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証券会社、総会屋もの

水着ファッションショー

掲載日:2025/12/25

1.

山内浩司はヤマサン証券に入社した。


彼は真面目に大学で学んだが、文科系では成績が就職に直結しなかった。


最初の1週間で人気のある商社、銀行、メーカーはすべて内定を出し尽す。


2週目になると、不人気な証券会社くらし残っていない。


証券会社が嫌われる理由は明白である。


昇進するほどノルマがきつく、数字に追われ、心をすり減らす。


山内は、もう上位を狙うのを諦め、大手でも下の会社を受けることにした。


ヤマサン証券は大手とは名ばかりで、トップの半分の規模しかない。


離職率の高さを隠すため、入社から2年間はノルマなしという制度を設けていた。


また数年前までは新入社員は全員支店配属だったらしいのだが、最初から20名程度は本社配属というように変更された。


英検1級を持っていた山内は、国際営業部に配属された。


仕事は朝、海外店からの注文をテレックスを見ながら、モニターで入力するのが主で、あとは暇である。


2.

八重洲の地下街は、昼のざわめきに包まれていた。


照明はやや黄みを帯び、コーヒーの香りや焼き立てのパンの匂いが混じり合う。


どの店も昼食を求める人々でにぎわっていた。


山内は昼休みには、その雑踏の中を、いつものようにあてもなく歩いていた。


その日、ふと人だかりができているのに気づいた。


近づいてみると、臨時のステージが設けられ、照明に照らされた数人の女性が音楽に合わせて歩いていた。


新作水着のファッションショーである。


山内は思わず立ち止まった。


そこに並ぶのは滑らかな肌を持つモデルたち。


ほとんど布切れのような小さなビキニに身にまとい、彼女たちは笑顔を絶やさず、腰を軽く揺らしながら行き来する。


照明の熱が肌を照らし、わずかな汗がきらめいた。


山内だけでなく、多くの男たちが立ち止まり、息をのんでいた。


モデルには、ほとんど裸に近い姿を見られて明らかに興奮を示しているものもいる。


山内はそのショーをじっくりと見てから、黙って国際営業部の自分の席に戻った。


3.

国際営業部には、山内より3年先輩の清水秀明という男がいた。


身長は高く、いつも高価そうなスーツを着こなし、軽口をたたくタイプの男である。


清水はのちに外国株式課へ転勤し、それからすぐにアメリカ系の大手証券会社、ドレスキレ証券へと転職していった。


山内が清水と最後に同じタクシーに乗る機会があったのは、ある取引先での会食の帰りだった。


二人は無言のまま車に乗り込んだが、清水はやがてわざとらしく笑いながら、運転手に聞こえるような声で言った。


「山内くん、水着ショー、楽しそうだったな。ああいうの、好きなんだ」


車内に気まずい沈黙が流れた。


そのころ、山内は国際営業部から外国債券部に本社内で移動していた。


清水は外国株式だけでなく、外国債券も扱ってはいたが、まだ経験が浅く、いわば素人同然だった。


山内は清水に対する復讐を決意した。


思い返せば、以前にも腹立たしいことがあった。


清水に寿司をご馳走になったときのことだ。


その席で彼が「今日はごちそうさまでした。接待みたいですね」と言ったら、清水は鼻で笑って答えた。


「後輩だから、奢ってるだけ」


その一言が、妙に癪に障った。


山内は以前、上司の課長から清水の恥ずかしい過去を耳にしていた。


それは、国際営業部にいた頃のことだ。


清水は国際金融部の女性を妊娠させ、責任を取って結婚したものの、結局は離婚してしまったという。


結婚前に妊娠させたという事実だけは、まだ誰にも口にしていない。


山内はそういう他人の恥を話すのが嫌いだった。


だから余計に清水が許せなかったのだ。


4.

ドレスキレ証券からは、毎日、1枚のファックスが送られてきた。


その中には、各国の債券の買取価格が細かく書かれている。


山内は外国債券の扱いには慣れていた。


その中でも流動性の差があることを知っていた。


流動性とは、どれだけ簡単に転売できるかを意味する。


国債に比べて社債は買い手がつきにくく、それだけ売るときに叩かれる。


債券の売買は、株のようにすべてが市場で行われるわけではないのである。


ヤマサン証券は流動性の低い債券であっても、1万ドル単位で客に販売していた。


その結果、売れ残りや客が売った端債が会社の手持ちとなる。


ヤマサンにもアメリカの銀行、セキュリティ・パシフィック社の社債が額面1万ドル、眠っていた。


この銘柄は10万ドル以上でないと転売が難しい。


ドレスキレ証券から届いたファックスの一枚に、セキュリティ・パシフィック社債の買取価格が明記されていた。


山内は眉を上げ、しばらくその数字を見つめた。


清水なら気づかないだろう。


山内は迷いなく清水秀明に電話した。


「セキュリティ・パシフィック、1万ドル。当社の売りでいいですか?」


静かな口調で山内は言った。


「ありがとう」


清水は短く答えた。


取引はこれで成立した。


すぐに清水から再び電話がかかってきた。


「トレーダーに怒らちゃったよ」


「いいのかなと思って」


「言えよな」


清水の声は怒りを含んでいた。


山内の心には一片の後悔もなかった。


ドレスキレ証券からのファックスには、どこにも「10万ドル未満は買取不可」などとは書かれていなかった。


わざわざ教える必要もない。


もし教えていたら、それは自分の会社に不利な行為になる。


ドレスキレ証券は、「ジャンク・ボンドの研究」なる報告書を公表していた。


ジャンク・ボンドとは、格付けの低い債券のことで、普通の国債や高格付け企業債と比べて利回りは高い。


実際には転売が難しい債券ばかりを顧客に押し付け、それを買い取っていたため、経営は苦しくなっていたのである。


ドレスキレ証券は倒産した。







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