第二章 8 『来訪者』
なんだか色々ありすぎて、最後は慌ただしくなってしまったけど…ようやく家に帰ってきた。
必要な買い物はほとんどできたし、村自体は楽しかったのだけど…精神的には疲れた。
なんでこんなことになっちゃったんだろう?
帰り道では、何となくお互い口数も少なくて…
これ、多分私がやらかしたせいだよね。
スサノオは私の身を案じて、無防備な状態で危ない人と接触したことについての注意はしたけれど、怒りはしなかった。
でも、その後はあの都市伝説みたいな妙な噂に振り回されて…
スサノオには心配も迷惑も沢山かけちゃった。
はぁ〜こんな感じじゃ、当分村には行けないか。
せっかく友達になったのに、ミーチャにも会えないな。
あ…そう言えば、花瓶買ってないわ。
素敵なのが幾つかあったから、スサノオに相談して選ぼうと思ってたら…色々あってすっかり忘れてた。
それにしても、今日一日で結構たくさんの買い物をしたんだなぁ。
スサノオがアイテムボックス経由でサクサク運んでくれたから、わからなかったけど。
運び込んだ大量の荷物を見ると、ずいぶん散財させてしまったことがわかる。
ホント申し訳ないよ…
スサノオ「めりりー!思ったより早く帰れたから、今から馬車を返してくるよ。あ、パンをいくつかお礼に持って行くね。」
めりり「あ、待って。私も行くよ。ご挨拶もしたいし。」
スサノオ「いや、もう夕方だし、今日は僕が行ってくるよ。
めりり、疲れたでしょ。直ぐに戻るから休んでいて。」
そう言いながらスサノオは出ていったけど…
この大荷物を置きっぱなしで、私だけ休むなんて気が引けるな。
そうだ!少しづつ片付けを進めておこうっと!
お部屋の印象が変わったら、気分も変わるだろうし。
スサノオ、帰ってきたらびっくりするだろうな。
ソファーにはカバーを掛けてクッションを。
調理器具はキッチンへ。
収納がたっぷりだから片付けも楽ちんね。
瓶詰めやパスタ、その他ストック品はパントリーへ。
うん。なかなかいい感じ。
スサノオ、そろそろ帰ってくるかな?
そうだ!戻ってきたら、ミモザさんに頂いたカップでお茶をしよう。
お湯も沸かしておくかな〜なんて考えていると、コンコンコン…と、玄関からノックの音が聞こえた。
ん?スサノオ?
…違う。スサノオならノックではなく声を掛けるはず。
もう外も暗くなってきたし、一体誰だろう?
私が出ていいのかな?
訪問販売?回覧板??いや、多分だけどそれはないよね。
もしかして、昨夜来たという女性だったりして!
どうしたものかと戸惑っていると、再び扉がノックされた。
???「こんばんはー!お忙しい時間にすみません。
こちらスサノオさんのお宅でしょうかー?」
スサノオにお客さまだ!
でも、扉を開けていいものか悩む。
扉の向こうの人は、ここがスサノオの家だと知らないみたいだし…
ほら、最近何かと物騒じゃない?押し売りとか闇バイトの強盗とか。
あ、これは向こうの世界の話しだけど。
一応お名前を伺って、今日のところは出直してもらおうか。
めりり「あの、失礼ですがどちらさまでしょう?
スサノオは今出ていますが…」
???「あ!もしかして、めりちゃんさんですか?
私、ジェームズと申します!昼間は…」
スサノオ「おい!ちょっと君!誰???ここに何の用???
