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呪いの姫は祝いの王子に愛される  作者: 七賀ごふん
囲いの鳥

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7/10

#7



「背く……」


そうだ。無我夢中だったから抜けていたけど、確かに反逆と等しい行動を起こした。


改めて他人の口から聞くと、とても重い言葉だ。 重すぎて、宙に浮いていた心がゆっくり沈んでいく。

「そう……ですね」

何の鳥か分からないが、頭上で断末魔のような鳴き声を上げている。

ぞくっとして、少しだけ身を縮めた。

リザベルはわずかに目を細めた後、と俺の頭を撫でた。


「私は君の一族の青年に襲われて、取引を持ちかけられたんだ」

「取引?」

「そう。ちょうど部下と歩いていたんだが、その部下を人質にとられた。油断していた自分が悪いんだけど、まんまと呪術にかけられてしまった」


話を聞いて納得した。彼は聡明に見えるし、力ずくでなければ易易と敵の手に落ちたりしなそうだ。

レイスの奴、やっぱり卑怯な手を使ったんだな。


「貴方を襲ったのは俺の従兄弟です。本当に申し訳ありません」


謝って済むことではないけど、代わりに頭を下げる。リザベルは少し考えて、それから片手を翳した。


「私を邪魔に思ってる誰かが、君の従兄弟に頼んだんだろう。それは仕方ないし、君達の家業を否定するつもりはないよ」

「でも……」

「それに、君は私を助け出してくれた」


────どうして?

言葉にこそしないが、彼の瞳はそう尋ねていた。


「俺は、一族のやり方は間違ってると思うんです。呪術がないと困る人がたくさんいるんだろうけど、……呪術のせいで困る人達のことを考えてしまう」


そのせいで上手く力を扱えないのかもしれない。

一族の落ちこぼれで、役立たず。だから家から出た方がいいのも確かだ。

「そうか。それじゃこれは、決死の家出というわけだ」

「家出。まぁ……?」

そうなるのかな?

言われるままに頷くと、彼はさらに嬉しそうな顔でうんうんと頷いた。

「良いと思うよ。ユノは二十歳だったもんね。自立するにはちょうどいい」

彼はひとりで感心しているが、ふと疑問に思ったことがある。

俺、彼に年齢は教えてないような。

どういうことかと眉を寄せたとき、再び手を引き寄せられた。


「それなら決まりだ。私を助けてくれたお礼に、君の家出に協力しよう」

「え!」

「追手が来るかもしれないし、ひとりじゃ不安だろう。無事に街に下りるまで、一緒に行動した方が良いと思うよ」


確かに。父や他の誰かが追いかけてくるとも限らない。

俺は呪術師として未熟だから攫われても価値はないけど、それでも跡取りがなにかやらかせば一族の名に傷がつく。それは彼らも避けたいはずだ。

だから誰にも見つからないよう、身を潜めて暮らせたらいい。一族にも迷惑をかけず、誰も傷つけずに済むように……。


「本当に、一緒に行動していいんですか?」

「あぁ。むしろこちらがお願いしたい」


彼がそう言ってくれたので、手を握り返した。

「ありがとうございます。それなら是非、お願いします」

「こちらこそ。末永くよろしく」

す……末永く?

またまた謎に感じたが、その場はひとまずやり過ごした。至極簡単な紹介を終え、休めそうな場所を探した。

とても小さな小川のほとりで顔を洗い、少しだけ水を含む。あまり飲むとお腹を壊すと言われたので、ハンカチをぬらして顔をぬぐった。


「今夜は野宿だね」


リザベルは落ち葉を集め、平地に敷いていく。最初は何をしてるのか分からなかったが、後で寝床を作ってるのだと気付いた。

「疲れただろう。もう休もう」

「はい」

リザベルは上着を脱ぐと、それを俺の上に被せた。そして腕を差し出し、「ほら」と促す。

「えーと……?」

「頭を乗せていいよ」

「だ、大丈夫ですよ。腕痺れちゃうじゃないですか」

「平気。それに夜中は冷える。嫌かもしれないけど、身を寄せ合っていた方が良い」

ね、と微笑まれ、おずおずと彼の腕に頭を乗せた。

……あ。


しかし直後に失敗だったと気付く。彼の方に向いてしまった為、互いにの顔を眺める体勢になってしまったからだ。


恥ずかしい……。

今さら身を捩るのも変な気がして、視線を下に下げた。リザベルの胸が近過ぎて、妙に意識してしまう。

自分の鼓動は速くなってるし。バクバク鳴ってるのが聞こえたらどうしよう。

不安から、寝つくまで他の話をすることにした。


「で、でも。火事に巻き込まれなくて本当に良かったです。俺達からすれば僥倖でしたね」

「そうだね。原因が何だったのか気になるけど……」


リザベルは自身の唇に手をあて、瞼を伏せた。

薄い桃色の唇。あまりに綺麗で、つい見惚れてしまった。

「ユノ?」

「あ、はい! 何ですか?」

「いや。色々不安だろう? 初めて家出した上に、こんな場所で寝泊まりなんて」

「あぁ……大丈夫ですよ。森なら何度も歩いてますから」

嘘をついた。

この歳まで一度も外に出たことがない。足手まといになるかもしれない存在だと思われたくなくて。


自身の虚勢に辟易しつつ、当たり障りない笑顔を浮かべた。彼は、少し困ったように笑った。


「そうか。……それじゃ、もう少しだけ頑張ろう」

「はい。おやすみなさい」


怖いぐらい静かな森の中。

不安じゃない、というのも嘘だ。本当は不安で仕方ない。これから独りで生きていけるのか。住む場所は見つかるのか。色々な思考が駆け巡り、頭の中を殴りつけていた。


城にいた時は考えもしなかったことだ。

あの時は、むしろリザベルの世話もしていたんだから。




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