をかけたりして戦う、通称デバッファー。しかし普通のバフと違いデバフは相手にレジストされたりそもそも効かない敵もいる。
そもそも基本的に安定志向の冒険者は相手にデバフをかけなければ倒せないような敵には挑まない。効くか効かないかわからないようなデバッファーを入れるくらいならバッファーやアタッカーを増やす方が効率がいいし安全。……故にぶっちぎりの不人気職。 」
「な……え……そん、な……」
幸太郎は受付嬢の口から放たれる呪術師の欠点の嵐の前にどうすることもできなかった。
ただ呆然とその言葉を受け続けるしかない。
そして決定的な一言が放たれる。
「……ぶっちゃけ期待外れです」
「ぐほぁぁああ」
幸太郎は死んだ。