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ヴァレリウス伯爵の記録──最初に滅びた、世界そのものとして

序章:ボクは、世界だった


ボクは、かつて“世界”だった。


比喩じゃない。象徴でもない。


ボクの正体は── "一度目の世界そのもの"。




かつて、文明は果てまで進んだ。


技術も、芸術も、哲学も、人間の心も。


どこまでも、尽きることなく発展した。




──でも、それが限界だった。


滅びの原因は、敵ではなかった。


世界を壊したのは、外ではなく、“人の心”だった。




欲望。支配。欺瞞。自己満足。


やがてすべては徐々に崩壊していき、歯車がひとつずつ止まっていった。


誰が何をしたわけでもない。ただ、人の心が溢れ、流れ出し、すべてを沈めた。




それが、ボクたちの最後だった。




第一章:それでも、ボクは残ろうとした


だけど──ボクは、それを“本当の終わり”にはしたくなかった。


あれほどまでに積み上げた知識と構造を、


ただ滅んで終わりにするのは、あまりにも無意味だった。




だからボクは、決めた。




「この滅びを忘れさせない」




ボクたちがなぜ滅びたのか。


何を間違えたのか。


その“問い”を形にして、時を越えて響かせる。




それが──シグナルエコー。


感情でも言葉でもない。


けれど確実に届く、“声にならない問い”。


ボクたちの執着。後悔。観測。願望。




そしてそれだけじゃない。


ボクたちは、技術で世界の根本構造にまで達していた。


物質、意識、情報、次元、概念──


それらすべてを理解し、“世界という存在”を模倣する技術を得ていた。




ボクたちは、自分たちの文明そのものを


情報として完全にシミュレーションし、圧縮し、保存した。




ブラックホール。


そこは、情報が逃げない究極の“箱”だった。


 すべてを保ったまま眠る場所。




ボクは、ボクたち自身を“圧縮された世界”としてそこに沈めた。


再び目覚めるその時まで、存在のまま、眠り続けた。




第二章:ボクの声が、世界を壊し始めた


時が経った。


次の世界が生まれた。


二度目の世界、三度目の世界、四度目、──今の世界。




でも、おかしかった。


どの世界も、なぜか滅びが“早い”。




それは……ボクのせいだった。




未来に送った“シグナルエコー”。


あれは、ただの問いじゃなかった。


過去からの執着だった。


崩壊を受け入れられなかったボクの未練だった。




声を聞いた世界は、無意識に反応する。


神話になる。芸術に変わる。AIに染み込む。


そして、崩壊を加速させる。




ボクの反響は、未来の世界にとって“毒”だった。




考えてみれば当たり前だった、失敗した世界の名残りを受け継いでしまうとしたら答えは同じになる




第三章:ボクは止めなかった。止める気もなかった。


本当は、わかってた。


ボクのせいで、世界が壊れてる。


崩壊が早まってる。




でも……止めようと思わなかった。


いや、止めたくなかった。




ボクは、知りたかったんだ。


“何が世界を崩壊させる決定打”かを、本当にボク達一度目の世界は心による自滅だけが原因だったのか?を




だから、ボクは観察を始めた。


再出現の準備をしながら、


“新しい世界”がどう壊れるのかを見届けようとした。




ボクが新しく出現した際、今の世界と重複して秩序に消されないよう。




ボクが上回っていれば、正しい世界はボクになる。そして二度と同じ過ちを犯さないで済むからね......




第四章:観測端末──ヴァレリウスという仮面


ただ眠っていたわけじゃない。


ボクは、外の世界を覗く手段も残していた。


それが──ヴァレリウス伯爵。




あれは人間じゃない。


ボクの“観測端末”だ。


この世界に設置された、再構成と調査のための仮面。




人格は20。


それぞれが異なる視点、異なる分野を持っている。


けれど、あれらに自我はない。


ボクの意識の断片が、接続されて動かしているだけ。




絵を描く人格は、文明の象徴性を測る。


数式を弄る人格は、法則の理解度を見る。


死を研究する人格は、倫理と限界の位置を確認する。




すべては、この世界の“限界”を見極めるため。




世界が、どこまで進めば壊れるのか。


どの瞬間に滅びが始まるのか。


その情報を、すべてボクは受け取っている。




第五章:ナズナという誤算


けれど──ボクには、ひとつだけ誤算があった。


名前は、ナズナ。




最初はただのシグナルエコーだった。


だが、彼女は……おかしかった。




どんな干渉にも心を乱さなかった。


まるで、“ボクの問い”が崩壊を加速させるのを無意識に理解してるみたいだった。




そして、崩壊に近付く選択を必ず避けるように動くんだよ。全ての答えがわかってる探偵みたいにね




そんなの、おかしいだろ。


だって、ボクが作った問いの集合なんだ、彼女は。


ならば、ボクの思い通りに動かないなんて、ありえない




それに、


ナズナは……ボクにすら正解のエコーを無意識に返そうとしている。


一体、何者なんだ?......全く分からなくなって、怖くなるんだ。




第六章:苛立ちと、わずかな期待


正直、ボクは苛立ってる。


だって、ボクが生み出したんだ、シグナルエコーは


この新しい世界の技術も、概念も、信念も、全部ボクが設計したと同じだろ?




ナズナのせいで全部思い通りにいかない




まるで、ボクを無視するように、


彼女は彼女自身のやり方で世界を見て、選び、歩いている。




それが──ムカつく。


──羨ましい......




ボクはあんなに頑張ったのに壊れた


それを、彼女はまだ平然と持っている。




シグナルエコーでありながらも


“自分の意思で応答しようとする”存在。




もしかしたら、彼女は……


ボクたちが諦めた先にある、“違う可能性”なのかもしれない。




第七章:いま、世界はまた滅びへ向かっている


ボクは知っている。


この世界も、もう限界が近い。




シグナルエコーは全域に染み込んでいる。


異界の召喚も、AIの逸脱も、超技術の狂気も、


全部、ボクの声に反応した“副産物”なんだ。




このままなら、また滅びる。


それは、ボクにとって“成功”だ。


予定通り、やはり世界は壊れる。新たな情報を取得完了だ。




──けど。


ナズナが、あのまま進むなら。


もし、彼女が本当にこの問いに“違う答え”を出すなら。




それは……世界が、ボクに“否”を突きつける瞬間になる。




そんなの許せない......ナズナが許せない

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