「貴方と結婚して苦労する位なら、わたくし、修道院へ参ります」とまで言われたどうしようもない王太子が、改心して復縁するお話
「青月祭、君に任せるよ。私は多忙だからね。なんせ、王太子だから」
カイドル王太子は自分の婚約者であるマーシャレリア・アフェリド公爵令嬢に、準備を丸投げした。
王立学園の青月祭。それを準備するのは王太子たるカイドル・エジャン王太子。自分の仕事のはずである。
美しき青い髪に青い瞳のカイドル王太子は、それはもう美しい王太子殿下であった。
カイドル王太子は自分の誕生日を学園で祝う為に自ら準備をする。
それが青月祭。
準備をカイドル王太子がするということは、国王である父の命令であった。
「先行き、学園で学んだ者達はお前の世になった時、大きな力になるだろう。だからお前の誕生日の日を持って、皆を労わる祭りを開け。その準備はお前がするがいい」
そう、カイドル王太子に命じたのだ。
ええええ?自分の誕生日を祝う祭りなのに、自分で準備しなければならないのか?
カイドル王太子は不満だった。
不満といえば、婚約者であるマーシャレリア・アフェリド公爵令嬢に対しても不満であった。
同い年の17歳。彼女は自分より頭がいいのだ。なんせ学園で一番の成績であり、金の髪に青い瞳のマーシャレリアはそれはもう美しかった。
それに比べて、カイドル王太子の成績は下から数えた方が早いといった方がいい。
学園のテストなんて真面目にしたくはない。
王子は自分一人しかいないのだ。
黙っていても王冠は自分に転がりこんでくる。
だから、努力なんて、かったるくてしたくはなかった。
マーシャレリアは口うるさく、
「王太子たるもの努力をしなければいけませんわ」
だなんて言うけれども、
「黙っていたって王冠は転がり込んでくるんだ。努力?それは周りがするものだ。君や側近になる同期の者達が。だから私はする必要はない。ただただ、着飾ってニコニコしていればいい」
「それではいけません。どうか、お願いですから努力して下さいませ」
「うるさいなぁ。そうだ?今度、青月祭があるだろ?あれ、お前が準備してくれよ。私は王太子だ。忙しいって言ってさ」
「はぁ?忙しくないでしょう。努力が大嫌いな王太子殿下が、忙しいはずないじゃないですか。しっかりと青月祭の準備をして下さい。皆に感謝を王太子殿下からする為の祭りなのです。それを貴方自身がやらないだなんて」
「だから。黙っていても王冠は転がりこんでくるんだしさ。適当にやっておいてくれよな」
本当に愚かだった。反抗期だったのかもしれない。
だって、いつも父上母上からは王太子としてふさわしくあれと言われていて、婚約者であるマーシャレリアや、他の側近候補の令息達からも、
「王太子として相応しい行動をして下さいませ」
「そうです。王太子殿下。お願いですから」
だなんて言われては反抗したくもなるだろう?
だから青月祭の準備なんて何もしなかった。
マーシャレリア達がちゃんとやってくれるだろう。
当日、さも自分がやったようにふるまえばいい。それが王太子たる自分の役割だ。
そう思っていた。
当日。普段と変わらない授業が行われた。
祭りも何も行われなかった。
カイドル王太子は目を疑った。
「どういうことだ?私は祭りの準備をマーシャレリアに任せたはずだ」
「今年は中止に致しましたわ。王太子殿下が祭りの準備をするようにと国王陛下が命じたと聞いております。王太子殿下が準備しなかったら祭りは中止になるでしょう?」
マーシャレリアの言い方が頭に来た。
だから、
「お前は私の言う事を聞いていればいいんだ。お前とは婚約破棄をする。当たり前だろう??私の言う事を聞かなかった罰だ。泣いて縋ったって許してやらん。今更、新しい婚約者を見つけようとしたって見つからないだろう?目ぼしい家はもう皆、婚約を結んでいるからな。泣いて縋ればいい。それならば許してやるぞ」
マーシャレリアは、
「婚約破棄をして頂いても結構ですわ。貴方と結婚して苦労する位なら、わたくし、修道院へ参ります」
「へ?私を愛していたのではないのか?」
「過去を振りかえってみましょうか?わたくし、貴方にいつも命令されていて、いい思い出なんてひとつもない事に気が付きましたわ。一緒にお茶を飲んでいたって、貴方っていつも、面倒くさいなー。王冠が転がり込んでくるから、なーんもする気がしない。君はしっかり勉強してくれよ。私は遊んで暮らすから。とかなんとか言っていて、本当に酷い人だと思っておりましたわ。婚約解消したくても王命だから解消も出来なくて。婚約破棄でしたかしら、悪いのは貴方ですわよね?」
「悪いのはマーシャレリアだろう?青月祭の準備をしなくて私に恥をかかせたのだから」
