第一章 6『大事な話』
僕は心の機微に聡い。
それは僕の仕事の上で欠かせないものだし、天使たるもの、必要不可欠な要素の1つだからだ。
そして彼女の目をみてわかった。
僕はまるで信用されてない。
まあ、当然と言えば当然の反応だけど、何しろ今は時間がない。ちょっと強引で、彼女には本当に申しわけないけれど、少しだけ彼女の思考を読ませてもらう。
この話には真剣に耳を傾けて欲しいから。
どうやら彼女は、ここが現実ではなく夢の世界と考えているようだ。
僕はゆっくりと話し始めた。
スサノオ「ここは夢の世界じゃない。
さっき、森で魔物に囲まれていた君を助けたのは僕だ。
その証拠の一つ、君の足元に置いてある木の棒はその時君が持っていたものだ。
森では咄嗟に目くらましの魔法を使ったから、僕の姿は見えなかったのかもしれないね。
君は何故か、もの凄い数のレパタイガに囲まれていて、今にも襲われそうだったんだ。
あの数の敵には広域の魔法が必要だけど、あのまま魔法を使っていたら、君も敵認識されて怪我をしてしまう可能性があったんだ。
だから僕は君と契約した。
仲間には攻撃の魔法は効かないからね。
そうして君には一旦眠ってもらって、レパタイガにマヒの魔法を掛けて山の奥深く転送した。
さっきはそんな風にして森から脱出したってわけ。
無益な殺生は避けたいし、何しろ敵はざっと数えて100頭近くいたから。
そして、君が再び目覚めて今に至る…ここまではOK?」
彼女は、途中何か言いたげながらも、ここまでの話をちゃんと聞いてくれた。
そして足元に転がる木の棒を手に取ると、こう言った。
彼女「確かにこれは、私が道で拾ったものだわ。握りしめた時、棘が刺さってちょっと怪我をしちゃったの。その時の血がこの棒についてる。
…あなたの言うことの、辻褄は合っていると思う。
でも、魔法って…!
地球に魔法使いや、天使は恐らくいないよ?おとぎ話の中以外には…たぶんね。」
そうか…
確かに彼女のいた地球には居ないかも。
いや、まぁ、本当は居ないわけじゃないけど、我々も魔法使いも、基本存在を隠しているから、わからなくて当然だ。
スサノオ「いるよ。いるんだ。その根拠はまた後で。先に大切なこと、君の地球とここの地球の話をするね。」
彼女は、今度は僕の目をしっかり見て、コクリと頷いた。
スサノオ「さっき、この地球は君の住んでいた地球のパラレルワールドって言ったけど。
どちらの地球も存在するんだ。
地球だけじゃない。太陽系の他の惑星にも、銀河の遠い星にも全てパラレルワールドがある。
パラレルワールドが何のためにあるのか。
簡単に言うと、バランスを保つためなんだ。
君は自分の背中を見たことがあるかい?
鏡とか何かの反射を使うのではなく、自分の目で。
見えないよね。見えないんだ。でも存在する。
見えないけど、お互いが支え合って助けあってバランスをとっている。
君のいた地球とここは、そんな関係なのさ。
今はまだ詳しくは話せないけれど、
君は色々な偶然が重なってここに存在している。
君のいた地球から転移してきたんだ。
君はこの世界の存在を認めてくれるだろうか?
そして、ここで生きていくことを受け入れてくれるだろうか?
…大丈夫かい?
急にこんなことを言われても、にわかには信じられないだろうけど。
しつこいようだけど、もう一度言わせて。
これは事実だから信じて欲しい。」
…まぁ、そうは言っても、いきなりこんなことを言われたって、直ぐには受け入れられないだろうな。
彼女が納得してくれるまで、根気強く何度でも話すしかないし、彼女の決断を尊重するけど。
あの体が果たしていつまで持つのか。
急がないと!
あまり時間はないような気がする。それだけが心配だ。
彼女を見ると目を瞑って逡巡しているようだった。そして、しばらくそうしてから、大きく息を吐いてこう言った。
彼女「スサノオさん、ひとつ聞いてもいい?」




