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2話~お約束がやりたかっただけ~

 「お、あったあった」


 幸い冒険者ギルドはすぐに見つかった。

 というか召喚された場所から3軒ほどしか離れていなかった。

 どうやらなかなかよい場所に召喚されたらしい。


 識字率の関係か、文字の書いてある看板は見つからないが代わりに盾を背景に剣と槍が交叉したいかにも『冒険者ギルドです!』という見た目のマークがデカデカと掲げられている。

 更に顔の怖い重装備の、体全体で冒険者であることを主張する人々が出入りしていればもはや答えは一つしかない。


「ここから俺のチーレム伝説が始まるわけか……」


 何せラノベでよくある巻き込まれ異世界転移ではなく、正式な勇者として召喚されたのだ。

 これが強くないわけがない。

 ……ラノベでは巻き込まれた奴のが強いなんてのはよくある話だがそれを気にしてはいけない。


「いざ往かん伝説へ!」


 そうして幸太郎は冒険者ギルドの扉を開け、


 ずどぉおおおおん!


「ひぇぇええ!何!?」


 目の前に落ちてきた鉄の塊に驚き尻餅をついた。


 いや、それはよく見れば鉄の塊では無かった。

 人だ。金属鎧を着込んだ恐らく冒険者だろう男が落ちてきたのだ。

 男は気絶しているのかピクリとも動かない。


「ふん、下郎が。これに懲りたらもう二度と私の前に現れないことだ。……などと、もう聞こえていないか、軟弱者が」


 声の聞こえてきた方を見るとそこには美しい女性がいた。

 恐らく彼女がこれをやったのだろう、彼女は上げていた足を下ろして残心をとくところだった。

 彼女は残心をとくと側に立っていた少年――冒険者になりたてなのか、初々しさの残る美少年だ──に声をかけた。


「大丈夫か、少年よ。ここではこのようなことが往々にして起こる。注意することだ」


「ひゃっひゃいっ!あ、ありゅがとうございます!」


 話しかけられた少年の方は顔が真っ赤で言葉も噛み噛みだ。

 あ、惚れたな……、と1目でわかる様子だった。


 それも無理はない。


 状況から察するに弱そうな新人冒険者に絡んだ荒くれ冒険者を颯爽と現れた美人冒険者が倒したというとこらだろうか。

 まだ右も左もわからないような新人がこのような刺激的な体験をしたのだ。

 吊り橋効果も相まってコロッと落ちてもおかしくない。


 だが当の美人冒険者はそのことにきずいているのかいないのか。フフッとかるく微笑むと、


「カワイイな君は。どうだ、君さえ良ければこれから少し冒険者について教えてあげてもいいが」


「ほ、本当ですか!?ぜひ!ぜひともご教授お願いします」


 「そうかそうか、勉強熱心で大変よろしい。しかし……注目を集めすぎてしまったな。仕方ない、場所を変えよう。ついてきてくれ」


 「はいっ!」


 そう言うと美人冒険者は出口に向かって歩き出した。

 少年は淡ててそれについていった。


 「あっそうそう」


 彼女は突然立ち止まると思い出したかのように少年の方を振り返った。

 何事かと驚き立ち止まる少年。

 彼女はその手を取って優しく握り、そしてイタズラっぽく微笑むと


 「はぐれないように、な?」


 少年の顔がプシューと音が出そうなほほど真っ赤になると俯き、はい……と言ったきり何も言わなくなってしまった。


 彼女また微笑むとそのまま少年の手を引き、未だ気絶している男と尻餅をつく幸太郎を完全に無視して人ごみの中に消えていった。

 






 「よう、運が良かったなボウズ」


 「うえっ!生きてたのかよオッサン!」


 突然、今まで気絶していたかと思われていた男が呆然としていた幸太郎に話しかけてきた。

 男は何事も無かったかのように起き上がると幸太郎に手を差し出して立たせた。


 「てゆーか運がいいってどういうことだよ。俺的にはあの美女にお手手引いてもらってたあの少年が一番のラッキーボーイだと思うんだが?」


 「バーカ。それがあのビッチのやり口なんだよ。あいつのお眼鏡に叶った新人の少年に金で雇った冒険者を絡ませてそれを颯爽と助ける。その後冒険者の教育って名目で連れ去ってベッドの上で夜の教育を行うのさ。『新人喰らいのエリーナ』っていやぁ有名だぜ?」


 「なんだ、やっぱりラッキーボーイじゃねえかあの少年」


 幸太郎は悔しがった。

 それはもう血の涙も流さんほどに。

 荒くれ冒険者に絡まれるのも美人冒険者と知り合いになるのも俺のイベントではないのか、と。


 童貞で彼女がいたことも無い幸太郎的にはそれが仕組まれた物であっても最終的に美女と18禁的なことができるのらどうだってよかった。

 ベッドの上で夜の授業が受けたかった。


 「……まあ普段扉の外までぶっ飛ばされてる俺が今日はボウズの目の前で止まったんだ。ケガしなかった幸運を喜びな」


 そう言うとその男はギルド内にある酒場の方に歩いていった。


 「……タイミングが悪かったか」


 もう少し早く来ていればあの少年の立ち位置は自分だったはずだ。

 幸太郎はしばらくモヤモヤしていたが、ここに来た本来の目的を思い出すと受付らしき所に歩いていった。




 「すいません」


「はい何でしょう」


「冒険者登録したいんですけど……」


「かしこまりました。冒険者登録ですね。少々お待ちください」


 そう言うと受付嬢は後ろに下がり何かを探し出した。


 受付嬢はお約束に漏れず可愛い娘ばかりだった。

 中にはネコ耳が生えている者などもいて、迸る異世界感にイベントを逃して傷心中の幸太郎の心が癒されていくのを感じた。


(まぁ1個くらいイベント逃してもまだ出会いはあるだろ。落ち着いて行こう落ち着いて)


