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呪いの姫は祝いの王子に愛される  作者: 七賀ごふん
囲いの鳥

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5/10

#5




「ユノ様。やはり札は染まってませんね」

「うん」


明くる日も、呪物の生成をしていた。今作っている呪符は力が宿ると黒く染まるはずなのだが、白のままだ。


「うん、じゃありませんよ。恐らくこの呪符を作れなかったのは、歴代で貴方だけです」

「本当に申し訳ない」


監視役は頭を押さえ、うんざりした様にもらした。ここまで来ると笑えてくる。笑えないけど……。

とりあえず、彼に迷惑をかけていることが心苦しい。

「ごめんな。もう一度やってみる」

新しい札をとろうとしたその時、部屋の扉が乱暴に開かれた。


「おい、ユノ! あいつをどこにやった!?」


現れたのはレイスだった。烈火のごとく詰め寄る彼に、監視役も青い顔で後ろへさがった。


「あいつって?」

「とぼけるな! ウェスタンド家の王子だよ!」


強引に襟を掴まれる。机に並べていた薬瓶も倒れ、床に溢れた。しかしそれを気にする余裕はなく、怒り狂ったレイスに向き合う。


リザベルを匿っていたことがバレた。いや、彼がいなくなったことにようやく気付いたようだ。

「早く言え! クリスタッド政府から通告が来たんだ! 下手したら一族全員王宮に呼ばれて罰せられるかもしれない!」

かもしれない、って。王族お抱えの要人を拉致したんだから、罰せられるに決まってるじゃないか。

今ごろ焦りだした従兄弟になんと言えばいいか分からないが、ひとまず宥めることにした。

「落ち着いて。彼は生きてるから大丈夫だよ」

「本当だな? ああ良かった……!」

レイスはユノの襟から手を離し、胸を撫で下ろす。

こちらも、てっきりリザベルにかけた呪いを解くつもりなのだと思っていた。だから安堵していたのだが、彼が次に放った言葉に愕然とした。


「それならあいつを人質にして、国外に逃げ果す身代金を得られるかもしれない」


何を言ってるのか、一瞬本気で分からなかった。

今彼を無傷で帰せば罪が軽くなるかもしれないのに、レイスはさらに恐ろしいことを考えている。

「レイス、冗談だろ? 気が動転してるだけだよな?」

「はっ、冷静だよ。もちろん、俺達に被害が及ばないよう今回の依頼人を交渉役に使うつもりだ」


そんなこと、依頼人だって引き受けないだろう。アリヴァー家が誘拐したことが政府にバレた時点で、この依頼は失敗なのだ。だから本来報酬金も返すべきだ。

「悪いことは言わないから、今すぐ彼を王城に連れて行こう。後遺症もなく、必死に謝れば死刑は免れる……かも」

「お前は本当に意気地なしだな。そんなんだからいつまで経っても呪術を習得できないんだよ!」


強く突き飛ばされ、本棚に背中を打ちつける。反論する間もなく髪を掴まれた。

「早く言え! あいつはどこだ!?」

「……っ!」

言ったら、今のレイスは彼に何をするか分からない。

呪いを解くつもりがないなら尚さら、無抵抗の彼を差し出すことはできなかった。

唇を噛み、沈黙する。レイスは痺れを切らし、足元に転がる薬瓶を手に取った。


「出来損ないが作った薬でも、ないよりはマシだな。言わないなら全部飲ましてやる」

「レ、レイス様。さすがにそれは……」


監視役は制止したものの、レイスは構わずにユノの首を押さえ、口元に瓶を当てた。

「……」

いつ死んでもおかしくないとは思ってたけど、まさかこんな終わりを迎えるとは。予想外にも程がある。


でも、もう仕方ないか。初めから味方なんて一人もいない。

守りたい人はできたけど、自分の力じゃとても守ることはできないから。


─────ごめんなさい。

黒々とした液体が唇に触れる。

瞼を伏せて口を開いた。だがその瞬間、瓶に入っていた薬液は全て鈍い音を立てて蒸発した。


「な、何だ!? 何をした!」


……?

レイスは驚いているが、自分は何もしていない。何が起こったのか分からずにいると、廊下から焦げ臭い匂いがすることに気付いた。

「レイス様、一階で火事が起きたようです! 早くお逃げください!」

「な、何だ……さっきから何が起きてるんだ……!」

廊下から顔を出した使用人に、レイスは困惑している。仕方ないので彼に窓の外を見るよう促した。


「煙が上がってる。今は逃げた方が良いんじゃないか」

「……!!」


幸い我に返ったらしく、レイスはユノを床に突き飛ばし、大慌てで部屋を出て行った。

取り残された監視役も後に続こうとしたが、ハッとして振り返る。

「ユノ様? 我々も早く逃げましょう」

「……ちょっと腰抜かしちゃって。すぐに行くから、先に降りてくれ」

「なら手を貸しますから」

「いや、大丈夫。レイスのせいでズボンもぬれちゃったし」

床に転がった薬瓶達を指し示して苦笑する。彼は困ったように頷き、部屋を出て行った。


ふぅ。何とか誤魔化せた。

火事が起きたことは想定外だから、急いで引き出しから鍵を取り出す。そしてコネクティングとなっている寝室の扉を開けた。


ベッドには、静かに横たわるリザベルがいる。


大ピンチだけど、二度とないチャンスだ。今ならこの混乱に乗じて、彼を救い出せるかもしれない。

本当はレイスに呪いを解いてほしかったけど、もうなりふり構っていられない。祓う方法は救い出してから考えよう。




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