第一章 2『夢の中で』
う、ううん…
どこかから声が聞こえる。
囁くような、歌うような、でも私の知らない言葉。
瞼が重い。
たくさん寝たようでもあり、一瞬だった気もする。
長い夢でも見ていたのかな。
ぼんやりしてて思い出せないけど。
まだ覚醒しきってない、ふわふわした感じ。
瞼に光を感じ、そっと目を開けてみるとそこは…
見慣れぬ天井でもなければ、よくある白い病室でもなくて。
そりゃそうだ、ここ、どっからどう見ても、外だもん!
大きな木の下、木陰に引かれた柔らかな布のシートの上で、ブランケットを掛けて眠っていた…らしい。
いやいやいや、ここどこよ??
なんでこんなピクニックみたいなことになってるの??
それに私のこの格好、なに??
人気のRPGの村娘みたいなドレスを着てるんだけど!
夢だ…そうだ夢か!
これ、夢なんじゃん〜びっくりしたー
やけにリアルに感じるけど、私、元々夢はフルカラーで見るし?楽しい夢は続きが見れるお得な体質なんだよね。
それにしても不思議な夢だなぁ。
そよそよと吹く風が気持ちいい。
気候もいいし、シートの下はふかふかの草の絨毯で、座り心地が抜群。
爽やかな草の香りもいいな。
綺麗な花もあちこちに咲いてるし。
ちょっとそこら辺を歩いてみますか。
うん、体も軽い。
どこまでも歩いて行けそう。
しばらく歩いていると、少し景色が変わった所に出た。
ここは道だよね。ちゃんと草が刈られて整地してある。
あっちに行くと…林かな、いや、森か。山の方に続いてる。
ふむふむ。なるほどね。
これがゲームだと、始まりの村を目指すのがセオリーだけど、夢の中だし。
森の方が断然そそるよね。
そうそう!冒険には武器でしょう。
これは必須よね。そこら辺に落ちてる木の棒でも拾っていこうかな。
何も…出ないよね?
でもでも、もしかしたらスライムとかゴブリンとかに出会っちゃうかも!
そんなことを考えながらたどり着いた森の入口には、看板が立てられていたのだけど。
うそ、字、全く読めないよ…
普通ここは、ちゃんと読めるチート機能とか、テロップとかあるでしょー?
でも、ま、いっか。想像するに、ここより森、注意!みたいな事が書かれているんでしょ?知らんけど。
まだ日も高いし、ほんの少しだけ覗いてみようかな。危なそうなら逃げればいい。
って、夢だから襲われたところで、ねぇ?
自分の夢で自分のスプラッター映像なんてありえないし。
ひょっとしたら私、チート級のめっちゃ強!かもしれないし!
…本当に夢、だよね?大丈夫だよね?
あまりにリアルに五感に感じる(気がする)から。ちょっとだけ不安になっちゃう。
森の中に入っていくと、ぐんと緑の香りが濃くなった。
道は奥へと続いているけど、進むにつれて湿度が上がっているのか少し空気が重く、また、鬱蒼とした木と植物で、まだ昼間なのにあたりが薄暗くなってきた。
なんか、怖いな。
一本道だから流石に迷わないけど、もう戻った方がいいかも。
森の入口まで3分、いや5分くらいだろうか。
急に心細くなって、踵を返したその時。
ガサガサと草をかき分けるような音がして、同時にグルルルと獣の唸り声のようなものまで聞こえてきた。
ちょっと待って。あの草の影に何かいる!!!
それに、唸り声があっちからもこっちからも!!
え?やだ、もしかして囲まれて…る?
いやあああ無理ーーー!!
ふと、高校生の時に野良犬に追いかけられて転んだ時の記憶が頭をよぎった。
こわい、こわい、こわい!!
逃げたいけど、もう無理。
足がすくんで動けない。
そしてついに、声の主が姿を現した。
真っ黒な中型犬くらいのソレは、トラのようなヒョウのような見たことのない生き物で、真っ赤な目をギラギラさせていた。
数は10頭くらいだろうか、ジリジリと距離を詰めてきた。
持っていた木の枝を握りしめるものの、これでは武器というにはあまりに心許なくて。
もうソレは、息遣いがわかるほどに近くて。
やられる!と諦めたその刹那、辺りが眩しい光に包まれて…私の周りに近づいていた数頭のソレが一瞬にして吹き飛ばされた。
私もあまりの眩しさに目がくらんでいると、耳元で声が聞こえた。
???「これ、ちょっとヤバい状況だよ。こんなに集まってくるなんて。しかもコイツらの様子がなんかおかしい。君を庇いながらは戦えない。」
え、戦うってなに?やだよ。無理だし!お願い。助けて。夢、覚めてよ!!!!!
もう、恐怖でパニックだった。
???「この数を振り切るのは無理だから戦うよ。君が怪我しないように、一時的に僕と契約して」
いや、何のことだかわかんない!
この人何を言ってるの?
???「契約、わからない?じゃあ僕が管理者権限で操作するけど、いい?大丈夫?OK?」
私「いい、大丈夫、何でもOK!!!!」
???「よし、出来た。じゃあちょっと大人しくしててね。」
その声を最後に、私は意識を手放した。




