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呪いの姫は祝いの王子に愛される  作者: 七賀ごふん
囲いの鳥

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6/10

#6



問題はどうやって外に連れ出すかだ。

ここは二階。彼を背負ってまた一階へ行くことになる……けど……。


( それだとレイス達に捕まる )


他の抜け道を探さないと。でも窓から飛び降りたらタダじゃ済まないし、どうするかな。

頭を抱えて考えていると、廊下の奥に外階段があることを思い出した。ただ普段は施錠されており、鍵がどこにあるのかも知らない。


煙が入ってきたら本当にまずいし、これ以上悠長に構えることはできない。人命優先でリザベルをおぶろうとしたが、

「えっ!?」

手を取ろうとしたのに逆に腕を掴まれ、引き寄せられた。バランスを崩し、リザベルの上に豪快に倒れてしまう。


「いたた……え?」


倒れ込んだまま、必死に考えた。


ひとつの推測が頭を過ぎる。

まさか。いや、あり得ない。……でも、間違いなく抱き締められてる。

何度かまばたきして、恐る恐る顔を上げる。


「初めまして。……って言うのも変な感じだね」


夢じゃないかと思う。降りかかった声を聞いても、まだ呆然としていた。

しかし声の主は優しい音を奏で、俺の唇を指の腹で撫でる。

「でも嬉しいよ。やっとこうして触れられる」

そう言うと、上体を起こした彼は微笑んだ。

「な、な、な……」

リザベル。彼はとても自然な動作で目を覚ました。


「何で起きられるんですか!?」

「何でだろうね。私にも分からない。でも……」


リザベルは軽く首を傾げた後、思いきり腕を伸ばした。

「そのことはまた後で。騒ぎが聞こえたけど、逃げないといけないんだよね?」

「あ、そう! 下で火事になってるらしくて……」

けど、表から出たら捕まってしまう。

「外階段があるらしいんですけど、鍵がどこにあるか分からないんです」

「なるほど。大丈夫、とりあえずそこに連れて行ってもらえるかな」

彼はベッドから起き上がり、俺の手を引いた。

改めて見ると、とても長駆の青年だ。つい見惚れてしまいそうになるが、慌てて現実に戻る。


「こ、こっちです」


普段は誰も入らない部屋を抜け、朽ちたドアの前に立った。するとリザベルはポケットから道具を取り出し、そう時間もかけずに解錠してみせた。

「闘うのは苦手だけど、こういうのは得意なんだ」

「すご……」

いや、普通にすごい。ひたすら感心していたが、手を引かれて外に飛び出た。

空は暗かったが、飛び込んできた景色に目を奪われてしまった。


あ……。


風が頬に当たる。

頬だけじゃない。全身で感じている。


絶体絶命の状況なのに、外の世界に踏み出したことに衝撃を受けていた。

「足元気をつけて」

「はい……」

腰に手を添えられる。空いた手は繋がって、エスコートされてるようだ。

城の正面はやはり騒がしかったが、俺達は反対に更に奥へと突き進んでいった。

城から離れられたことにはホッとしたけど、今度は静寂が不気味に思えた。息も上がっていたので、適当な場所で休憩する。


「大丈夫ですか?」

「あぁ、目覚めの運動になった。君は? 怪我はない?」

「大丈夫です」


頬や手を触られ、何だか恥ずかしくなる。

正直まだ慣れないし、どう接したらいいのか分からずにいた。


ずっと一緒にいたけど、“初めまして”の人。

気まずい気持ちもあって、ついつい距離をとろうとしてしまう。


こちらの心中を察したのか、彼は困ったように笑った。

「私と一緒に勢いで逃げたこと、後悔してるかい?」

「いえ! ……後悔はしてません」

白衣についた土埃を落とし、静かに応える。


「俺はあそこで生まれ育ったけど、死んでるようなものでしたから。……死に場所ぐらいは自分で決めたいです」


そう告げるとリザベルは目を見開いた。わずかに視線を逸らした後、俺の手を取る。

「それも大事なことだと思うけど。もっと大事なのは、君が自分らしく生きられる場所を手に入れることだ」

「自分らしく……?」

「そう。君はこれからたくさん楽しいことを経験して、生きないといけないんだよ」


……っ。

まさかそんなことを言われるとは思わず、驚いてしまった。


生きるだけでも大変なのに、“楽しむ”なんて。


つい呆けていると、彼は優しく微笑み、俺の手の甲にキスをした。

「わわ……な、何ですか?」

「うん? ただの挨拶だよ」

手とはいえ、ただの挨拶でキスをするのか?

なにぶん世間の普通が分からないので、「へぇ……」としか言えない。狼狽していることがバレないよう、毅然と返した。


「挨拶。そうだ、自己紹介が遅れましたね。俺はユノ・アリヴァー。呪術業のアリヴァー家の嫡子です」


ご存知だと思いますけど。

内心どきどきしながら待っていると、彼はどこか嬉しそうに口端を上げた。

「アリヴァー家のことはよく知ってる。その正統後継者とこんな風に出会えたことに運命を感じるよ」

「あ、そうですか……」

運命というか、因縁じゃないのか。

困惑しながら腕を組むと、彼は突如その場で片膝をついた。


「私はリザベル・ウェスタンド。ウェスタンド家当主、カルドの長男だ。改めてよろしく、ユノ」

「よ……よろしくお願いします」


想像以上に丁寧な挨拶をされ、見事に動揺してしまった。

これ、俺も片膝をつかないと失礼だよな。でも両者片膝ついてるのなんて見たことないし……そもそも互いに身分差とかないし……。

頭の中でぐるぐる考えていると、リザベルは徐に立ち上がり、笑いかけてきた。


「それで、ユノ。君はアリヴァー家に背く意志がある、ということで間違いないかな?」




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