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この世にできねーことなんて、なにもねーっ!!!

1|依頼──あいつを助けてほしい


南ヶ丘高校の裏門に呼び出された私は、薄く崩れたコンクリート塀の前に立つひとりの少年と出会った。




彼の名前はハル。髪は金色に染まり、制服のボタンも閉まっていない。でも、どこか目元には抜けきらない幼さが残っていた。




「ナズナさん……っすよね? ほんとに来てくれたんすか……!」




彼は開口一番、深く頭を下げた。その姿は、不器用で、そして切実だった。




「友達が……いなくなったんす。俺の、親友が。ユウキっていうんすけど……」




「いなくなった」と彼は言ったが、その“消失”の裏には、明確な“異常”があった。




2|伝説──祠に挑む


「……あいつ、“裏山の祠”に行くって言ったんす。あそこには、伝説があるんすよ。




『強き者が挑戦すれば、守り神が現れ、勝てば褒美を与える』って──




「あいつ、それを信じたんすよ。バカみたいに、まっすぐに」




彼らは高校で出会った。お互いに家庭のことを話すタイプじゃなかったが、なんとなく空気で理解し合っていた。




――こいつは自分と似ている。――生きるってことが、ちょっと苦しいって事を分かってる。




そういう空気感の中で、二人は自然とつるむようになった。




「俺の家、ちょっとキツいって話、ポロっとしたんす。そしたらあいつ、“じゃあ祠に挑戦しに行くか!”って言いだして.....それで」




“できねーことなんて、なんもねー”。それがユウキの口癖だったらしい。




「それで行ったんすよ、俺もただの与太話だと思ってたから、でも......違った。見た事ねぇ化け物が出てきて、生き物かも何かもわかんねぇ感じで、俺マジで怖くて怖くて、すぐに逃げようとしたんす。でもユウキのやつ全然動かなくて、腰抜けたのかって思ったんすけど、あいつ睨んでたんです。あの化け物を。で、俺に何も心配すんなよって笑いながら一言言って.......なのに俺、あいつ置いて逃げちゃったんす.........ホント最低なんです」




不良の様に虚勢を張っていた少年が、いつの間にか大号泣して語る仕草に、ナズナは少し胸が痛くなった




子供は見栄を張ってても、やはり子供だ、大人が助けを求められたのなら守ってあげる必要がある




3|ナズナ、挑む


私は一度帰宅し準備を整えてハルを車で拾い急いで祠の前に向かった。中から、まだ残る気配──命の鼓動が感じられる。彼は、まだ、生きている。




「祠の主よ。再び願う。強き者の挑戦、今、ここにある。姿を現しなさい」




低く、地面が震える。祠の闇が裂け、再び“それ”が姿を現す。




そのとき。




「……あれ? ここ……どこだ?」「っていうか、……うわ、でけぇ化け物!!と可愛い姉ちゃん!」




ユウキだった。姿こそボロボロだが、瞳にまだ光がある。恐らく、弱き者と判断して命にかかわる危害は加えなかったんだろう




そう考えれば悪い存在では無い、しかし何かの拍子に異空間に連れ去ってしまったのかもしれない




「ユウキ!逃げろ!!早くっ!!頼むから!お前に居なくなって欲しくねーんだよ!!!」




ハルが叫ぶ。




ユウキは状況を瞬時で察したように黙って怪物をみた




だがユウキは、笑った。




「逃げねーよ。俺、戦う。できねーって思ったら、その時点で負けだろ?」




化け物が目を細める。認めてしまったのだ、ユウキの気迫を。化け物は対戦相手にユウキしか見ていない




ナズナはこの状況で無理にユウキを逃がそうとしたら、獲物の横取りと化け物にみなされて再度彼を連れ去られる可能性を察知し、とユウキの意志を汲んで、持ってきた神具を差し出した。




「これを使って」




これは別の依頼で手に入れた神具で、並大抵の者はこれだけで祓えるほど強力な物だ。万が一、彼に危険が及べば即座に割って入る算段だった。




しかし神具を使っても、相手次第ではどうなるかはわからないし、子供だという事も含めれば、ナズナに余裕は無かった




4|一騎打ち──鬼神、咆哮


化け物が唸った瞬間、重たい空気が祠に充満する。




その一歩が地を割り、風が逆巻いた。




「来る──!」




ユウキは体を低く構える。背筋に走るのは恐怖じゃない、ただの本能。




バクン、バクン。心臓の音が耳の奥で響く。




化け物の右腕が風を裂き、正面から振り下ろされる。




地を蹴る。




ユウキの体が滑るように前へ、ギリギリの角度で右に回避。




その隙を縫って、籠手の拳を突き上げる!




