第二章 10 『設定が色々複雑な件について』
スサノオのおかげで、買ってきた大量の品物のほとんどが
スッキリ片付いた。
うん!なかなかいい感じじゃない?
あ〜でも、動いたらおなかすいたなー
スサノオ「今日馬車を借りたのはさ、近所に住んでるトム爺とオリーブ婆ちゃんっていうご夫婦なんだけど、いつもお世話になっていてね。
さっきもスープとか色々持たせてくれたから、いただこうよ」
めりり「わぁ!そうなの??嬉しい!
ん〜いい香り!具だくさんで美味しそうだね。お腹ペコペコだから幸せすぎるっ!」
わぁ…美味しい!!!
これは、お味噌…と、バターの香り?!
石狩鍋に近い感じかな。とても濃厚で奥深い味!
でも、何故ここに和食の味が???
めりり「ねぇスサノオ、この味付けは私の世界のものと殆ど同じだわ。今日市場でお醤油も見かけたし、なぜ?」
スサノオ「ん?何故って、それは、ここも地球だってことだよ。
めりりがいた地球は目ざましい科学技術の進歩があったけど魔法はないよね。
こちらは魔法技術が進歩した分、科学技術はまだこれからって感じかな。
たぶんね、科学だけをみたら、めりりの世界と比べると100年以上は遅れていると思う。
だからパラレルワールドって言ってもまるで雰囲気が違うでしょ。
でも、生き物って不思議でね、生きる上で色々な工夫をしたり進化したりして今があるでしょ?
その過程で同じような発見や発明があるのは不思議じゃない。
食べ物や調味料とかも同じで、二つの地球は一見全然違うようだけど、似てるところも結構あるよ。」
めりり「ふぅーん。そうなんだ!
違う進化の過程を辿っても、環境が似てると、似通った発見がある!って感じかな?
よく、わかんないけど。
でもでも、同じものがあって良かったな。
食べ物は特に!
このスープ、なんだかとっても滋味深いというか、ほっとする味で、本当に美味しい…!
奥さま、オリーブさん…だっけ?とても料理上手なのね。これ、私にも作れるかな???」
スサノオ「ははは。たぶん作れると思うよ?
でも、これを作ったのはトム爺だよ。すごく料理好きで上手なんだ。もちろん、オリーブ婆ちゃんの料理もすっごく美味しいよ。」
めりり「このお料理、トムさんが作ったんだ…
料理男子、かっこいいね!」
お料理上手なトムさんとオリーブさん、お二人はどんなご夫婦だろう?
スサノオに頼んで、明日ご挨拶に連れて行って貰えるから、お会いするのが今から楽しみだ。
そして、食後はミモザさんから頂いたカップでお茶をした。月と星が寄り添う美しいカップに美味しいお茶。肌触りのよいラグに腰を下ろして、ぽつりぽつりと話しをしたりして。
ここには当然ながら、テレビもなければラジオも、もちろんスマホもパソコンもない。
でも、ゆっくりと流れる時間が心地いい。
なんか、こういうのいいな。
…こんな風にくつろいで過ごす時間が、もう思い出せないくらい昔のことで、懐かしくて、愛おしくて。
ヤバい。ちょっと泣きそうだ。
スサノオ「あーえっと…そうだ!めりり、そういえば翻訳機能が壊れたとか言ってなかったっけ?」
めりり「へ?あ、うん。
昼間ね、例の二人組の話し声が聞こえてきた時、雑音が入るというか、所々聞こえない所があったの。なんでだろ?」
スサノオ「ふぅん…ちょっと見せて?」
ちょ!近い近い近い!
慌てて目を瞑るも、首元に視線を感じて、どうにも落ち着かないんですけど!!
スサノオ「あぁ、なるほどね。わかったよ。
例の二人組って、たしか外国人って言ってたよね。そのせいだわ。ちょっとこれ見て。」
そう言ってスサノオがアイテムボックスから取り出したのは、一枚の大きな地図。
スサノオ「これ、世界地図なんだけど。
今僕達がいるのはここ。一番大きな大陸の、ここら辺。
で、六つの大陸があって、この南極にある大陸以外の五つの大陸には、それぞれ独自の大陸語っていうのがあるんだ。」
めりり「世界地図!見せて見せて!
へぇ…私の知ってる地球の地図と比べて、かなりデフォルメされてるね。
地図の中心が日本じゃなくて、見なれていないせいか、ちょっと変な形に感じるわ。」
スサノオ「そうだね。でもこれは、こちらの世界地図だとスタンダードなタイプだよ。」
そうなんだ!
地形と、多分国境と、大きめな都市名が描かれているだけの地図は、ものすごくざっくりとしていて、まるで小説の挿絵か、RPGのワールドマップのよう!
