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ままならない毎日をそれでも生きる

 今日も今日とて電車に揺られる。

 隣のおっさんは臭いし、目の前のクソガキはイヤホンからやかましい音を垂れ流している。

 あっ……お前、そこの女!!電車でモノを食うんじゃねぇよ!!お前の咀嚼をなんで俺が見なきゃなんねーんだ。


 くそ忌々しいことばっかだ……目に写る全てが気に食わない……


 ダメだ、いかんな。これはよくない。最近疲れが溜まってるからこんなに無駄に苛ついちゃうんだ。

落ち着こう。周りに気がつかれないように深呼吸しよう。


 ってクソばばぁあああああ足踏んでんだよこの野郎!!






「ありやとーやしたー」


 コンビニの弁当も飽きたな〜。かと言って帰り道に弁当屋とかないし、自分で作るのなんかめんどくて嫌だ。

 ってことはこれしかないか……まぁーいいんだけど。


 最近は夜風が涼しげで良いですなぁ〜。

 空とか見上げながらトボトボ歩いてるこの瞬間はわりかし好きだ〜。






 別れてからもちょくちょく連絡してくる元カノってなんなのかね〜。


 風呂もメシも歯磨きも終わってかな〜りリラックスしてたのになんか台無しだわ……。


 恋愛とかもうやり方忘れちゃったしなぁ。

 俺にどうしろってのよ。

 しかもフッたのそっちじゃん。わけわからん。


 なんとはなしに目を閉じるとあの日の光景がうっすら浮かび上がる。


 ホント人間ってままならないよなぁ……。

 もう元には戻らないし、今さら何も変わらないっていうのにやっぱり考えちゃう。


 何がいけなかったのか?なぜ気づけなかったのか?どちらが悪かったのか?


 何かが違えばあの凍てついた冬の夜にあいつの涙を見ることなんてなかったんじゃないか。


 目を開け、部屋のどこでもないところをボーッと見つめる。






 振り返ると膨れっ面の彼女がいた。


「手つなごうよ」


「え?……どしたんだよ急に。いつもはそっちが恥ずかしいとか言って繋ぎたがらないのに」


「……いいから!んっ」


「……お、おう」


 彼女の温もりを感じ、そのまま引っ張るように歩き出す俺


 けれども前に進むことはできなかった。


 その原因となった奴へと振り返る


「え……?」


 繋いだ二人の手に降り注ぐ暖かい雫。


「お、おい」


 ただただ泣きじゃくる彼女に何も出来ない俺。


「うおっ」


 急に手を引っ張られ、よろめく俺にしがみつくように抱きつく彼女。


「うぐっ……ひぐっ」


「い、いやいやお前急にどしたんだよ?」


「別れよう……」






 いまだに理由はちゃんとわかんないんだよなぁー。でもま、こういうこともあるんだろうなぁ……。考えてもわからないことをグルグルと考えて、結局時間が解決してくれるのを待つしかないって結論に至るのが、最近の俺の暇つぶし方法だ。






