表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/131

都市伝説 祝福され過ぎた女

1|「おいおい、見たかよ昨日のTikTok?」


「見た見た。腕が十本くらいある女だろ?」




「そうそう、それ。やばいよな……」




始まりは、そんな冗談まじりの会話だった。




問題の動画は、深夜二時──難波通りの商店街で撮影されたものだった。




それは、ただの酔っぱらいかと思われた女が、突然うめき声を上げ、次の瞬間、絶叫とともに肉体が膨張し始める。




見る見るうちに腕が十本、背中側にも十本。異様に細く長い肢体が、音も置き去りにして超特急で駆け抜けていった。




動画は一気に拡散され、大阪近辺でバズを巻き起こした。




「加工じゃないのか?」 「いや、これ見ろよ。影とか完全に合ってる」 「しかも、目撃者多すぎる……」




──その頃、私はすでに“例の依頼”を受けていた。




2|依頼──報酬は100万円


差出人不明。内容はこうだった。




廃ビルまで来てください。


内容は絶対に漏らさないと約束してください。


報酬は100万円です。




面倒な匂いしかしなかった。




だが、その頃ナズナは“巷には出回らない最新型のヘッドフォン”と、TASK-Vの千界がANEI(AI)のOSのデバイスを格安で特別に販売してくれるらしいので── 現金が、どうしても必要だった。




信頼できないルートなら即座に断ってたが、某知り合いのお墨付きもあり報酬を考えれば……断る理由はなかった。




3|遭遇──多腕の女


場所は、大阪南港の廃ビルだった。




立ち入り禁止の看板を越え、暗い非常階段を登る。




最上階、吹き抜けの空間の片隅に、それはいた。




「あなたが、ナズナさん?」


声は女のものだった。




月明かりが差し込む中、その姿が現れる。




──動画の女だ。間違いない。




全身でおよそ三メートル。腕は前後に四十本ほど。異様に長く、しなるように動く。




「驚かないのね?」


ナズナは答える。




「商売上……ね」


4|告白──変異する理由


女は語った。




かつてはキャバクラで働いていたこと。




毎晩、自分目当ての客が何十人も列を作っていたこと。




華やかで、金も人も集まり、羨望の視線を集めていた。




「順風満帆だった。……思い当たるふしなんて、何もなかったのに」




ナズナは静かにつぶやいた




「あなたの“完璧に他人を魅了する力”が、 異次元──あるいは、太古の神のごく小さな一部とリンクしてしまったのよ」


女は目を見開いた。




「それって……わたし、本物の神に……」


「もし“本物”なら、この都市はとっくに壊滅してる。 だから、似てはいるけど、そうではない。派生の派生でその欠片よ。それでも、もう戻れないかもしれないかもね、あなたは既に色んなこと成してしまってるもの」


5|反発──暴走


「じゃあ、どうすればいいのよ!? わたし、なにもしてないのに!!」


女が吠える。無数の腕が、壁を叩き壊し、コンクリートの破片が舞った。




ナズナは一歩も引かずに言った。




「今だって── なぜ、そうなったか全く理解してないじゃない。あなたの人を利用する気持ちの延長線上に、この“変異”があるの」


女の目から、大粒の涙がこぼれた。




「……わたしだって…… 普通に社会で、普通に頑張りたかった……」 「でも、学も金もない女なんか、社会は相手にしないし」 「キャバクラでも、呑気にしてたら周りに抜かれるし、男にも都合よく使われて…… 私は……こうやって生きるしかなかったのよ……」


ナズナは、何も言わず、その声を聞いていた。




6|沈黙と救済


しばらくの沈黙。




女がふと、目を伏せて呟いた。




「……戻りたい……戻ってちゃんと生きたい」


ナズナは答えた。




「まず、心から反省すること。 今までの、自分の他人への向き合い方を」


そしてもう一つ。




「……もうひとつは、“覚悟して、全世界にさらけ出すこと”」


──翌日。




女は、自分の姿を自ら撮影し、SNSに投稿した。




再びバズった。 が、今度は人々の反応は違った。




「CGだろ」 「AI生成だわ」 「なんかフェイク臭すごい」




人々の“集団的無意識”が、それを“非存在”として処理していった。




真実を、フェイクとして“整頓”したのだ。




7|後日──ある手紙


数ヶ月後、ナズナの元に、封筒が届いた。




ナズナさんへ。




あれから体は戻り、 人としての形に、なんとか戻れたようです。


今はスーパーで働いています。


覚えることばかりで地味で、退屈です。




でも、すこしだけ……すこしだけ、充実しています。


封筒には、特売のチラシが一枚、同封されていた。




そこには、「惣菜部・◯◯さん」── 笑顔でポテトサラダを盛る、小柄な女性の姿が写っていた。




ナズナは少し微笑んだ



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