第二章 13 『ご近所、お宅訪問②』
めりりを連れてトム爺の家に向かう。
途中、近所を案内してるけど…ここら辺には特に何にもないんだよな〜
いざという時に結界を張りやすいように、村はずれの住民が少ない場所に住んでいるから仕方ないけど。
それでもめりりは、楽しそうにキョロキョロ辺りを見回している。
そして、自分が目覚めた時に居た、草原の場所を聞いてきた。
めりりはよっぽど花が好きなんだろうな。
家にも花を飾りたいって言ってたし。
あの草原を選んだのは正解だったな。
あそこは今の季節、世界で一番美しい自然の花畑の景色が見られる場所だから。
まぁ、違う大陸だって言ったら相当驚いていたけれど、平気な顔をしてリンクしてるのには、こっちがビックリしたけどな!
リンクを使う場合、幼少期から少しづつ慣らしていくのが普通だ。そうしていても、長距離となると大人でも酔ってしまう人が少なからずいる。
今回のように大陸を跨いで移動する場合、長距離のゲートマーカーを使うこともあるが、それは最上級者向けであって、今回も使うつもりはなかったけど…
5mでも、100mでも、1kmでも、何事もなかったかのように喋りながら歩いてるから、距離を伸ばしてみたら、最上級者向けも難なくクリアしちゃうし。
あの距離をリンクできるなんて…転移者には特別な何かが備わってるのだろうか?それともめりりが特異体質なだけ?
いずれにしろ、リンクが可能なら色々な所に行けるから、落ち着いたら何処か出掛けてみるのもいいな。
トム爺の家にはオリーブ婆ちゃんが一人で留守番をしていて、僕らをあたたかく迎えてくれた。
婆ちゃんやトム爺とも、めりりは直ぐに打ち解けたようでよかった。
ただ、二人の姿を見て、目を真ん丸くして驚いていたのには笑ったな。確かに、この二人の見た目は“人”のイメージだと40代から50代前半ってところだし、まさか100歳を軽く超えてるなんて思わないだろう。
ここのご夫婦は、僕が心を許せる数少ない人たちで大変世話になっているから、めりりも今後深く関わることになるだろうな。
しばらく4人で話した後、トム爺の仕事の手伝い…ということで二人で外に出てきた。
トム「あの子が…信じられんな。」
スサノオ「あの消えそうだった魂がめりりです。この世界で生きると決心してくれました。
めりりは、転移してきた時のMPがゼロでした。まずは普通にこの世界で生きられるよう、レベルを上げないと。
トーマスさんご夫婦には、色々お世話になると思いますが、よろしくお願いいたします。」
トム「ははは。そんなにかしこまらなくていいぞ。
ワシは今はもう“人”でトム爺だからな。
まぁ、なんだ。孫が一人増えたようなものじゃ。
ワシらに出来ることは何でもするから、遠慮なく言ってくるんじゃよ。」
スサノオ「ありがとうございます!頼りにしています。」
トム「いやいや、こちらこそ頼りにしておるぞ。
それから…何度も言ってるが、二人の時でも敬語は無用じゃ。
これを機に、いつ何時でもワシのことはトム爺と呼んでおくれ。
ジジババに加えて妹か。家族が増えたの。スサノオ。
さて、ワシはこれから畑で野菜を採ってくるが…
スサノオには、わしの代わりに村へお使いを頼んでもいいかの?」
スサノオ「はい…あ!…うん、もちろん!
ちょうど役場のジミーに用事があったし、村には行きたいと思ってたんだ。何をすればいい?」
トム「頼まれていた薬ができたから、これを薬屋に届けて欲しいんじゃ。
それと、昨日のパン屋さんでパンを買ってきておくれ。
ランチはサンドイッチにするから、バゲットと、あと、合いそうなパンをいくつか見繕ってきてくれるかの。
スサノオ、ヴォルカは持ってるか?」
スサノオ「僕のは携帯型だから、いつも持ってるよ。
あぁそうだ!ヴォルカのこと、めりりにまだ話してないんだった…!
まさか半日足らずで村まで移動出来ると思わなかったから、めりりにはここの生活のこと、殆ど説明してないんだよ。
トム爺、お願いがあるんだけど。
留守中にヴォルカの話題が出たら“携帯電話”って、めりりに教えてあげてくれる?」
トム「けいたい…でんわ??
なんじゃそりゃ一体???
そう言えばめりりはわかるのか?」
スサノオ「 うん。わかると思う。
あっちでは、四十年くらい前に持ち運べる電話…
えっと、携帯版のヴォルカが出来たんだよ。
それからあっという間に進化して、今は九割近くの人に普及しているんじゃないかな?