 そう考えるとだいぶ気持ちは楽になった。


 しばらくすると受付嬢が水晶のような物を持ってやってきて幸太郎にわたした。


「お待たせしました。こちら 【ステータスカード】のスキルオーブです」


「スキルオーブ?なにそれ」


「スキルオーブとは使用することでスキルを得られる魔道具です。そのスキルオーブには【ステータスカード】のスキルが入っており、覚えれば自身のステータスの記載されたカードを出すことが可能なります。ちなみにこのステータスカードの情報を元に冒険者登録を行いますのでスキルを覚えましたらカードを私にお渡しください」


「ほぇー便利なもんだな。それでどうやって使うんだ?」


「スキルオーブを握って使うと念じれば発動します」


「なるほどってうぉわあっ!」


 幸太郎が言われた通りにすると、スキルオーブは青色の光を放って幸太郎の中に吸い込まれていった。


「おお~〜。すげーファンタジーな感じだ」


 正直何かが変わったようには感じられなかったがこの世界に来て初めて体験した魔法的な現象に、これだけで異世界きたかいがあると思った。


「無事完了しましたね。それではステータスカードをお出しください。使い方はスキルと同時にアナタの体に刻まれたはずです」


 言われて気づいたが確かに意識すると頭の中に使い方が浮かんできた。

 少し便利すぎて怖いとおもったがそんな事気にしていたらファンタジーできないと思い直す。


「ええと、【ステータスカード】ってうわわっと」


 スキルを発動すると幸太郎の手のひらからニョキっとカードが生えた。

 その非現実な光景に驚き思わずステータスカードを落としてしまった。

 そのままカッカッと跳ねると受付嬢の手元に転がっていった。


「フフッそれでは拝見させていただきますね」


「はい……どうぞ……」


 恥ずかしかったのと微笑んだ受付嬢が思ったより可愛かったので気恥しくなって下を向いてしまう。

 よもやこの人が俺のヒロインなのか、と思ったときだった。


「え?なに……この……ステータス」


 信じられないものを見たかのような声を受付嬢が出したのは。


 幸太郎がそちらを見ると驚愕を顔に浮かべ手を震わした受付嬢がこれでもかと目を開いてカードを見ている。


 それを見て、そういえば受付嬢が主人公なステータスに驚く、というのも異世界テンプレの一つだったな、と思い出した。


 恐らく自分の勇者という職業とそれに見合ったチート級のステータスに驚いているに違いない。

 そう考えると何だかとてもいい気分になった。


「おやおや?どうしました受付嬢サン?わたくしのステータスカードに何かおかしな点でも?」


「くっ……ふっ……」


 受付嬢は何かを言おうとしている様子だが体が震えてしまって上手く声が出せずにいる。


(俺のあまりのステータスの高さに恐れをなしてしまったか……。まぁそれも無理はないか。なんせ俺、勇者ですし。世界に5人しかいない勇者ですし?こうなるのがむしろ当然っていうか?まったく……何ていうか……たまんねぇなぁああ!)


 幸太郎はもう少しこの優越感に浸っていたかったが、何だか周りの人が様子のおかしい受付嬢の方をチラチラと気にしだしている。

 もし受付嬢を脅しているなどと勘違いされればこのまま摘み出される可能性もある。


 そろそろ受付嬢を再起動させようと幸太郎は声をかけた。


「あの……」


「ぷっくっアハハハハハハハっ!」


 突然受付嬢が声をあげて笑い出した。

 先程までの営業スマイルではない。

 目元に涙まで浮かべた本気の笑いだ。


 先程から様子を伺っていたギルドの人達が驚いている。

 もちろん幸太郎もだ。


「アハハハ、ひぃ我慢、できない、ひぃひぃ、アハ、アハハハっ」


「ちょっと!どうしたのルル!?何わらってんの!?」


「いや、フックク、だってこれ」


 見かねた手の開いている別の受付嬢がやってきた。

 息も絶え絶えの受付嬢は新しくきたツインテールの受付嬢に幸太郎のステータスカードを見せた。


「なにこれ、ステータスカードじゃない。これがどうし……ブッ」


 ツインテールも不意を疲れたように吹き出した。

 それを皮切りに周りにいた人がワラワラと集まって幸太郎のステータスカードを回し見しだし、そしてその(ことごと)くが耐えきれずに笑い出した。


 たちまちギルド内は大騒ぎとなった。


 それに一人取り残されたのが幸太郎だ。


「ちょっとちょっとっ!何なんだよお前ら皆して!俺のステータスがそんなにおかしいのかよ!」


 受付の机を叩き、周りを睨みながら言った。

 しかしそれでも周りはまだクスクスとわらっている。


「ああ、傑作だぜ。こんなステータスはみたことねぇ」

「全くだ。おいマスターこの新人に一杯やってくれ!」

「こんなことってあるのねぇ。長い事この仕事やってきたけどこんなの初めて」


 周りからはそんな事がかけられる。

 聞いてみてわかったが、どうやら悪意のある笑いではないらしい。

 なら何が彼らを笑わせるのか、と考えたところでさっさと自分のステータスを確認した方が早いと気付き、ステータスカードを取り返す。


 そしてステータスをみた幸太郎もまた笑うこととなる。

 

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 名前:コウノ・コウタロウ

 性別:男

 年齢:18

 職業:天運の勇者Lv1

 副業:未取得

 魔力:98/98

 筋力:8

 耐久:7

 知力:12

 精神:9

 敏捷:8

 器用:11

 幸運:21335795


 所有スキル:【ステータスカード】


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 「は、ははっ……」


 その笑いはこれ以上ないほど乾いていたが。




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