つまり、これはそう…私がめっちゃ好きな感じ〜!!
スサノオ「それでね、僕らのいるこの大陸の言葉が公用語になっているから、世界のほとんどの人とは、基本、ここの言語のままでコミュニケーションがとれるってわけ。
めりりの翻訳機能は公用語に対応してるし、最新の状態だけど、他の大陸語は今は話す人も少ないからアップデートされてなくて、ちゃんと翻訳されなかったんだ。
今日の二人は、わざと他の大陸語を使ってたのかもしれないね。」
めりり「なるほどね。あの二人は声のトーンも落とさず喋っていたから、スサノオの言う通りかも。」
スサノオ「カリュの村は、小さいながらも交易の要所なんだ。世界中を旅する商人もいるし、旅人も多い。ここで別の大陸語を使っていても、わかる人にはわかるのに…」
めりり「私、わからなかったけどね…」
スサノオ「ぷっ!!そう言うと思って、今、他の大陸語も認識するように設定を変えたから!
えっとね、ヒアリングの時は、○○語ですって、アナウンスが入るようになってるし、文章とか読む時も表示されるよ。今から他の大陸語で話しかけるから、確認してみて。」
おおおおおおお!すごい!
○○語とか✕✕語とか、わかるようになった!!
スサノオ「よしOK!あ、でも、このアナウンスが聞こえたり、他の大陸語の文章を見た時、めりりは理解出来ないフリしててね。」
めりり「え?なんで???」
スサノオ「この世界では、公用語がわかれば生きていくには困らないんだ。
実際、他の大陸人でも、公用語しか使わない人が大半だし。若い人なら特にね。
大陸語の読み書きに至っては、今は殆んどの人は満足に出来ないかも?
学校で、自大陸語の授業はあるけど、普段使いしないと中々身につかないから。
だから、バイリンガルとかトリリンガルはこの世界では珍しくて、他の大陸語は今日みたいに犯罪で使われることも多いんだ。
もし、変な会話が聞こえたり、怪しい文章を目にしても、わかんないフリをしたままま、頭の中で注意することOK?」
ふむ。なるほど。そういう事情があるなら、知らんぷりしてた方が安全だよね。
気をつけなきゃ。
スサノオ「設定と言えば、言い忘れてたけど、
僕ら自身の設定は…
出身は大陸の西の端っこのここら辺。
僕たちは辺境の貴族の末娘めりりと、すぐ上の兄の僕スサノオ。
僕らの家は貿易を生業にしていたけれど、事業が傾いて、妾腹の僕は早々に家を出されていて。
今回めりりは、金だけはあるけど性格は最低の、どこぞの貴族の第三夫人として政略結婚を迫られていて、それを苦にして、母親が同じ僕を頼って逃げてきた…
こんな感じ。どう?」
どう?って、地図を指さしながらドヤ顔で言われても…ねぇ?
そのキャラ設定、ラノベでありそう〜!なんて言えないし、既に決定事項だよね?
っていうか、私の設定部分がやたらに細かいけれど、それ、必要ですかね?
ちなみに、スサノオの部分はもう、その設定で動いてますよね?たぶん。
めりり「うん。いいと思うよ。
出身地と現在地のこの村が、大陸の端と端ってくらいに離れてるのも。
私たちの暮らし振りがビミョーに小金持ちっぽい感じにも合ってるよね。
腐っても貴族のご子息とご令嬢だし。
スサノオが家を出された理由も、私が家を飛び出した理由も、ありがちで完璧!」
スサノオ「でしょー?
親の仕事絡みで、僕は幼少期から語学堪能。
今は他大陸語の翻訳の仕事をしている〜ってことにしているわけ。
まあ、実際に仕事が舞い込むこともあるけど、それはそれで問題無いし。
現金収入はあるに越したことはないからさ。」
あら、意外と練られた設定だったのね、ごめん。
めりり「たしかに、お金はあっても邪魔にはならないけど…
ねぇスサノオ。あの、今日、いっぱい買い物させちゃってごめんなさい。
私もちゃんと働くから。」
スサノオ「ぶははははは。
そんなこと、気にしなくていいって!この程度の買い物なんて痛くも痒くもないから。
めりり、僕が、一体何年生きてると思ってるの?天使の仕事は完全にボランティアだけど、ちゃんと副業も、なんなら投資もしてるから。
生活に掛るお金は、心配しなくて大丈夫だよ。
安心して?」
スサノオさん、お金持ちオーラはうすうす感じていましたけど、しっかり資産形成までしてたとは!
まあ、キャラ設定は、正直、三文芝居のシナリオ並だけど。
めりり「うん。ありがとう。じゃあ、私もその設定でいけばいいのかな?」
スサノオ「そうだね。もし誰かに過去のこととかをしつこく聞かれたら…
『とても辛い理由で故郷を飛び出してきたので、今はまだ話せないの。』って言っとけば大抵の人は引き下がるから。」
は・な・せ・な・い・の…ですと?!
