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呪いの姫は祝いの王子に愛される  作者: 七賀ごふん
囲いの鳥

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1/15

#1




初めて開いた絵本の中には、お姫様と魔女がいた。そしてお姫様を攫った魔女は、王子に倒される運命なのだと知った。

ならば恐らく、俺もこの魔女みたいに葬られるんだろう。子どもながらにそう悟り、本をかたく閉じた。


ひとに不幸を与える『呪い』の一族。俺はその跡取りとして生まれた存在だから。


「ユノ様、休憩は終わりです。仕事を再開してください。今日の成果次第ではまた地下牢行きですよ」


人声に驚き、窓際の木枝にとまっていた鳥が慌てて空へ羽ばたいた。

荒々しい足取りで部屋に入ってきた黒髪の青年に、ユノと呼ばれた青年はゆっくり振り返る。珍しい銀髪をなびかせ、餌入れを机に置いた。


「それと、野生の鳥に餌をやる必要はありませんよ」

「だ、だな。ごめん」


監視役でもある青年に、ユノは気まずそうに頷いた。

「今朝方お伝えした毒薬は作れましたか?」

「うん。でも札の方はまだ……。どうしても呪力がこもらなくて」

「はぁ……」

青年は窓を閉め、深いため息を零す。本に書いてある通りに作ればいいのだと告げ、机に置かれた白紙の札を破り捨てた。


「ユノ様。貴方はアリヴァー家の正統後継者です。今は簡単な修行しかしていませんが、いずれ要人の呪殺も請け負うことになる。一族の名誉と未来を背負っている、その自覚を持ってください」





見える世界は、せいぜい自室の窓に広がる暗い森だけ。

ユノ・アリヴァーは窓際に寄りかかり、ため息を飲み込んだ。

今年二十歳になるユノは、一族の住まいから出たことがない。


何百年もの間呪術を生業として栄えた、アリヴァー家の嫡子として生まれた。幼い頃から呪術のことだけを叩き込まれてきた為、世間一般の常識や情報には疎い。


現当主である父と寡黙な乳母、拝金主義の呪術師達に囲まれて育った。

クリスタッドという大国で、民衆から隠れるように森の奥に建つ城で暮らしている。

強力な呪いを扱う為に恐れられているが、戦時中は国に貢献したこともある為、家業は黙認されていた。

今でも他国の政府機関から依頼をされることが侭ある。よく言えば頼りにされ、悪く言えば都合よく使われている。

いつの時代も国を動かすのは主導者を裏で操る者だ。汚いことを弾圧するふりをして、目的の為なら手段を選ばない者。

しかしそのおかげで一族は繁栄し、莫大な資産を築き上げた。本当なら感謝しないといけないのに、息苦しい。


嫌だった。───何も悪くない人達を呪って生きることが。


ユノは薬液が入った瓶を軽く振った。


この家に生まれた者は呪術を学び、習得する。それができなければ存在価値はない。

頭では分かっているものの……誰かを傷つけ、恨まれる仕事。それを喜んでこなすほど、自分はまだ何ひとつ経験していなかった。



「……ユノ、また失敗したらしいな。今年は成人の儀があるというのに、全く先が思いやられる」



久しぶりの会合に出席すると、真っ先に矢面に立たされた。

一族の統括となるのだから、能力不足が許されないのは百も承知だ。恭しく席について、不均等に佇む年長者達に頭を下げる。

遠縁の者もいれば、血の繋がらない出資者までいる。しかし共通しているのは、全員ブラッドレッドの鉱石のピアスをしていることだ。


「大変申し訳ございません」


資質がないのは事実だ。呪術は初級レベルのものしか成功したことがない。それ以上になると、何故か依代が激しく痛み、朽ちてしまう。人形や木を使った時は全部駄目にしてしまった。

俺は本当に当主の……いや、一族のひとりなんだろうか。


何とも言えない気持ちでワインを口にすると、従兄弟のレイスが傍にやってきた。

「相変わらずだな。まだ十歳のコキアでも簡単な呪物なら作れるんだぞ。恥ずかしくないのか?」

姪っ子の話をされ、その成長を嬉しく思った。が、正直に言えば火に油を注ぐ。

結果的に「恥ずかしいよ」と答えた。

「お前な……もう少し真剣に考えろ!」

「レイス、おやめなさい」


とは言えやはり癇に障ったらしい。そのまま掴みかかられそうな勢いだったが、周りがレイスを窘めた為事なきを得た。

父はずっと押し黙っていた。ユノを責めることもなければ、庇うこともない。その無機質さも、少し恐ろしい。


「とにかく、ユノ。貴方は一人前になるまで城から出ることはなりません。呪術師として正式に表に立つまで精進なさい」


お開きと言うように、叔母が手を叩く。

「……承知しました」

惨めとかいう感情はどこかに落としてきた。

怒りも悲しみもない。あるのはただ虚無感。

周りの声を受け止め、全力で期待に応える。応えられなければ……。


かつて閉じ込められた真っ暗な地下牢を思い出し、ぶるっとした。

やめやめ。昔のことは忘れよう。

会議の後は夕食会が始まるようだ。けどいつ食べても味がしないので、気付かれないよう自室へ戻った。





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