「いいえ。国王陛下はカイドル王太子殿下に、準備をするようにと命じたと聞いております。ですから悪いのは王太子殿下ですわ。それを一方的に婚約破棄とは。慰謝料を貰えるのかしら?わたくし、修道院へ行くにしてもお金が必要ですから助かりますわ」
「修道院へ行くだなんて、綺麗なドレスだって美味い食事だって出来ないぞ」
「貴方と一生を共にする苦痛と比べたら、何ともありません。ああ、なんて幸せな生活なのでしょう」
カイドル王太子は焦った。
婚約破棄だなんて言ってしまったが、もし、マーシャレリアを婚約破棄しただなんて言ったらさすがの父である国王も怒り出すだろう。
カイドル王太子は頭を下げて、
「すまなかった。私が悪かった。婚約破棄を撤回する」
「わたくしは、修道院へ行きますわ。今更、謝られても」
「だから、心を入れ替える」
「それならば、改めて青月祭の準備を致しましょう。わたくしも手伝いますから、今度は王太子殿下が主となって」
「解った。よろしく頼む」
青月祭の為の予算は決まっている。その予算の中から、祭りの準備をしなければならない。
皆の前で挨拶をした後、立食パーティ、そしてダンス。場所は学園の講堂である。
楽団を頼んで、食事も手配して、色々とやることが沢山ある。
婚約者であるマーシャレリアとダンスを披露しなければならない。
出席者は皆、青のタキシードとドレスを着る事になっている。
マーシャレリアに手伝って貰って、色々と手配をした。
マーシャレリアは頼りになる。
色々とアドバイスをしてくれる。
「食事の手配はここの食事処が良いですわ。しっかりとしたパーティ用の食事を提供してくれて、それでいて、金額も予算内で収まります」
「それはいいな。どこがいいか解らなくてね。助かるよ」
「楽団は、こちらがよろしいのではなくて?レットス楽団。王宮の夜会でよく演奏をしていますわ。学園の祭りでは普通承知して下さらないでしょうけれども、王太子殿下が直々に頼めば承知してくれると思いますわ」
「凄いな。確かに。レットス楽団は素晴らしい楽団だと、母上が褒めていたな。そこにしよう」
二人で色々と相談をしていたら、声をかけられた。
「マーシャレリア。考えておいてくれたかい?」
隣国のジェリドル皇太子が立っていた。
キラキラの笑顔で、黒髪碧眼の彼は背が高く美しくて。
彼は留学生として王立学園来ていた。
カイドル王太子はジェリドル皇太子に向かって、
「どういうことだ?考えておいてくれたって」
「私と結婚して欲しいと頼んでおいた。マーシャレリアはとても優秀だ。私と結婚していずれは皇妃になって欲しい」
マーシャレリアは、
「そんな話に乗ると思っておりますの?ジェリドル皇太子殿下には婚約者がいますでしょう?どうせわたくしなんて側妃とか愛妾にするつもりで。わたくしは騙されませんわ。ああ、どうしてわたくしの周りって、どうしようもない男ばかりなのかしら」
カイドル王太子は焦る。
「どうしようもない男って私の事を言っているよね?」
「当然でしょう。謝ったと言っていたけれども、貴方、改心したのかしら?仕方がないから婚約を継続していますけれども。あああ、どこかに完璧に素敵な方、いないかしら?」
ジェリドル皇太子は慌てて、
「確かに、婚約者はいるが、君と結婚したいって気持ちは本物だ。だから、皇妃は難しいかもしれないけれども側妃なら」
マーシャレリアは背を向けて行ってしまった。
そして、数日後、思ってもみない事が。
マーシャレリアとの婚約は解消された。
父である国王にカイドル王太子は抗議した。
「どうして?マーシャレリアとの婚約は解消になったのです?」
「隣国の帝国がアフェリド公爵令嬢を、ジェリドル皇太子の側妃に望んでいるとの事。バルト帝国は大国。こちらが引くしかないだろう?」
「しかしっ」
「お前は嫌がっていたではないか?マーシャレリアとの婚約を」
確かに反発して嫌がっていた。でも‥‥‥
マーシャレリアはいつでも自分の為に、小言を言ってくれた。
煩いと思っていたけれども、でも。
アフェリド公爵家に出向いて、マーシャレリアに面会を求める。
彼女は学園に来なかったから。
「マーシャレリア。まだ青月祭の準備は終わっていない。君がいなくても私は立派に祭りの準備をしてみせるから」
会いたくないと面会を拒否されたから、執事に頼んで、伝言をして貰った。
もう、自分がマーシャレリアと踊る事は出来ない。
ものすごく悲しかった。
今まで自分は彼女の何を見ていたのか。
もっと婚約者として真剣に付き合っていればよかった。
反抗したいからって、マーシャレリアにも反抗したってどうしようもないだろ?
胸が潰れる程に悲しい。
こんな気持ちになったのは初めてだ。
マーシャレリアはジェリドル皇太子の相手としてダンスを踊るのではないのか?