大きさも手のひらで軽々持てるくらいだよ。」
トム「!!!何と!まぁ!
あちらの科学技術の進化は、なんと目ざましいことか!
ワシの認識も改めないといかんのう。」
スサノオ「あはは。めりりも無事転移出来たし、今度またゆっくり話しに来るよ。」
トム「うんうん。それは楽しみじゃ!
今日のところは先ず、お使いを頼むの。
昼ごはんは腕によりをかけて作るからの。」
スサノオ「分かった!じゃあ、すぐに行ってくるよ。
あ、あの!!…ありがとう。トム爺!」
僕に家族はいないし、家族が何たるかもわからないけれど。さっきの言葉は、なんかこう、ホンワカあたたかくて嬉しかった…気がする。
今まで二人きりで話す時は、昔の癖でトーマスさんと呼んでいたが、トム爺と呼びたくなった。
…孫か。僕もそうなのか。
今までも、そんな風に見守ってくれていたのか。
このくすぐったいような妙な気分も…
ふふっ。悪くないな。
そんなことを思いながら、村へリンクした。
村では先ず、役場にいるジミーから事件の捜査の進捗について話を聞いた。
ジミー「スサノオ、めりりさんは本当にお手柄だったよ。犯人の二人は各地で窃盗や万引きを繰り返しながら旅をしていて、人こそ傷つけていないが、数え切れない程の余罪があったんだ。
『今回、村民ら数名の協力で現行犯逮捕できた』ということを、村長の声明として書面と、広場で村長自ら演説して発表することになった。
もちろん、めりりさんの名前は出さないし、ありのままを正確に伝えることを約束するよ。」
スサノオ「そうか。まだたった一日なのに、そこまでしてくれて感謝するよ。」
ジミー「それはこっちのセリフだよ。昨日捕まらければ、もっとこの村での被害も増えていたに違いないし。」
スサノオ「まぁ、僕達としては、“めりちゃんの噂”が下火になってくれれば、それでいいよ。
でも、一つ引っ掛かってることがあるんだ。
その噂、誰かが意図的に、話に 尾ひれをつけて広めている気がするんだ。あ、雑貨屋のバロンさん以外…でね。」
ジミー「そうなのか?それは聞き捨てならないな…噂自体は、声明で落ち着くとは思うけど。
意図的に…か。ちょっと気になることもあるし、噂の流れも調べてみるよ。」
スサノオ「うん。よろしく頼むよ。」
役場を出た僕は次にトム爺の取引先である薬屋に向かった。
トム爺は豊富な知識と経験を基に民間薬の調合をしていて、それがとてもよく効くと評判になり、
時々こんな風に薬屋に薬を納めているのだった。
あ、そういえば、めりりは人間だから、家に薬箱とか必要だな。帰ったら相談してみるか。
薬を納品し、次に向かうのは…
よし、後はパン屋だな。
市場へ向かう道すがら、行き交う人々や露店の買い物客の様子を観察してみると…
あぁ、まだ、めりちゃんの噂は挨拶がわりの話題になっているな。まだ一日だし、仕方ないか。
今日の午後には村長からの声明発表があるから、それまではこの調子だろうな。
ただ、めりちゃんが、相撲レスラーもビックリの怪力で万引き犯を次々に投げ飛ばした…という噂話だけは、いくらなんでも解せぬ!!
昨日なんか、カーテンをかけるとか言ってキャビネットによじ登ってたけど!
ラグを敷くとか言って、クッソ重いソファーを
一人で動かそうとしてたけど!
うちのめりりは、誰がなんと言おうと、可憐な乙女だぞ?!
そこの所は、さりげな〜く話題に紛れ込んで、こっそり訂正しておいた。念のため。
これも、兄(役)としての役目だよな?
そうこうするうちに、目的のパン屋に到着した。
トム爺に頼まれたのは、昨日届けたバゲットとサンドイッチに合うパン。
昨日、届けたバケットはすぐに見つかった。
後は頼まれた分だな。
ふむ。あれも…これもいいんじゃないか?
いや、あの小さなパンも…
向こうにある甘いパンは、たしか、めりりが好きって言ってたな…お土産に買って行くか。
あれ?そう言えば、僕一人でパン屋に買い物に来るなんて初めてじゃ???
こんなに長く生きてて、まだ初めてがあったなんて!!
あぁ〜!!それにしても、種類が多くて何を選んぶのが正解か、全くわかんねーー!!
昨日はめりりが嬉々として選んでいたから、任せっきりにしちゃったけど。
いっそ全種類買ってくかな?
