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鋼を操る男 〜元鉄鋼マンの俺、ハズレスキル【アイアン】で辺境村を鍛え直す〜   作者: 月神世一


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EP 7

成金会長の来訪と、親の顔(S級)

ある日の午後。

のどかなララサ村の広場は、かつてないほどの騒然とした空気に包まれていた。

「な、なんだあれは……?」

「すげぇ……車輪のスポークまで金ピカだぞ……」

村人たちが口を開けて見上げているのは、巨大な2頭の『ロックバイソン(岩角牛)』に引かせた、一台の超大型牛車だった。

いや、牛車という表現は正しくない。

屋根には無駄にデカい純金のシャチホコが鎮座し、車体は成金趣味全開の黄金塗りで、窓にはギラギラと輝く宝石が埋め込まれている。まさに「歩く金塊」とでも呼ぶべき、悪趣味の極みのような乗り物だった。

ガチャリ、と重厚な扉が開き、レッドカーペットが自動でスルスルと階段に敷かれる。

「ふぃ~……土田舎臭い所やなぁ。あぁ、純金の匂いが懐かしいわ」

中から姿を現したのは、ド派手な虎柄のファーコートを羽織り、首にはジャラジャラと極太の金ネックレスをぶら下げた、50歳くらいの男だった。

縦に割れた瞳孔を持つ『蛇目族へびめぞく』。

マンルシア大陸全土の流通を牛耳る超巨大企業、ゴルド商会のトップ・オロチ会長その人である。

(……なんだあれは?)

広場の隅でその様子を見ていたリオスは、前世の記憶を頼りにツッコミを入れた。

(大阪の……いや、名古屋のパチンコ屋の社長にしか見えない。成金趣味全開なおっさんだな)

そんな俺の呆れ顔をよそに、騒ぎを聞きつけた父さん(ガリン)と母さん(アリア)が広場にやってきた。

「……オロチ会長」

父さんが低く、油断のない声で呼びかけると、オロチ会長はニタァッと蛇の目を細めて笑った。

「お~! 『閃光のガリン』やないか! 久しぶりやなぁ!」

オロチ会長の口から飛び出した、聞き慣れない二つ名に、俺は思わず耳を疑った。

(……せんこう? 閃光のガリン!? 父さん、現役時代そんな中二病みたいな通り名で呼ばれてたの!?)

「ルナミス帝国でブイブイ言わせとったのに、急に音沙汰なしになってもうて。アンタらが引退したせいで、ワテの金回りが随分と狭く……いやいや、って事は、そっちにおるのは『戦聖女のアリア』も一緒やな!」

(戦聖女!? 母さんも大概だな!!)

内心でツッコミが追いつかない俺をよそに、母さんは普段の優しげな笑みを浮かべて会釈した。

「ご無沙汰しています、オロチ会長。相変わらずお元気そうで」

「おぉ、相変わらず美人やなアリアはんは。そないなド田舎に引っ込んどるには勿体ないで!」

「まぁ、オロチ会長ったら。お上手ですね」

旧知の仲らしい大人たちの会話。しかし、父さんの顔は険しいままだった。

「それで、ゴルド商会のトップがわざわざこんな辺境のララサ村に何をしに? まさか、俺たちと昔話(同窓会)でも始めるつもりで来たわけじゃないだろう」

「そやない」

オロチ会長はパチンッと指を鳴らし、ギラリと光る蛇の目を、父さん越しに『俺』へと向けた。

「ワテが来たのは……そこの坊主。リオスとか言うたんやな。それに用があんねん」

「……リオスに?」

「そや。こんなへんぴな所から、急に不純物ゼロの高純度の砂鉄が500キロも出てきたんや。ウチの査定員が腰抜かしとったわ。……そんな異常なモンを見せられたら、商人のトップとして、そら『製作者』の顔を見に直接出向かんといけないわなぁ?」

オロチ会長の口角が、さらに吊り上がる。

その瞬間。

ゴォォォォォォォォォッ!!

「――オロチ会長」

父さんの足元から、マグマのようにドス黒く煮え滾る『赤い闘気』が、竜巻のように立ち昇った。

周囲の空気が一気に重くなり、呼吸すら苦しくなる。馬車を引いていた巨獣ロックバイソンでさえ、怯えて後ずさりするほどの凄まじい威圧感。

「息子を……どうするつもりで?」

それは、ただの村の自警団の顔ではない。

かつて大陸の覇権を揺るがす魔獣たちを屠ってきた、『S級冒険者(閃光のガリン)』の絶対的な殺意だった。

「ひゅっ!?」

オロチ会長が、顔を引きつらせて一歩後ずさった。

いくら大陸屈指の権力者とはいえ、目の前にいるのは理外のバケモノ夫婦である。護衛の傭兵を何十人呼ぼうが、1秒で首を刎ねられると本能が理解していた。

「ま、ままま、待ちぃや! ガリンはん! 闘気引っ込めぇや!」

オロチ会長は両手を前でブンブンと振り、冷や汗をダラダラと流しながら弁明した。

「喧嘩をしに来たんやない! ワテは商人や! ビジネスの話をしにきただけや! ほんまに、悪いようにはせんから!」

命の危機を感じた成金会長の必死の説得。

そこへ、母さんがスッと父さんの肩に手を置いた。

「ビジネス……。そう。まぁ、こんな広場では何ですから。よろしければ、我が家でお話を伺いましょうか?」

母さんの笑顔の奥底に「妙な真似をしたら私がヒール(物理)で消し飛ばしますよ」という圧を感じ取ったのか、オロチ会長は何度も激しく頷いた。

「さ、流石はアリアはんや……! 話が早くて助かるわぁ……!」

こうして、5歳児が川辺で錬成した砂鉄は、大陸最大の企業トップを巻き込む特大のビジネス(厄介事)へと発展し、我が家のリビングへと舞台を移すのであった。

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