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TとUの理不尽クイズ

成立しないゲーム<解答編>

作者: フィーカス

「成立しないゲーム」の解答編です。まず問題編のほうを読んでもらえるとありがたいです。

 Uの話を聞いて出題したKの問題。


 寒い冬、とある部屋で人が閉じ込められてしまった。

 幸い照明はついたものの、窓は無く、ドアは鍵ががっちりしまっていて開けることができない。

 エアコンなどの空調設備はなく、暖を取れるようなものも無い。

 どんどん室温は下がっていき、このまま眠ってしまっては全員凍死してしまう。

 起きている四人はなんとか助けが来るまで起きていられないか、知恵を絞った。

 そこで、四人は一つの方法を思いついた。

 起きている人間でまずじゃんけんをし、スタートする人を決める。その後、部屋の隅にそれぞれ一人ずつ立つ。スタートする人が時計回りに壁伝いに歩いていき、部屋の隅にいる人にタッチする。タッチしたらその人はタッチした人がいた場所にとどまる。タッチされた人は同様に壁伝いに歩いていき、次の人がいるところまで来たらその人にタッチをしていく。これを助けが来るまで繰り返し、数時間後、助けが来て全員助かった。

 同じような話を聞いたことがある人は、このゲームが成り立たないということを知っているだろう。が、このゲームは誰が見ても明らかに成り立っていたのである。もちろん、誰もいないところをスルーして次の人のところまで行ったわけではないし、途中で誰かが部屋に入ったわけでもない。

 このゲームが成り立っていた理由は何だろうか。



「さてU君、問題の整理も済んだし、先ほどの見解をもう一度説明してもらおう」

「Kよ、何故同じことを二回も言わなければならないのだ?」

 最後のチョコレートケーキを食べ終わるとKはコーヒーを優雅に飲み始めた。

「迷える読者の皆様に、君の華麗なる解答の一つを聞かせてあげたまえといっているのだ」

「読者って誰だよ」

 Kは見えない相手にでも話す病気にかかったのだろうか、という表情でUはKを見る。

「そもそも、あれが答えでいいのか?」

「ああ、それが答えの一つだからな。とりあえず、切ねえ説明してくれ」

 Uはなんだか納得できないような複雑な表情を浮かべる。

「切ないかどうか知らんが、仕方ないな、じゃあもう一度説明しようか」

 そういうと、Uは一度コーヒーを口にし、ふぅ、と息をつく。

「まず、部屋に閉じ込められて、そのうち起きている四人は助けが来るまで眠らない策を考えた。で、あのゲームを考えたわけだ。しかし、長方形の部屋で、このゲームを四人でやろうとすると成立しない。そこで、疲れて『寝ていた』五人目をたたき起こし、起きている五人でゲームを開始したのだ。これならゲームは成立する」

「ふむ、その通り」

 Uが言い終えると、間髪いれずにKが口を挟んだ。

「たしかに、起きている四人が知恵を絞ったとは言ったけど、閉じ込められた人数が四人とは書いていないからな。別に疲れて寝ている人がいても不思議じゃないだろう。そいつをたたき起こせば、ゲームが成立するわけだ」

 言い終わると、Kはコーヒーカップを手に取る。

「まあ確かにそうだけど、なんだか納得いかないな」

「それが君の脳に潜入した先入観というものだ。似たような話、知っている話ほど、その話の詳細が記憶に刻まれる。結果、似たような話には、定時に提示されていない情報まで勝手に脳内が作り出し、解凍されない解答の妨げになるのさ」

「駄洒落はともかく、なるほどねぇ」

 Uは自分で書いた図を眺めながら、Kの解説を聞いていた。

「さて、もう一つの可能性だが」

「それも先入観の問題か?」

「もちろん」

 Kは手に持ったコーヒーカップをゆっくりとコースターの上に置く。

「さっきの解答も、先入観丸出しで答えていたからな」

「……?」

 一体何が先入観だったのか、良く分かっていない様子のU。

「さてUよ。このゲームが成立するためには、何人の人間が必要だ?」

「さっきも言っただろう。長方形の部屋でこのゲームを成立させるためには、五人必要だって」

「長方形、か。じゃあ仮にその部屋が五角形だったらどうだろう?」

「五角形? そんな部屋あるのか? まあ、そうだなぁ。五つの隅に一人ずつ配置して、成立させるためにはもう一人必要だから、全部で六人必要になる」

 Uは最初の話で説明のために使った用紙に五角形を書き、その隅に番号を振りながら説明した。

「その通り。もう少し言うなら、X角形の部屋でこのゲームを成立させるために必要な人数Yは、Y=X+1ということになる」

「なんか、ややこしいな」

「要するに、部屋の隅の数より一人多ければ成立するって話だ」

「最初からそういえばいいだろ」

 用紙に数式を書こうとして、Uはそれをボールペンでぐしゃぐしゃと消した。

「では逆を聞こうか。今回みたいに四人でこのゲームを成立させる場合、どんな部屋だったら成立する?」

「えっと、さっきの話だと、参加する人数よりも隅の数が一つ少ない部屋ならいいから……あっ!」

「ようやく気が付いたようだな」

 Uは同じく用紙に番号を振り、部屋の形を書こうとして気がついた。

「四人でこのゲームを成立させるためには、隅が三つの部屋、つまり三角形の部屋であればよい。すなわち、四人が閉じ込められていた部屋は、複雑な三角関係が生まれそうな三角形の部屋だったというわけだ」

「く、やられた……」

 Uは用紙に三角形を書き、そこに番号を振ってこのゲームが成立することを確認した。

「さっきから長方形長方形と言っていたが、別に俺は長方形の部屋とは言ってないからな。まあ、普通部屋といえば長方形の部屋を想像するだろうし、最初の話でも『長方形の部屋で四人でやろうとすると成立しない』と言ってたからな」

 くぅ、とUはさきほどから言葉が出ない。

「さて、Uが落ち込んでいるところで追い討ちをかけるように私の新しいキメ言葉を昭和風に唱和させてもらおうか」

「笑話が何だって?」

 気力が無いツッコミを入れるUの言葉を聞き流し、Kは突如席を立った。



「はっはっは、華麗なる完全勝利です、名探偵!」


「いやいや、俺に一つ解かれてるじゃないか。完全じゃないぞ」

「ん、そうか、じゃあそうだな」

 再び台詞を練り直すK。



「はっはっは、優雅なる大勝利です、名探偵!」


「もはやどっちが格上か分からんな」

 昼下がり、人が少なくなった喫茶店に、Kの笑い声が目立って聞こえた。

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