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銀のドレスのイブニング・フラワー 〜偽りの令嬢と真実の愛〜  作者: Lucy M. Eden
<第2幕>

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8/14

Confession

エリザベス令嬢の介入後、アルフレッド王子はしばらく婚約者と共に公式の場に留まっていたが、エマを見つけると、すぐに何人かの貴族に挨拶を済ませ、再び彼女のもとへと戻ってきた。


「イブニング・フラワー」


王子は、エマの手を取り、広間の喧騒を離れた場所へと彼女をエスコートした。辿り着いたのは、宮殿の裏庭に面した、小さなバルコニーだった。秋の夜風が、広間の熱気を冷やし、星の瞬きが、二人の空間を静かに照らした。


「静かだ。ようやく息ができる」


王子は、そう言って、胸元の飾りを緩めた。その顔には、公的な場での気高さではなく、野原で会った時のような、疲労と寂しさが滲んでいた。


「あなたは…この場所を求めていたのですね」


エマは、静かに言った。


「ああ。私は、この眩しい光と、香水の匂いに、時々窒息しそうになる」


王子は、バルコニーの石の欄干に寄りかかり、夜空を見上げた。


「完璧なものは、完璧でなければならないという重圧を生む。バラは美しい。だが、常に水と肥料と、温室の管理が必要だ」


彼の言葉が、エリザベス公爵令嬢と、彼らの関係を指しているのは明白だった。


「エリザベスは、この王国の未来にとって、最もふさわしい王妃だ」


彼は続けた。その声は、愛情ではなく、職務を遂行する際の冷静な報告のようだった。


「彼女は賢く、美しく、地位も揺るぎない。国民も喜んでいる。これは義務だ。愛するべき義務」


エマは、その言葉を聞いて胸が締め付けられた。彼女は、静かに勇気を振り絞った。


「義務…であるなら、あなたは幸せではないのですね」


アルフレッド王子は、驚いたようにエマを見た。宮廷の誰もが、彼の決断を祝福し、その愛を疑わない中で、彼女だけが、その内側の真実を指摘したのだ。


「君は…鋭いな。あの野原で、私の寂しさを嗅ぎ分けた時のように」


彼は苦笑した。


「そうだ。私は、自由がない。私には、好きな花を摘む自由も、好きな場所で、好きなように、ただ一人の人間として生きる自由もない」


王子は、視線をエマの髪飾りのマーガレットに戻した。


「君の髪に飾られた花は、その全てを持っている。誰の管理も受けず、風に吹かれて、太陽を浴びて、ただ咲いている。私は、その自由な魂に、ひどく惹かれているのかもしれない」


彼は、エマの顔を両手で優しく包み込み、身をかがめた。二人の顔は、夜の帳の中で、あと数センチの距離になった。


「君に会う前は、全てが決められた運命だと受け入れていた。だが、君と話すと、私の心は初めて、この決められたレールから外れた場所にある、本当の風景を見たいと願う」


彼の熱い吐息がエマの頬にかかった。エマは、目の前の彼が、高貴な王子ではなく、ただ愛と自由を求める一人の青年であることを感じた。


「あなたは、自由になれます」


エマは、震えながらも確信を持って言った。


「義務を果たすことが、あなたのすべてではないはずです。あなたは、優しさを持っている。私は、それを知っています」


エマは、そっと彼の手を握りしめた。彼女の素朴な、しかし温かい共感が、彼の心を深く揺さぶった。


「その優しさだ…イブニング・フラワー。君は私に、私が失ったと思っていた、人間の温かさを思い出させてくれる」


彼は、エマの手を掴んだまま、バルコニーの隅にある石のベンチに座らせた。


そこで、王子は、王室の外交政策、婚約者の役割、そして彼が真に望む「国民の心に近い、飾らない統治」の夢を、エマに打ち明けた。それは、婚約者であるエリザベス令嬢にさえ話したことのない、彼の心の最も深い場所にある秘密だった。


エマは、ただ静かに耳を傾けた。彼女は、彼の地位を羨むのではなく、彼の重圧に深く共感した。


このバルコニーでの会話を通じて、アルフレッド王子は、エリザベスとの関係が「国を愛する義務」であり、エマとの関係が「一人の人間を愛する真実の感情」であるという、決定的な違いを悟った。


夜が深まり、舞踏会の終焉を告げる鐘の音が鳴り響いた。二人は、身分の壁を超えて、運命の絆で結ばれたことを確信していた。

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