いや、まて。ここはプロに任せよう。
全部買ったら“見繕って”じゃなくなるし。
スサノオ「あの〜すみません。サンドイッチに合うパンを探してるのですが…」
焼き立てのパンを陳列していた女性店員に声をかけてみた。
店員「はい!あ、いらっしゃいませ。サンドイッチに合うパン…ですね。
それならこちらの食パンはいかかでしょう?
ミルクとバターがふんだんに使われていて、柔らかな食感で濃厚な味わいです。
今お持ちのパンはハード系なので、バランスがとれると思います。
あと、この白パンもほんのり甘くてフワフワでフルーツサンドなどにオススメですよ。」
なるほど!どちらもいいな。美味しそうだ。
おすすめの2種類とバケット、それとめりりの好きな甘いパンをいくつか購入することにして会計をしていると、店員が小さな声で話しかけてきた。
店員「あの、失礼ですが…
お客様、昨日もこちらの店でご購入頂きましたよね?止まり木さんのお知り合いで、めりちゃんの…もしかして御家族ですか?
突然お声掛けしてすみませんっ!!!
昨日、ちょっとお話が聞こえてしまったので。」
スサノオ「!!!
いやっ!あの、申し訳ないっ!
昨日は店内で騒いでしまって悪かった。
お察しの通り、噂を流されているのは僕の家族…めりちゃんは僕の妹なんです。
でもあの、このことはどうか…」
店員「言いません!それと、お客様のことは、誰にも話していません!
あの、騒がしかったとかではなくて、ちょっとお耳に入れたいことがありまして…」
スサノオ「はぁ、それは一体どんな…?」
…店員の話によると、自分たちが帰った後、三人の風変わりな客が、入れ代わり立ち代わりに来店したのことだった。
一人目は、身なりが派手めの若い男。
二人目は、身なりが貧しい感じの中年男性。
三人目は、よく夜に広場近くでたむろしている不良の一人。
その三人が三人とも、一番安いパンをたった一つだけ買って“めりちゃんの活躍を見た!”と、店員や居合わせた客達に話し掛けていたらしい。
店員「ここに来た三人の話が、見たという割には内容があまりにもバラバラだったので、最初はイタズラかな?と思ったんです。」
スサノオ「でも、そうじゃなかった…と?」
店員「ええ、たぶん。
三人が買ったのは、小さな子供が一口か二口で食べられるサイズのパンをたった一つだけで、大人でそんな買い方をするのは初めてです。
まるで、パンを買うのは店に入るための口実で、噂話をしたいが為に来店したかのように思えたんです。
私は、お客様が噂のことでお困りの様子を偶然知っていたので、その三人の行動と話に違和感がありました。
なので、窓越しに外の様子を見ていると、その三人には仲間がまだ複数いるようで、手分けして他の店にも訪れているように見えました。」
スサノオ「まさか、そんなことが…??
教えてくれて、ありがとうございます!
ちなみに、その三人と仲間達の事で、他に何か気が付いたことはありましたか?」
店員「そうですね…全員男性であること。
それと、ちょっと近寄り難い雰囲気であることでしょうか。
ご近所のお店の人も彼らを見ていると思うのですが…本来は、店がお客様の情報を他のお客様に漏らすことはご法度なので、話を聞かせて貰えるかどうか。
あ!やだ!私ったら…!!!
あーーーーー!どうしよう?!?!
私のこれも立派なお客様情報ですよね。
あぁぁぁぁっ!すみません!ごめんなさいっ!」
この心優しい店員さんは、きっと昨日からめりりのことを心配して、気にかけてくれたのだろう。
スサノオ「僕は、この話をあなたから聞いたとは、絶対に言いません。
でも…妹が何者かに嵌められてるとしたら、黙ってはいられません。
何が目的なのか、妹の身に危険がないか、知る必要があります。
それに、突然噂の標的にされた妹を思うと、正直憤りも感じます。
役場にいる知り合いに、妙な男たちの存在を知らせます。もちろん、この店とあなたのことは伏せて。
それは許してもらえますか?」
店員「はい・・・大丈夫です。妹さんのこと、ご心配ですよね。早く問題が解決しますよう、祈っています。」
スサノオ「はい。ご親切にありがとうございます!また、寄らせてもらいます。では。」
・・・ちくしょう!噂を流しているグループが居るだと?!誰が何の狙いでこんなことを!!
ジミーは今頃、午後の準備で忙しく動き回っているだろうから、このことは手紙にして預けておくか。
まずは一度トム爺の所に戻って、作戦会議だな。
ふざけやがって!絶対に捕まえてやる!