モヤモヤする。もう手の届かなくなったマーシャレリア。
あああ、でも君の望みだったね
せめて、しっかりと青月祭は成功させて見せる。
一週間後、青月祭は開かれた。
青の花で華やかに講堂は飾られ、青のランタンが灯される。
豪華なご馳走が、丸テーブルに用意されて、生徒達が青の装いで集まった。
祭りの開催に当たって、講堂でカイドル王太子は挨拶をする。
「このたびの祭りの開催に当たって、アフェリド公爵令嬢に力になって貰った。彼女は私にとってとても理解ある婚約者だった。時には私を支え、叱咤し、愚かな私の為に頑張ってくれた令嬢だ。私は彼女の幸せをここに願いたいと思う」
その時、青いドレスを着て、マーシャレリアが講堂に現れた。
ジェリドル皇太子の姿はない。
カイドル王太子はマーシャレリアに近づいた。
マーシャレリアは、
「ジェリドル皇太子殿下は変…辺境騎士団にさらわれてしまいましたわ。わたくしの側妃の話は無くなりました。よろしければ、また、わたくしを婚約者にして頂けません?」
「でも、私は愚かでどうしようもない男で、愛想をつかしたのだろう?」
「カイドル王太子殿下なら、きっと改心してくれますわ。だってこんなに立派に青月祭を開催したではありませんか」
嬉しかった。
彼女と結婚出来る。
自分の為に、今まで色々と言ってくれた。
自分のようなどうしようもない男には、マーシャレリアみたいなしっかりものの女性がふさわしいのかもしれない。
「君が私と結婚してくれるのなら、頼もしいな。頼りない国王になる私をしっかりと支えてくれる王妃になりそうだ」
「これからも、貴方様の為を思って口うるさく言うとは思いますが、それでもよろしくて?」
「ああ、君を失うと知った時に、とても悲しかった。私には君が必要だ」
手を差し出す。
「さぁ。皆にダンスを見せよう。私と君の‥‥‥」
マーシャレリアはカイドル王太子の手を取って、
「よろしくお願い致しますわ」
二人はダンスを踊る。
皆が拍手をした。
そして、周りの生徒達もそれぞれの婚約者や恋人とダンスを踊る。
皆、青のタキシードとドレスを着て。
青月祭は華やかに大成功に終わるのであった。
祭りが終わった後、二人は会場に残って、使用人達が後片付けをするのを眺めていた。
マーシャレリアの手を握り締めて、
「今回の祭りが成功したのは君のお陰だ。有難う」
「改めて言われると、カイドル王太子殿下の頑張りがあったからですわ」
「確かに君の言う通りだった。思い起こせば君に辛い思いばかりさせていたね」
「いいのです。反省して下されば」
「まだ、修道院へ行きたいか?」
「幼い頃から、わたくし達は婚約者と決められておりましたわね。ずっと貴方は反発して。それでも、わたくしはいつか貴方がしっかりとして下さると信じて、口煩く言ってしまいましたわ。本当は修道院なんて行きたくない。わたくしはこの王国の為に尽くしたいのですから。わたくしの出来る事で。王妃になったら色々と出来るわ」
「私の事はそのためだけの婚約かい?」
「貴方が先行き、国王として頑張って下さるのなら‥‥‥愛して差し上げますわ。本当に先が長い話ですわね。とりあえず、結婚はして差し上げます」
「手厳しいな」
「ええ、今までが今までですから」
「君に愛されるように頑張るよ」
その後、二人は婚約期間を経て、結婚した。
しっかりもののマーシャレリアに支えられて、カイドル王太子は勉強に励み、卒業する頃には10位の成績で卒業した。
その後、結婚をし、二人の間には五人の子宝に恵まれた。
カイドルは国王に即位した後も、マーシャレリア王妃の助言に従って、仕事を頑張った。
王国はカイドル国王夫妻の元、栄えた。
年老いたカイドル国王は体調が悪くなったので、息子に王位を譲った後に、急速に身体が衰えた。
寝込んだカイドルは、マーシャレリアの手を握り締めながら、
「私は君に愛される程に頑張ったか?」
「ええ、貴方は国王として立派でしたわ。わたくしの夫としても、子供たちの父親としても、本当に頑張りましたわ。そんな貴方をわたくしは愛しております」
「ああ、嬉しいよ」
そう言ってカイドル国王は満足して瞼を瞑ったと言われている。
とある変…辺境騎士団
「私は美人の側妃が欲しいだけだったんだーー。ここはどこだ?」
「ここはムキムキパラダイス」
「屑の美男を教育させる機関」
「こいつは教育し甲斐がある屑の美男」
「教育が楽しみ」
四天王のアラフ「本当に、お前ら良く見つけてきたな。情報部が協力したのか?」
「情報部の貴公子オルディウスに賄賂を渡した」
「情報部長は高級チョコレートが好き」
「チョコレート代はアラフの給料から引いておくように経理に言っておいた」
‥‥‥‥ 何で俺の給料なんだ???
アラフは屋根に登って泣いた。オルディウスが慰めてくれた。ちっとも嬉しくない。
四天王のゴルディルが慰めてくれようとした。屋根が壊れた‥‥‥オルディウスのワインコレクションが全滅した‥‥‥