第二章 7 『買い物へ行こう②』
馬車を広場近くの“馬車等預かり所”に置いて、
ミモザさんオススメの食器屋さんと金物屋さん、その他必要な物を買うために色々お店を回った。
おかげさまで納得できる買い物ができたのは良かったのだけど…
どの店も、さっきの事件の話で持ち切りで、
か弱い女の子のめりちゃんが二人の大男を投げ飛ばした!とか、大窃盗団の親玉相手に説教をして改心させた!とか、なんだかもう、一体何のお話ですか?ってくらい、訳のわからないことになっていて、スサノオと二人で大笑いしてしまった。
スサノオ「くくくっ。めりちゃんってさ、もはや都市伝説になってるよ?どうする?」
めりり「あはは。ヤバいよねぇ。めりちゃんの伝説が独り歩きしてるもん。どうするって聞かれても、どうもしようがないよ。
私、まだ知り合いも少ないし、顔バレしてなくてホントよかったわ。」
この時はまだ、こんな風に余裕で笑っていた私たちだけれど…まさか、あんなことになっていたなんて!
ちょっと遅めのランチを食べながら、スサノオに事件の詳細を説明した。
スサノオ「そうだったんだ。なるほどね。
めりりがしたことは正しいし、勇気を出したのは立派だ。偉かったね。
でもね、今回は結果オーライだったけど…
相手が武器を持ってたら?反撃してきたら?
もし怪我をしたらどうするの?」
めりり「うん。そうだよね。
さっきは無我夢中でそこまで気が回らなかったけど、下手したらロビンくんや他の人まで危険に晒してしまったかも。
心配かけてごめんなさい。」
スサノオ「わかればOK!
めりりは悪くないでしょ?謝らなくていいんだよ。
そのうちめりりのレベルが上がったら、万引き犯くらい一捻りしちゃうかもだけど…
今はまだ、ヒヨコちゃんだからさ。
自分を大事にしてね。」
そうだよねぇ、まだ文字を読むのもチート機能を使ってくらいだし。あ、そういえば…
めりり「そういえば、さっきね。その万引き犯の話し声に、ピーとかガーとか変な音が入って、ちゃんと話言葉が変換出来なかったの。
壊れちゃったのかな?」
スサノオ「え?そうなの?
うーん、なんでだろ?帰ったら確認させて。
今は大丈夫?使えてる?」
めりり「大丈夫。全然問題ないよ。」
スサノオ「じゃあ後でみてみよう。他に何か買い物はあったっけ?」
めりり「ん〜昨日リストにした物は大体揃ったと思う。何か大事な事を忘れてる気がするけど、なんだろ…?
まあ、でも、足りない物は、また来ればいいよね。
とすると、あとは食材とか…かな。
こちらでは、どんなものがあるのか知りたいし。調理道具も揃えたから、料理できるしね。」
昨夜の“止まり木”もそうだったけど、今日のランチもとても美味しい。
素材がいいのか、調味料が似ているのか。懐かしい食べ慣れた味に近くてホッとする。
めりり「ねね、スサノオは、お料理はするの?」
スサノオ「ん〜最近はあまりしてないかな。でも出来るよ。そもそも天使にとって、食事って趣味みたいなものだからさ。」
めりり「ん?食事が趣味??それって、どういうこと?」
スサノオ「あーえっとね、僕たち天使は、食事や休息…
えっと、休息っていうのは、寝るってことね。
それはしてもしなくても同じというか、基本必要ではないんだ。
宇宙エネルギー自体が食事であり休息であり活力の源だから。
僕が食事をするのは、美味しいものを食べたり、飲んだり、発見すると、心が満たされるというか、幸せな気持ちになるからだよ。
ほら、昨夜や今のランチみたいに、めりりとお喋りしながらした食事は、楽しい会話だったなぁ、料理も美味しかったなぁって思い出になるでしょ。僕にとってはそれが大事なのさ。
だから栄養にはならないけど、僕は食事をするしお酒もお茶も飲む。味覚もあるし、好みもあるよ。空腹も満腹感も感じるから、食事は楽しみでしているんだよ。」
めりり「うそん…スサノオって、食べなくても生きていけるんだ…」
スサノオ「うん。生きてはいける。
でも、僕はめちゃくちゃ食べるよ?食べるの好きだし…
こう見えて結構グルメよ?」
めりり「それって、食いしん坊なだけなんじゃ…?」
スサノオ「あはは。そうとも言うね!
