月光の庭と二人の約束
結婚式から数ヶ月。
季節は巡り、王国には柔らかな春の風が吹き始めていた。
エマは今、王宮の片隅にある「秘密の庭」にいた。そこは、アルフレッドが彼女のために用意させた場所で、宮廷の庭師が管理する完璧なバラ園とは対照的に、各地から集められた素朴な野花やハーブが、ありのままの姿で咲き乱れている。
「エマ、またここにいたのか」
聞き慣れた愛おしい声に振り返ると、政務を終えたアルフレッドが、上着を脱ぎ、穏やかな微笑みを浮かべて立っていた。王冠を置いて、ただの「一人の男」としてエマの前に立つとき、彼の瞳はかつての野原で出会ったときと同じ、澄んだ青色に戻る。
「アルフレッド様。見てください、あの日私たちが拾ったタツナミソウの種が、こんなに芽吹いたんです」
エマが指差した先には、小さな緑の芽が力強く顔を出していた。エマの服装は、王妃としてふさわしい上品なシルクのドレスではあったが、袖を少し捲り、土に触れることを厭わない彼女の姿は、出会った頃の「野に咲く花」そのものの純粋さを失っていなかった。
アルフレッドはエマの隣に腰を下ろし、彼女の少し汚れた手を愛おしそうに取った。
「君は、この城に新しい風を連れてきてくれた。形式ばかりを重んじていたこの場所が、今では君の笑い声と、この花の香りで満たされている。……父上も母上も、最近では君が淹れるハーブティーを心待ちにしているようだよ」
「本当ですか? 良かった……」
エマは安堵して微笑んだ。最初は彼女を認めなかった国王夫妻も、エマの飾らない真心と、アルフレッドが見せるかつてない活き活きとした表情を見て、今では彼女を本当の娘のように慈しむようになっていた。
アルフレッドは、エマの耳元にそっと唇を寄せ、囁いた。
「今夜、あの銀のドレスを着てくれないか? 二人きりで、月光の下でワルツを踊りたいんだ」
エマは顔を赤らめながらも、深く頷いた。
「ええ、喜んで。……でも、アルフレッド様。私、気づいたんです。あの日、私が着ていた銀のドレスは、魔法のドレスじゃなかったって」
「どういう意味だい?」
「あのドレスがあったからあなたに見初められたのではなく、あなたが私の心を見つけてくれたから、あのドレスが輝いたんだって……」
アルフレッドは愛おしさが堪えきれないというように、エマを強く抱きしめた。
「その通りだ。君がどこにいても、どんな姿をしていても、私の心は君という花の香りを探し当てるだろう。……愛している、エマ。私の生涯をかけて、君をこの庭のように大切に守り抜くと誓うよ」
夕暮れ時の庭に、二人の幸せな笑い声が響く。
かつて「イブニング・フラワー」と名乗った少女は、今や王子の唯一無二の伴侶として、この国で最も美しく、自由な花として咲き続けていた。
ありがとうございました。




