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戦いと調和の獣神

 

 別の日、下級神は箱庭の中に砂漠を見つけた。


 下級神から見れば小さなものだったが、気になったので箱庭に()えられた《時の記録》を(さかのぼ)り原因を調べた。


 どうやら(いくさ)の後らしい。


 小さな国々が互いに争い殺し合った結果、激しい戦火が(あた)り一帯を草の根までも焼き尽くしたのだ。どの国にも善があり、どの国にも悪があった。そして、どの国にも信仰はなかった。砂漠に彼らの命は(ほとん)ど残っていなかった。


 しかし、悲しむ下級神の目の(すみ)に動くものが映った。それはいつか山の(ふもと)で見たのと同じ獣だった。どうやらここで生き残っているのはその獣一匹らしい。山の麓の国から信仰を広める為に諸国を回る途中で不運にも戦禍(せんか)(こうむ)ってしまったようだ。獣の命ももうすぐ尽きようとしていた。傷だらけの身体の(かげ)には守るようにあの時一緒にいたもう一匹の獣の亡骸(なきがら)(のぞ)いている。


 下級神は亡骸の傷を(ふさ)ぎ、姿を借りて獣の前に現れた。魂に残っていた思念(しねん)を通し、獣に痛みと悲しみを乗り越える為の癒やしを与えようとしてみた。しかし、無情の戦に傷付いた心からは信仰の灯火(ともしび)も消えかけており、幻を見るようなぼんやりとした瞳にはたいして効果が出なかった。そこで、癒やしではなく力を与えることにした。


 憎しみをねじ伏せる目、怒りを説き伏せる口、迷いを断ち切る(こぶし)


 力はゆっくりと染み込むように獣を満たした。すくりと立ち上がった獣のそれからの働きは下級神すら感心する程であった。疲弊(ひへい)しつつも火種を(くすぶ)らせていた国々を次々と(まと)め上げると、最小限の被害で(またた)く間に戦を収束(しゅうそく)させた。そして、砂漠に新たに国を作った。


 対象は癒やしの天女から戦場で見た幻へと変わったが、信仰の灯火は炎のごとく高まった。獣を助けたのはまさしく自分とよく似た幻の力であったから。


 下級神は獣の最期を見届けると、その命を(ねぎら)い獣を、改めて幻ではない本物の戦いの御遣(みつか)いとすることにした。そして、今回の成功に(ひそ)かに安堵(あんど)した。


 やがて、砂漠の国には戦いと調和の獣神を(ほこ)る信仰がその武勇(ぶゆう)と共に広まった。

 


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