めりりは調理器具を揃えてるぐらいだから、当然料理はするよね?楽しみだなぁ。
長年、色々な料理を食べてきたけど、家庭料理って中々食べる機会がなくって。
僕、家族いないし。
めりりは料理、得意なの?色々作ってよ。」
あ、既視感…
『昼ご飯何にする?』
これは、来る日も来る日も、何年にも渡って私にかけられた呪いの言葉。
『昼ご飯まだなの?』と同義語だ。
作ってよって…また?またなの…?
スサノオ「ん?めりり?どしたー?
あ、もしかして、料理は好きじゃなかった?
だったら、僕がやるよ。
めりりの世界みたいにネットでレシピを見るとか出来ないし、ちゃんと習ってないからほぼ我流だし、凝ったものは無理だけど…
あ、後で本屋に寄って、料理の本、何冊か買ってこよう!」
めりり「え…?スサノオが料理を作ってくれるの?
私のために??」
スサノオ「うん。毎日は無理かもだけど、やるよ?
料理は人間のめりりと住むんだから、僕も作るのが当然でしょ?
人間はちゃんと食事をして栄養をとらないと、身体を壊しちゃうし。出来ない日や気分を変えたい日は、外食もいいいよね。
この村は商人が行き交うからか、色んな地域の料理が食べられるし、どの店も味はいいからさ。」
…一瞬で呪縛が解けた。そして思い出した。
いつの間にか料理をするのが義務になって、時には苦痛に感じていたけど…
めりり「わ、私!料理は好きなの!
食いしん坊だから、美味しい物を見つけたり、食べたりしたら、自分でも再現したい!って思うくらいに。
だから私も作りたい!!私も我流だし、スサノオの口に合うかわからないけど…
ご飯作って、一緒に食べて欲しい!」
スサノオ「おぉ〜いいね!それは楽しみだ。
だったら早速市場に行こう!めりりの使える食材があるといいな。」
私の母は、料理がとても上手だった。
母から教わった、私も大好きなレシピは頭の中にちゃんとある。
あれも、これも…久しぶりに作ってみたいな。
自称グルメのスサノオも気に入ってくれたらいいけれど。
ランチを堪能した私達は、広場の奥の食料品や生鮮品を扱うお店が広がるエリアに向かった。
うわぁ!すっごーーい!テレビで見たことがある、海外のマーケットみたい!!
色とりどりの野菜や果物に新鮮な肉や魚介類。
スパイスや調味料のお店もあって。
味噌や醤油って、あるのかな?やっぱりこの二つは欲しいな。
めりり「農産物は、見たことや食べたことのある物も多いけど。
やっぱり異世界なのね〜!珍しい物も沢山あるから超楽しい!!
お肉と魚介は知らない物が結構あるかな。」
スサノオ「わからないものは店の人に食べ方を聞いてみよう!とりあえず今日欲しいものはどれ?
調味料とかはどう?すごい種類があるけど。」
めりり「まずはお米!とりあえず人間、米さえあれば何とかなるのよ!
調味料は、基本のさしすせそは欲しいかな…
あ、でも、砂糖と塩は家にあったね。
お醤油とお味噌と…うわぁ種類が豊富だから、迷っちゃう。ねね、どれにする??
おぉ〜っ!こっちのお店も凄いね!
醤的なものもあるから、中華とか韓流の料理も作れそう!
よしっ!ざっと見たところ、さしすせそは全部揃いそう!
あと、スパイスもあったら嬉しいけど…
おぉ〜こっちも種類がたくさんあるう!!
