表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
119/131

アモヴォール陛下は語る──感動とは、最も上質な食事ですのよ?

あらあら……また迷い込んできたのね。


ええ、歓迎して差し上げますわ。


ここは感情の食卓。愚かな者たちが捨てていく美味なる感動の墓場。


そしてわたくしが、それを拾って丁寧に盛り付けてあげるの。




わたくしの名はアモヴォール。


感動を喰らう神格。“愛を知る陛下”とでもお呼びなさいな。




宝石? 絵画? 歌劇?


そんなもの──感動の“副産物”ですわ。


美とは、もっと深い。もっと粘度のある、赤くて熱い“情緒”そのもの。




あなた、愛されたことは?


涙が出る程、誰かを守りたいと思ったことは?


心を震わせて、「この瞬間に生きていた」と叫んだことは?




そう、それよそれ。


わたくしが頂くのは、まさにそれ。




わたくしのコレクションルームには、水晶玉が並んでおりますの。


一つひとつに、“とっておきの一皿”が封じられている。


母を抱いて泣いた少女の声。


革命前夜に鳴った鐘の音。


最愛の恋人と交わした約束。


どれも、どれも、美しい。




ぞくぞくさん──静寂の前菜


最近の人間? まぁ、味が落ちた落ちた!


“喜怒哀楽”がファストフード化していて困りますわ。


本当に。




それでね、ちょっとだけ、仕掛けてみたの。


SNSに、“名前だけ”を流して。


ぞくぞくさん。──うふふ、あの子、可愛かったでしょ?




動画なんて要らないのよ。名前だけで、感情は伝播する。


みーんな怖がって、バズって、止まっていった。


話さず、動かず、考えなくなる。


“最高の沈黙”の完成!


ええ、それはそれは見事なテーブルセッティングだったわ。


すべての感情を美味しく頂きましたわ。ごちそうさま




ナズナ──未完成の最高級


そして、近頃でいちばんの“興味深い素材”……ふふふ、


その名は、ナズナ。




あの娘、ひどいのよ。


どこをどう味見しても、何一つ完成していないのに、


どの部分にも、可能性が詰まっている。




その眼差し、歩き方、声の揺れ方──


全部、未完成の“前菜”だというのに、


香りだけで涙が出る。




わたくし、まだ彼女に指一本触れていないのよ?


でも、あの子が世界に放つ“波長”、それだけで酔いそう。




感情の塊。希望の試作。反響の器。


ナズナは、わたくしがまだ一度も味わったことのない“本物のフルコース”の気配を纏っている。




──だから、そっと狙っているの。


あの娘を壊してしまわないように。


熟しきった、その瞬間。


涙と絶望と、誰にも届かない答えが、


彼女の口から放たれるその瞬間。




……その“感動”、わたくしが、いただきますわ。




技の発動──女神の美食術


オーディエンス・ゼロ


すべての物語が無意味になる劇場を開きましょう。


誰もあなたを観ていない。


だからあなたは、最も美しい。




ファンタズム・エンド


希望? 嘘? 夢?


ええ、壊しましょう。


嘘が割れる音は、甘くて、とろけて、


まるで焼きたての砂糖菓子。




グランド・ティール


あなたが最も輝いた瞬間に、


わたくしが微笑んで、こう言って差し上げる。


「そのまま、止まっていてね」


そして、あなたは永遠になる。




終宴に向けて


あら……涙が出てきた?


安心して。嬉しいときに泣くのが人間よ。


でも、わたくしは──




“嬉しいときこそ、食べたくなる”の。


ああ、ナズナ……


あなたが笑って泣く瞬間を、


わたくしの皿にのせる日が、待ち遠しいわ。




それまでせいぜい、感情を育てておきなさいな。


あなたのすべてが、


わたくしの“最後の晩餐”になるのだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