「らあッ!」




拳が顎に命中。衝撃で化け物が一瞬のけぞる。




だが次の瞬間、左から横薙ぎの爪が迫る。




跳ぶ──祠の柱を蹴って空中回転。




天井すれすれで身をひねり、壁を蹴って軌道修正。




「まだだ……っ!」




空中から降りざま、胴体へかかと落とし。




ドンッという重たい音。着地と同時にすぐスウェー。




その次、足元を狙った攻撃を読み切ってかわし、低く滑り込む。




横腹、脇、みぞおち、胸、あご、肋骨──




拳のラッシュが化け物に炸裂する。




「はッ、はッ、はッ、はあああああッ!!!」ユウキの息が荒くなる




拳を振りながら、身体は休まらない。




回避し、踏み込んで、また叩き込む。




狭い祠をダンスのように駆ける。




「ユウキ!右上!」




ハルの声。




「ありがとよ!!」




回避。ステップ。ひざ裏へローキック。




化け物が体勢を崩す。




ユウキは逃さない。




「ここからが──本番だ!!」




一歩踏み込み、全身のバネを解放する。




右の拳が頬をえぐる。すかさず左であごを打ち上げる。




そこからは、嵐のようだった。




腹部へのボディブロー──ドン!


胸元への突き──バシュッ!


わずかな隙に肘打ち──ゴッ!


膝蹴りを連打しながら、後頭部へ一撃──ダン!


化け物の巨体がよろめく。




ユウキは拳を止めない。




「まだだ、もっとだッ!!」




息継ぎなしのフルコンボ。拳、肘、膝、蹴り── 全身のあらゆる部位を使い、流れるような連撃。




一撃ごとに、化け物の咆哮が鈍くなっていく。




祠の空気が震え、地の底から風が這い上がる。




──いける。




勝てる。




ユウキの目が、確信に変わる。




その瞬間──




「……決める!!」




回り込む。




背中から掴みかかり、体を沈める。




呼吸を、合わせる。




一気に、背負い上げる。




「喰らえええええええええええ!!!!!」




全身のバネを使って──




バックドロップ!!!!!!




ズン……という重たい響き。




天井の埃が舞い、光が射す。




地面が鳴って、音が止んだ。




化け物の体が、微動だにしない。




ユウキは両膝をついて、荒く息を吐いた。




「っっっっっしゃあ……!」




「勝った……っ!」




祠の中に、風が流れた。





一部始終を見ていたナズナは、その光景が今までの理解の範疇外だったので驚嘆していた。彼の身体的能力にでは無くて、計算も技術も何も無いただの信念だけの戦い方が、時には最大の成果を生み出す事実に




「こんなことあるんだね.....」




5|褒美──地図、授けられる


そのとき、化け物が呟いた。




「……ツヨキ者……キニイッタ……キジンノ如きキハク」




「ホウビヲ……アタエヨウ……」




古びた巻物が差し出される。それは、裏山のさらに奥──“ある一点”を示した地図だった。




6|再会──泣いて、笑って


ユウキは振り返る。ハルは、号泣していた。




自分の為に、命を懸けて無謀な挑戦をしてくれた友の生還に、そんな友を置き去りにした不甲斐なさに




「ごめん……ごめんっ、ユウキ……ほんとに……生きててよかった」




「俺…ユウキを…置いて逃げた......ごめん...最低だ……」




ユウキは照れくさそうに言う。




「バーカ、泣いてんじゃねーよ」




「俺が勝手に行こって言って、勝手に残ったんだ、全部自分の意志だぜ。お前は悪くねーよ ハハッ」




「それに........」




「この世にできねーことなんて、なんもねーだろ??相棒???」




「そうだな.....ありがとう.....俺の自慢の親友だ.....ぐすっん」




ふたりは拳を突き合せた




ナズナは二人に言う




「今度から、危ないことしちゃ駄目だよ.....それと.....結構やるね。ユウキ君」




「へへっダチと可愛い姉ちゃんが見てんのにダセェとこは見せらんないっすからね!ハハ」




全員で笑い合う、ユウキはボロボロで、ハルは涙でグシャグシャで




「ナズナさん、あなたに頼んで本当に良かったです。ダチの命の恩人です。俺の人生の恩人です。本当にありがとうございました!!!




ハルはそう言って、涙を拭きながら、とても礼儀正しくお辞儀をした




7|その後──金塊と、ふたりの未来


数日後。ニュースが全国を駆け巡った。




「高校生二人、裏山で金塊発見──純度99.9%、重さ12.3kg」




巻物の示す場所にあったのは、一本の埋もれた金属塊だった。




二人はそれを山分けした。その一部を世界の恵まれない子どもの支援団体へ寄付したことが、さらに話題になった。




彼らは言う。




「宝探しって、面白いよな」




「あの守り神、悪いやつじゃなかったしな、やばこえーけど」




「今度ナズナさんに、ラーメンでもおごんね?」




「あの姉ちゃん、ちょっとかわいくね?」




「だよなーーーー」二人は楽しそうに声を合わせる




ナズナの語り──“信じたことに理由はいらない”


彼らの信念が、世界を少しだけ、変えた気がする。




“この世にできねーことなんて、なんもねー”




あの言葉は、今も私の中に残っている。

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