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呪いの姫は祝いの王子に愛される  作者: 七賀ごふん
囲いの鳥

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2/10

#2



物心ついた時から自分だけが城に幽閉されている。


従兄弟達は親に連れられ、幼い頃から街へ訪れていた。

ユノは監視役と世話係以外は距離を置かれ、父親とも仕事以外の話をしたことはない。まず成果を上げないと質問も禁じられる為、幽閉される理由について訊けたことはなかった。

本当は訊きたいことがたくさんある。黒髪が多いアリヴァー家で、ユノだけ銀色の髪を持って生まれていることなど。


完全に異質な存在だ。見た目はもちろん、───中身も。


自室の扉を閉め、堅苦しい白衣を脱ぎ捨てる。銀髪と合わせた服は、明かりのない部屋でいやに際立った。


「……疲れたな」


机に積まれた大量の書物。手つかずの儀式。

最近は食欲も湧かないし、眠れない。ふらつきながら窓際へ寄って戸を開けた。

夜の涼しい風が吹き込んでくる。

冷たくて気持ちいい。このまま前に傾いたら、この世の全てから解放される気がした。

壁に手をかけて乗り出そうとするも、外が騒がしいことに気が付いた。


「……何だ?」


何となく気になって人集りができてる広間へ向かった。

彼らはなにかを取り囲んでいた。


「レイス、大手柄じゃないか」

「さすが私の自慢の息子だわ」


珍しく歓声と、万雷の拍手が鳴り響いている。従兄弟のレイスがなにかやり遂げたようだ。

物々しい雰囲気の為珍しい呪物でも手に入れたのかと思ったが。

( あれは…… )

広間の中央に設置されたのは移動式担架。そしてその上に、一人の若い青年が横たわっていた。

何故こんなところに。大丈夫なのか?

「護衛がいただろうに、よく攫ってきたな」

叔父は感心しながら告げる。レイスは余裕綽々の態度で話した。

「えぇ、騙し討ちは大変でしたよ。依頼者からは暗殺ではなく、少しの間拘束してほしいと言われたんです。それには昏睡の呪をかけるのが一番なので」

……そうか。

もしや殺されたのかとひやひやしたが、話を聞く限り青年は眠らされているようだ。

密かに胸を撫で下ろすと、また印象的な言葉が聞こえた。


「しかし、これが才貌両全と噂のウェスタンド家の跡取りか。確かに人形のような美貌……まるで眠り姫だな」


ウェスタンド。

それは一族……いや、この国の出身なら知らない者はいない。


アリヴァー家と同じく古くからクリスタッドに暮らし、しかし正式に王家に従事する存在。国家の祭り事で祈祷を担う一族だ。

彼らは祝うことで国に多幸をもたらす、祝術の力を持つと言われている。国を衰退させるかもしれない諸刃の剣を持つアリヴァー家と対になるような一族だった。


その跡取りなら言わば幸福の王子。彼に、呪いをかけた。

壁の柱に隠れて耳を欹てていると、どうも政府の反対勢力達が彼を排除しようとしていることが分かった。

国が大きくなることを良く思わない、他国の過激派だろう。彼らは呪術師とも深い関わりを持っている。


「このリザベル氏は、ウェスタンド家の歴史で最も強い力を持っているらしい。三ヶ月後の王の戴冠式まで、どんな形でも良いから拘束してほしいとレイスに頼んできたんだ」

「なら大成功ね。でも、死んでしまったらどうするの?」


森の中の古城だ。拘束するにしろ生命維持ができる医療装置などない。

すると、彼を連れ去ったレイスは口端を上げた。

「死んだら、それでも構わないとのことです。なので地下牢にでも入れておきましょう」

「いや、なんて楽な依頼だ。これで報酬が貰えるなんて」

「昔からウェスタンド一族は目障りだったからな。次期当主になるはずの彼が早世すれば表舞台から消えるやもしれん。いい気味だ」

「アリヴァー家もやはりレイスが取り仕切るべきでは……」

様々な声が飛び交う。

柱の影からそのさまを眺め、ため息を飲み込んだ。


不憫だ。……彼らの野心の為に囚われたウェスタンド家の青年が。


「ユノ! いるんだろ? 出てこい!」


うわっ。

おまけにバレていた。ご指名がかかった為、仕方なく集まりの中心へ向かう。

そこではレイスが誇らしげに腕を組んでいた。


「話は聞いていたな? お前には絶対に使いこなせない呪術をこの男にかけた」

「あぁ。さすが」

「ふん、呑気だな。何もできないお前に仕事をやると言ってるんだ。この男を地下牢に連れてけ」


ついでに食事も与えるように、と言って肩を押される。

「最悪死なせてもお咎めなし。良かったな、しばらく簡単な仕事ができるぞ」

押し殺したような嘲笑が耳に届く。しかしレイスの功績に注目が向けられ、あっという間に青年と取り残された。


ウェスタンド家とは長く因縁関係がある。と言っても、こちらが一方的に敵視してるだけだ。彼らは光で、自分達は影と言うだけ。


残酷で欲深いから嫌われるのは当然だ。そこは諦めて受け入れた方が良いと思う。

全く……。

「……お兄さんも災難でしたね」

腕を組み、安らかな表情で眠る青年を覗き込む。

……。

薄い金糸の髪、長い睫毛、凛々しい目鼻立ち。正直、こんな美しい青年を見たのは生まれて初めてだ。


ほんとに綺麗。下手したら永遠に眺めていられる。

誇張ではなく、宝石のようだ。こんな暗い城の中で、光の粒を散らしている。


彼こそ神に祝福された存在。きっと誰に教わらずとも、本能で分かっただろう。




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