表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

桃を洗っただけなのに -常識人なので、鬼を斬りました-

作者: ラベンダー
掲載日:2026/02/11

ある日、川で桃を洗っていると、おじいさんが流れてきた。


しかも裸で。


私は女性なので、本来であれば視界に入れない努力をする案件だ。しかし、その努力は失敗した。なぜなら、そのおじいさんは私の名前を知っていたからだ。


「エリ!!」


叫ばれた瞬間、思考より先に体が動いた。助けなければならない、というより、もうそうなっていた。魂が勝手に決めていた。私は川に入り、おじいさんの腕を掴んだ。


川は浅かった。途中からおじいさんは私の手を振りほどき、何事もなかったかのように歩き始めた。助けた感じがしない。気味が悪い。


顔をよく見れば思い出すかもしれないと思ったが、まったく知らない顔だった。それでも魂が間違うはずがないので、一度家に戻ることにした。桃を持って。


おじいさんにはここで待っていてもらう。今は冬だし、このままだと死ぬかもしれない。でもおじいさんだ。余命も長くないだろう。そんな人を家に上げるのは常識的におかしい。私は常識人なので、そう判断した。


「ええよ……」


おじいさんは口を震わせながら言った。何か言いたそうだったが、私は聞かなかった。見た目が受け付けなかったし、聞いたところで助ける気はなかった。正確には、もう一回助ける気はなかった。


家に戻り、頭の中を整理しようとした。


そもそも「頭の中を整理する」とは何だろう。物理的に並べ替えるわけでもないのに、なぜ人は整理という言葉を使うのか。そんなことを考えている時点で、もう整理できていない気がする。


整理したい。したいのにできない。


あれ?

私、何しに家に戻ってきたんだっけ?


……思い出せない。


まあいい。桃を洗いに行こう。考えるのは疲れるし、疲れることはだいたい体に悪い。


「あー、くらくらするー」


私はそう言って外に出た。


玄関を開けた瞬間、目の前に人影があった。


「エリ!!」


さっきのおじいさんだ。


服は着ている。だが、それだけだ。顔の配置は人間なのに、全体の雰囲気が人間をやめている。


どこかで見た顔な気もする。俳優だろうか。裸だったし、AV男優かもしれない。


「エリ!! もうよい。苦しませて悪かった!!」


何を言っているのかわからない。だが、魂が珍しく仕事をした。


――逃げろ。


私は家に戻ろうとした。しかし、おじいさんは私の腕を掴んだ。信じられない握力だった。ゴリラ並みである。実際にゴリラに掴まれたことはないが、たぶんこんな感じだと思う。


顔は完全に鬼だった。昔の人は鬼を見たことがないのに、よくあんなに正確なイラストを描けたものだと感心する。今はそれどころではないが。


「はぁ、私を食べるのね」


私は諦めた。昔から諦めが早い。


「うん、そうだな。しかし、その前に手順がある」


おじいさんは事務的に言った。内容は理解しない方が良さそうだった。


「好きにすれば?」


私は強気なふりをした。感情を無に変換するのは得意だ。便利だが、あまり役には立たない。


「良い娘だ」


おじいさんは満足そうに笑った。


「その前に一つ質問なんだけど」


「ええよ」


「どうして私の名前を知っているの?」


それだけは気になっていた。


「それはね、わしらのbossが君のお父さんだからだよ」


その瞬間、おじいさんは私の腕を掴むのをやめた。


「へー、そうなんだ」


私は特に驚かなかった。納得できてしまったからだ。世の中だいたいそんなものだ。


「あまり驚いていないね」


おじいさんは少し不満そうだった。


「えぇ、納得ですわ」


その時点で、おじいさんの腕は切れていた。


「うわぁぁぁぁぁぁ! 痛いィィィ!」


どうやら、今気づいたらしい。


「切れてたね」


私は言った。


「いつの間に……」


「たぶん、さっき」


私の手には刀があった。前から持っていた気もするし、今出てきた気もする。どちらでも大差はない。


アニメだったら、ここで「シャキーン!」という音が鳴るのだろう。でも現実なので、特に何も鳴らなかった。


私は桃を洗いに行った。

今日は色々あった気がするが、だいたい忘れていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