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「好きだ」と言えば楽なのに、

ザワザワ。

ザワザワザワザワ。


「‥鬱陶しい。話があるなら直接言いにこればいいのに」

「無理もないんじゃない?黒髪黒目だったあんたがいきなり金髪茶目の洋風美人になっちゃったんだから」


昼下がりの休み時間。

自分の机にほほをへばりつかせてうだる私を慰め半分呆れ半分の悠世が言った。そしておまけと言わんばかりに、2日前に一条が染めた髪に触れた。


「にしても綺麗に染まってるわね」


…地毛ですから。

とは言えず、私はただされるがままになって悠世を見る。窓を開けていたせいで、ふわりと風が教室に吹き込んでくる。その風に悠世が触れていた髪が揺れた。


「…にしても先生たちも何も言ってこないなんて。いくら校則がばかみたいに緩いからって、今まで黒髪だった子がこんなに明るい色に染めてたら風紀委員くらいなんか言ってきてもいいのに」


それはですね、私がこの学校に入学する時は今のこの髪色で、これで登録してあるからなのです。つまり、規律にうるさい風紀委員も教頭もなにも言えないのです。戻っただけだから。


「お前らとっとと席つけー。学園祭の話すんぞー」

「ああ、もうそんな時期」

「らしいね」


がっくんの言葉に悠世は黒板に書いてある今日の日付を確認した。そして「じゃあね」と一言告げて自分の席へと戻っていく。それと入れ替わるように隣の席に着いたのは、当たり前だけど一条だった。

あの日以来、この髪を染めた日以来、私と一条は何とも言えない雰囲気を醸し出していた。

それは私が泣いたから。

それは一条が舌打ちをついて出ていったから。

理由は探せばたくさん見つかるけれど、その解決策は何一つ見つかってなんかいない。

ただぎくしゃくした関係が続いている。

一言もしゃべっていない。

それどころか、極力目を合わさないようにして、お互いにお互いを避け合っている。


「じゃあ今年はなにしますかー?」


毎度のことではあるけれど、がっくんは学級委員にすべてを投げやって机に突っ伏している。

あれって職務怠慢になったりしないんだろうか。


「夏だしやっぱ肝試しかなー」

「俺喫茶店とかのいいなー」

「やっぱ涼しいのがいいよね」


富樫の言葉にクラス中から声が上がる。それを日向さんが聞き漏らすことなく、箇条書きであるけれど黒板に書きとめていく。

さすが、出来る女子は違うなぁ。


「先生、今年の予算はどれくらいですか?」

「‥あー…いくらって言ってたかな‥まぁ去年とそんなかわんねぇだろ」

「去年を覚えてないから聞いてるんですけどー?」


富樫の言葉をがっくんは無視して、再び頭を下ろして机に突っ伏してしまった。いったいどこの学生だよとつっこんでしまいたくなる。ていうかどっちが学生なんだか。


「まぁお化け屋敷ってのが無難だよな」


富樫が黒板を見ながらうんうんと頷く。そして確認のためにがっくんの方を見たけれど、聞こえてきたいびきにため息をついてみんなの前に身体を向けた。


「異論ある人」


いや、あるだろうに。

とは思うものの、夏と言えば肝試し!と思っている人が多いらしく、結局多数決っていう原始的な方法で決まってしまった。


「とりあえず、分担だけしてしまわねぇとみんな動けねぇよな」


富樫の言葉に日向さんは手早く黒板にいくつかの役職を書いていく。ほんっと仕事できるなぁ。


「とりあえずやりたいものに挙手。えーっとまずお化け役」


その言葉に数人の手が挙がった。それをぼーっと見ながらめんどくさいなぁなんてことをまた考えてしまう。

こういったクラスの出し物って絶対みんなに役職とか回ってくるからサボれないからあんまり好きじゃない。という私のどうしようもない思考回路はおそらく富樫にはすでにばれているらしく、先ほどから目を光らせて、私が手を挙げているかいないかをチェックしていた。

…ほんと、なんなのあいつ。


「じゃあ残ったやつで受付決めるぞー」


…あれ。まず先に大道具とかじゃないの。

なんていう私の疑問は流されて、受け付けを決めるべくみんなは思案しているようだ。と、そこでなんともバッドタイミングでがっくんはむくりと起き上がってしまった。


「あ、がっくん。今受付の人決めてるんだけどさ。どんな奴がいいと思う?」

「受付?」


それ、がっくんに聞くか、普通。あいつが言ったことは大抵覆らないってことを利用しすぎじゃないか?


「受付はまぁこのクラスの出し物の顔になるからなぁ…イケメンと美人を持ってきときゃあ問題ないんじゃねぇか?」


そう言うだけ言うと、がっくんは「ふぁ‥」と大きなあくびをかいてまた頭を机につっぷせた。その一瞬の動作なのに、頭を伏せるがっくんと目が合ってしまったのはなぜだろうか。

なんだかすごく、ものすっごく嫌な予感がするのは私だけだろうか。


「つーことなんで、神崎頼むわ」

「…は?」


いやいやなんでそうなる。

目が点の私を置いといて話は進んでいきそうになる。


「いや、誰もうんなんて言ってないんだけど」

「え?だってがっくんが言う美人なんてお前くらいじゃん」

「いや知らないけどさ。私そんな美人な方でもないし」

「えー‥お前今の発言で世界の女の半分は敵に回したぜ?」


…世界の半分って‥んな大げさな。


「いいじゃん。受付は男女でって決めてたしさ。一条と一緒に受付すれば」


なぜかすでに数に入れられている一条。可哀想だとは思うが、一条と一緒にするとか正直地獄でしかない。


「いや、なら尚更無理だって」


別に一条を否定するわけじゃない。いや、今の言葉だけを聞いてたら完全に一条を否定してるようにしか見えないんだけど。


「がっくんが言ったことは覆らないってお前去年嫌ってほど経験したじゃん」


だから諦めろ、と口では言わないけれど、言葉の最後にそう聞こえた気がした。そうだとわかっていたとしても、今の私はそれを受け止めるほどの余裕とかはない。


「まだがっくんは私の名前出してないじゃない」

「でも寝る間際にお前の方見たじゃん」

「見ただけで私を見たとは限らないでしょ」


私の2つ前の席には可愛いと有名な悠世だっているのだ。もしかしたら悠世を見たのかもしれない。そんな淡い期待を言いはしないが胸に抱いて富樫を見る。


「文句なら起きた後のがっくんに言え」


富樫はそれだけ言うと日向さんが持っていたチョークとは別のチョークで私と一条の苗字を書いた。

‥なんでそうなるのぉ!?

まさかこの時、狸寝入りでほくそ笑んでいるがっくんがいたとは思いもしなかった。







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