ん?あれ?ジミー?ジミーじゃないか!どうしたの?」
ジミー「あぁ、スサノオ!こんな時間に突然訪ねてきてごめん!実は昼間…」
スサノオ「まぁまぁ、こんな所で立ち話もアレだし、とりあえず中へ入ってよ。
めりりーお客さんだ。」
スサノオと一緒に入ってきたのは、私たちより少し年上だろうか。優しげな雰囲気の男性だった。
スサノオ「ジミー、こちらは妹のめりり。ここで一緒に住むことになったんだ。よろしく頼む。
めりり、こちらはジェームズ。村役場にお勤めで、お父上はカリュの村の村長殿だよ。」
めりり「まぁ!そうなんですね。ジェームズさん、初めまして。スサノオの妹のめりりです。
よろしくお願いいたします。」
ジェームズ「めりりさん!初めまして。私のことはジミーと呼んでください。
昼間はローザとロバートがお世話になりました。」
めりり「えっと…あっ!もしかして…
ロビンくんとママさんのお身内の方ですか?」
ジミー「そうですそうです!私の妻と息子です。
あ、息子のことはロビンとお呼び下さい。
今日は妻と息子が、めりりさんに大変お世話になったそうで。ありがとうございました。
妻から話を聞いてあなたを探していたら、スサノオの妹さんということがわかりまして。
一言お礼をと、参上いたしました。
ちなみに私とスサノオは友人なんですよ。」
スサノオ「あはは。ご丁寧な挨拶をどうも。
それにしても偶然だな。めりりが話していた可愛い男の子がジミーの息子だったとは。
めりり、ジミーは僕の飲み友達なんだ。」
めりり「そうなのね。
ジミーさん、あの、ロビンは怖がっていませんでしたか?
ちょっと騒ぎになってしまったので心配で…」
ジミー「いやいや、怖がるところか、ずっと大興奮でしたよ!
『めりたん、かっこいいー!めりたん、すきー!』って、大はしゃぎです。
また、機会があったらローズとロビンに会ってやって下さい。」
スサノオ「めりり、よかったな。」
めりり「ええ、私もお二人にお会いしたいです!
あ〜でも…私、しばらく村へは行かない方がいいかもなので、ごめんなさい。
いずれ落ち着いたら伺いますね。」
今日のあの状況じゃ当分無理だよね。
万が一騒ぎになったら、ロビンもびっくりしちゃうだろうし。
ジミー「え?めりりさん、村に来れないって…?
それはまた、一体どうしてですか?」
スサノオ「ジミー、知らないのか?めりちゃんの噂のこと。
今日の件、話に尾ひれがついて凄いことになってるんだ。幸いまだ、村でめりりを知る人が少ないから何とかなってるけど、めりりがめりちゃんってバレたらどうなることか…」
スサノオが今日村で聞いためりちゃんの噂について、かいつまんでジミーに話すと、かなり驚いた様子だった。
ジミー「うーん、そんな大袈裟な話になっているとは…それだと、めりりさんは村で落ち着いて過ごせませんね。
…ん、わかりました。その件、少し預からせてください。私と言うか、村長が何とかできるかもしれません。」
めりり「あの、村長さんがって…更におおごとになっていませんか?」
ジミー「いやーお恥ずかしい話なんですが、村長である私の父は、孫のロビンを目の中に入れても痛くないほどに溺愛していまして。
さっきも、自分がこちらにお邪魔して礼を言う!って、大騒ぎだったんです。
めりりさんはロビンにとって、かっこいいお姉さんなんです。
そのめりりさんの勇気のお陰で万引き犯は捕まりましたし、彼らには、この村だけじゃなく、あちこちで余罪があることがわかってきました。
事実関係が明らかになり次第、村長として何らかの談話を発表する方向で進めてみます。」
スサノオ「そうしてくれると助かるよ。」
ジミー「スサノオもめりりさんも村にとって大切な人ですから。
もちろん、私達家族にとっても、ですが。
では、私は早速戻って準備します。
今日は本当にありがとうございました!
今度は“止まり木”で一杯やりましょう!」
そう言うと、ジミーさんは風のように去って行かれました。
ふふふ。真面目な人なのね。
早くまた村に行けるようになるといいな。
ジミーさん、よろしくお願いします!