ぷぷぷっ!!!
思わず、お茶を吹きそうになったわ!
私のその細かな設定、あっても明かさないのね!
めりり「そ、それ、いいアイディアだね。でもその技は、相当演技力を鍛えないと使えないかも?」
スサノオ「ぷぷっ!頑張れ!
あ、それともうひとつ、大事なことを言い忘れてた。
僕たちの素性…僕が天使で、めりりが転移者ということは他の人には隠して、絶対に自分から明かさないこと。
まぁ…ごくごく稀に、バレちゃうこともあるんだけど…
自分からは言わないで。困った時は相談して。OK?」
めりり「うん。OK!わかった。」
スサノオ「あ、ちなみに、明日会うトム爺には、僕が天使だってことはバレてる。
オリーブ婆ちゃんは口には出さないけど、勘がいい人だから、恐らくバレてるっていうか、気がついてる。聞かれないから、言ってないけど。
だから、二人は僕らが本当の兄妹じゃないことはわかってるけど…敢えてこちらからは、兄妹としか、言わない。
二人以外の人には明かさないでね。」
バレてるんかーーーい!
まぁ、私がパラレルワールド出身です〜!この度こちらに転移してきました〜!なーんて言っても、誰も信じる人もいないだろうし?
イレギュラーな存在が、受け入れられない、もしくは排除される…っていうのは、物語でもゲームでもありがちだし。
余計なことは黙っています!
スサノオ「さてと…今夜はこれくらいでお開きにするか。
僕は翻訳の仕事を仕上げないと。
あ、そういえばさっき、村長と知り合い?って言ってたけど、僕は毎年、カリュの村にまとまった額の寄付をしてるんだよ。
貴族の息子って設定になってるから、一応ね。
その関係で村長と知り合いなのと、役所の翻訳関係の仕事がまわってくるから、僕にとっても助かってるよ。」
す、すごい…資産形成だけじゃなくて、人脈作りもちゃんとしてるのね、スサノオさん。
めっちゃデキる男かも?!
スサノオ「それから、めりりの翻訳機能ね、タトゥー2回タップでオンオフ、他の大陸語の選択は耳たぶタップで出来るから。言葉の勉強の時とか使ってみて。」
わぉ〜!何て高機能なの!キラキラタトゥー!
後で試してみよう。
私がカップを片付けて戻ってくると、スサノオはアイテムボックスから、数冊の本と書類の束、ペンやインクを取り出して机に積んでいた。
あれを全部翻訳するのかな?結構な量じゃない?
めりり「こんなにたくさん…これ、全部お仕事?間に合う?」
スサノオ「うん。見た目だと多そうだけど、締切は、数日とか、1週間、数ヶ月って余裕をもたせてるから大丈夫。
後で感想を聞かれたり、意見を求められたりすることがあるから、一応全部に目を通さないといけないのが厄介だけど。」
うわわわわわ、スサノオ、めっちゃ仕事あるじゃん!
それなのに私ったら、昼間は買い物、夜はおしゃべりって…のんびり付き合わせてる場合じゃなかった!
めりり「スサノオ、お仕事があったのに、ごめんなさい…」
スサノオ「ん?あぁ、これくらいの量なら1時間も掛からないよ?僕、速読出来るし。
読みながら同時に頭の中で翻訳したのを高速自動筆記してるだけだから、このくらいの量なら、あっという間だよ。
ただ、この方法は企業秘密だからくれぐれも内密にね?
めりりこそ、もう大丈夫?さっき泣きそうな顔してたけど?」
はい?!
おしゃべりしてたら、すっかり忘れてたわ。そんなこと。
私、別に、泣きそうな顔なんて、なってないもんねーだ!
それより天使ってチート三昧じゃない?!
スサノオだけ…なのかな?
速読〜!それ、素敵!めっちゃいい!!
私も欲しかったなぁ。
そんなの出来たら、好きなラノベが読み放題じゃない?
めりり「はぁっ?全然、泣いてないしー!
私、まだ眠くないから、こっちで大人しくしてるね。その地図、借りてもいい?」
スサノオ「はい、どうぞ。僕のことは待ってなくていいから、眠かったらちゃんとベッドで寝るんだよー
ソファーの居心地が良くなったからって、そこで寝たら風邪ひくからねー」
んもーーー!スサノオったらーー!
もう、ソファで寝落ちとか、しーまーせーんー!
もう少しだけ、こうしていたい気分なの!
スサノオのお仕事とかも知りたいし。
だから、そんなに気を遣わなくていいよ。
でも、ありがと…
ま、恥ずぃから言わないけどね?




