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呪いの姫は祝いの王子に愛される  作者: 七賀ごふん
囲いの鳥

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3/22

#3




初めて会った青年に一目惚れし、憐憫の情を抱いた。


俺も他人を心配できる立場じゃないと思うけど、それは一旦置いておこう。

確か二階に亡くなった祖母が使っていた車椅子があったな……。


小柄だから大変だったけど、二階まではおぶって移動した。古いものの立派な車椅子に青年を移乗させる。

牢の鍵は受け取っていたが、使わずにポケットに仕舞う。

車椅子を押して、従者も入れない最奥の寝室へ連れて行った。

「これでよし!」

自分のとき同様、不衛生な地下牢にいたら真っ先に感染症にかかりそうだ。

見てる限り呼吸は問題ない。ユノは彼を自分のベッドに寝かせ、窓を開けた。


「ふぅ。あそこは息苦しいですよね」


振り返り、瞼を伏せたまま反応のない青年に笑いかける。

ユノは自嘲し、可能な限り今のウェスタンド家について調べた。王族直属の神職であり、先代から主を引き継ぐ王子のことを。


リザベル・ウェスタンド。齢は二十八。一族きっての祝力の持ち主。容姿端麗で高材疾足、王族からの信頼も厚い完璧な祝術師。指輪はしてないが、婚約者がいる可能性もある。

予定ではもうすぐ現王の側に立つはずだったろうに、気の毒過ぎる。


レイスがかけた昏睡の呪いは術者以外には解けない、呪殺の次に強いものだ。自分がどれだけ努力したところで、彼を目覚めさせることはできない。


片っ端から書物を取り出し、祓いの方法を読み耽ったものの、手掛かりになるものは見つからなかった。

最悪レイスを脅して無理やり呪いを解くか。できなくはないけど、それをしたら確実に自分は死刑だ。


でも、このまま生きても良いことなんてないし。……それも構わないか。

朝になってから椅子に座らせ、彼の口に水を含ませた。普通の人間と違い神の加護があるから、生命力は強そうだ。


「全部飲んでくれて良かった」


水を飲むという反応だけは示してくれる。それが嬉しいし、安心した。しばらく親族ともろくに話さなかったせいか、昏睡状態の青年に向かってついつい話しかけてしまった。


「散歩にお連れしたいんですけど、俺も外出禁止されてるから。……今日なんて良い天気だから、風に当たったら気持ちいいんですけどね」


木櫛を持ち、彼の綺麗な髪を優しく梳く。人形遊びのようだ。まさか二十歳になってこんなことをするとは。

でも、独りよりずっと良い。……気がしてしまう。


「時々は喋らないと、筋肉衰えますからね。リザベルさんも」


喋るはずがないのに、事あるごとに声を掛ける。それはあっという間に定着した。結局ただの独り言なのだが、話しかける度に何だか愛しさが増す。

まるで旧知の仲のよう。彼は何も分かってない、思考すらできない状態だが、自分は勝手に親しくなれた気になっている。滑稽すぎて笑えてきた。


彼も困るだろう。まさか男にこんな世話をされてると知ったら……。


清拭はもちろん、一週間も経てば大体のことは慣れてしまった。もう呪術師なんてやめて別の職業で生きたいぐらいだ。

彼の呪いを解いて逃がしてあげられたら良いのに。自身の至らなさでそれができないことが歯痒い。

呪術を習得し、後継者に相応しい人間だったら叶ったかもしれないことだ。申し訳なくて、久しぶりに惨めな気持ちになった。


「呪術は全然上手くいかない。成人の儀も控えてるけど、一族の誰からも求められてない。何で生きてるのか本気で分かりません」


床に膝をつき、リザベルが座る椅子の肘掛けに顔をうずめる。スーツは汚れるが、そんなの構わない。

「俺は……いや」

夜、怖いほどの静寂に包まれる。この時ほど孤独を感じる。ひとりきりの世界に弾き出され、押しつぶされそうだ。


「俺が死んで、貴方が自由になれたら良いのに」


だから何も反応しない青年に本音を明かしてしまう。


「いなくなりたいよ。……早く」


泣き疲れて眠る夜を何度も過ごした。呪術について学びながら、同時にお祓いの分野も学んで。

彼の手に掌を重ね、寝落ちする日々。

雨の日も晴れの日も、彼の傍にいた。日が経っても彼の美しさは変わらず、それが尚のこと誇らしくなる。


いや俺のものじゃないって……。

段々危険な思考に傾いてきて、自身の両頬を打った。


栄養価の高いスープをリザベルに飲ませ、口元を布巾でぬぐう。ベッドに移動した後、ユノはシャツを脱いだ。

「何か今日は蒸し暑いな……」

いつも同じベッドに隣り合って寝ているのだが、リザベルの体温も高い気がする。

上だけ脱がせた方が良いかな。ちょっと申し訳ないというか、犯罪的だけど。

体はいつも拭いてるんだし仕方ない。ということにしよう。


ボタンを外し、リザベルのシャツを脱がせた。彼は普段から鍛えているようで、胸板は厚く、腹筋は締まっている。同じ男から見ても惚れてしまう、逞しい肉体をしていた。

彼を見ていると自分がいかに貧相か再認識するので、複雑だ。

「リザベルさんは絶対モテただろうなぁ」

自分はズボンも脱ぎ、床に投げた。ほぼ全裸の状態で、彼と寝転ぶ。それは充分犯罪的に感じた。




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