「うわぁ……」

 雑踏の中で立ち止まりドン引きする。


 変態かよ俺……。


 あいつのよくつけてた香水の匂いに気付いて周りを探しちゃったりしてるよ……。


 自己嫌悪で吐き気がしてくる。


 こんなに弱い男だったんだなぁ……俺。


 あー仕事サボって帰りたくなってきた。


 失恋して仕事が手につかないとか乙女か俺は。


 ため息と苦笑いで吐き気を抑え込む。


「よし、行くか」






「「あっ」」



なーんでこういうことになるかねぇ……


「久しぶりだね」


「偶然ばったりとかホントにあるんだなぁ」


「一言目それなの?まぁーあなたらしいっちゃらしいけど」


「うん、まぁー元気そうでなによりだよ。んじゃな」


「ちょちょっ!久々に会ったんだからご飯くらい行こうよ!」


 なんでやねん。


「……」


「……」


「居酒屋でいいのか?」


「うん!」


 満面の笑みですね。そうですね。

 はぁ~俺ってダメ人間だ。




 彼女はよく食べよく飲みよく笑った。


 それに答えるように俺もしゃべり、苦笑いする。


 この空間にあるのはあの頃の幸せの残滓だ。

 何か忘れていることがあって、それが何かを思い出せずにいる。そんな妙な感覚が心に漂っていた。



「私、プロポーズされたんだ」


「あ?」


 後ろを歩く彼女からの唐突な告白


「私ね、昔からお嫁さんになるのが夢だったんだ」


 知ってた。でも俺は結婚はまだ早いと思ってた。仕事もまだ慣れていなかったし、収入だって低い。専業主婦になりたがっていた彼女やその後に出来るだろう子供を養っていくというビジョンが全然見えなかったからだ。


「その人は私のことを一生大切にするって言ってくれたんだ」


「……」


 驚いたとか悔しいとかでなく不思議と納得ができた。


 だがやはり悲しい。

 

 何も答えない俺に彼女は手を差し出してきた。


「ねぇ」


 無言のまま彼女を見る。決して恨みがましくならないようにと、自分の弱さが伝わらないようにと……祈りながら。


「手つなごうよ」


「え?」


 不安そうに揺れる瞳と右手。


 差し出された手をじっと見つめる。


 こんなに儚げな奴だっただろうか。


 いやそうだったのかもな。

 俺は弱い人間だ。 


 だから彼女は強い人間なのだと思ってた。


 だけどまぁーそんなわけでもなかったんだな。


 俺が気づけてなかっただけで、彼女も別に強いってわけでもない。それだけのことだけだ。


 俺は彼女のことが今だに忘れられない。まだ、愛情の残り香が心の中に渦巻いている。


 でも、これはもう終わった物語なのだ。


 奇跡の逆転とかどん底からの復活とかそういう素敵なハッピーエンドなんか用意されていないどこにでもあるような現実での地味な失恋話。


 なんだ。ただただ、俺が彼女にフラれたってだけか。それだけのことだったのか。


 ははっ……そっか。


 なら、決して君のせいじゃない。


 風がすり抜ける。


 彼女の手を掴み少し強引に引く。

 こちらによろける彼女を抱き止め、強く抱き締める。


「えっ?えっ?」


 戸惑う彼女の両肩に手を置き、身体を離す。


 そして思いっきり身体を半回転させ、背中をドンっと押す。


「わっ!?きゃっ!!」


 驚き、戸惑い、そして怒りのこもった視線をこちらに向けてくる


「もう!なんなのよ!」


 今さら何かを言えるわけがない。だから……


「じゃあな、幸せになれよ」


「えっ……」


 振り返り、歩きだす。


 もう元には戻らない。


 だから振り返らない。


 あの時と同じ雫の落ちる音が心を叩いても。


 もう振り向かない。






あのさぁーなんで女性専用車両があんのにわざわざこっち乗ってくるわけ?おたく。


あとお前!!そのパンパンのリュックは手で持てよウザってぇんだよ!!

ついでにゲームもやめろバカやろう!!


おいおっさん!!せめてガム食え!!口くせぇーんだよ。 


くそばばぁあああああああまたてめぇええかぁあああああ!!




 夜道をトボトボ歩く。片手にはいつものコンビニ弁当。


 夜風が気持ちいい。


 あれから、あいつから連絡はない。少し寂しい気もするが、これでよかったんだと思う。

 それに、なんとなく忘れたものは取ってこれたような気がするから。

 こんなクソッタレな毎日でも、この前までよりは少しマシだと思えるから不思議だ。



 なんか新しいことしてみようかなぁ……。


 ふむ、一先ずこの毎晩コンビニ弁当状態を改善すべく自炊でもしてみますかな?


 うわぁー生きるってめんどくさい。





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