知らない物もいっぱいあるし!ブレンドしてるのもあるのね。
ハーブは乾燥と…生のもあるんだ!
これ、レモングラスかな?お茶にすると美味しいよねー
すごいすごい!ここ、めっちゃアガるわ〜!」
スサノオ「さしすせそ…??アガる???
ねえ、めりり、めちゃくちゃテンション高くない??」
めりり「え、だって、ここすごいって!何でもあるし!
こんなに色々揃うところなんて、私初めて見たし!
もぅ〜端から端まで全部じっくり見たいわ!」
スサノオ「ちょ!!!めりりっ、早まるな!!
気持ちはわかるけどっ!市場は逃げないし、いつでも来れるって!
とりあえず、さしすせそ…だっけ?それとかにしとかない?」
めりり「うん、まぁ、そうだね?
あ!スサノオ見てっ!
あのパン屋さん、美味しそう!」
スサノオ「全然、人の話聞いてないな…」
何かスサノオが言ってるけど、気になるお店のチェックは外せないのが女心で。
色々買い求めた食材と調味料を抱えつつ、スサノオの袖を引っ張って、パン屋さんに入っていくと…
???「あれ?スサノオさん…と、めりりさん?」
スサノオ「あぁ!ミーチャ。昨夜はごちそうさま。偶然だね。」
めりり「ミーチャさん、こんにちは。昨夜はありがとうございました。今日はお買い物ですか?」
ミーチャ「スサノオさん、めりりさん、こんにちは!
今はおつかい中なんです!
昨夜お二人が召し上がった“止まり木”のパンは、こちらから仕入れてるんですよー
パン、美味しかったでしょ?
ウチもここのパン、大好きなんです。」
めりり「あぁ、昨夜のすごく美味しいパンはここのだったんだ…!
えっと、あ、あの、ミーチャ?
私のことはめりりでいいから!敬語もなしで!
それで、もし良かったら、私と友達になってくれたら嬉しいなって…
嫌でなければ…なんだけど。」
ミーチャ「えーー!!!
ウチが友達?本当にいいの?
嬉しいっ!!嫌なんてとんでもない!!
ウチで良ければ、大歓迎だよ!
めりり、めりー、めりっち、めりちゃん…
ん?めりちゃん?めりちゃん?!?!
めりりって、まさか、あの、めりちゃんなの…?」
スサノオ「ミーチャ、えっと、あの、めりちゃんって…?」
ミーチャ「えーーーー???スサノオさん、ご存知ないんですかっ?!あの大英雄めりちゃんをっ?!
もう、今や村中この噂でもちきりですよ?!
めりちゃんは、各地で色々な事件を解決している大英雄で、さっき、このカリュ村では、強盗団の悪巧みを事前に察知して、全員まとめてお縄にしたって!!」
スサノオ「嘘だろ…」
めりり「嘘でしょ…」
なんなのーーー???
ランチをしてる間に、ものすごーーーく話が大きくなってるんだけど?!
あながちハズレでもないビミョーなラインの噂話に言葉を失う。
ミーチャ「ええっ!!やっぱり、めりりはめりちゃんなの?
そういえば昨夜、村に来たばかりって言ってたよね?
きゃーーーーどうしよう?!こんな有名人がウチの友達なんて!!!」
スサノオ・めりり「シーーーーッ!」
スサノオ「ミーチャ、ミーチャ!!
ちょ!静かに!お願い!落ち着いて!!
そのめりちゃんの話、それ、間違いじゃないけど、かなりズレてるからっ!」
めりり「ミーチャ、詳しいことは今度ゆっくり話すけど…その話、めっちゃ盛りすぎだから!
私がめりちゃんなのは、ここだけの話ってことでお願い!!
なんか、噂が独り歩きしすぎて、どうしていいかわかんないの!」
ミーチャ「え?…そうなの??なーんだ!!
でも、ウチはめりりが有名人じゃなくても無問題!友達になれて嬉しいし。
じゃあ、この話、私は知らんぷりしとくね。
キールにも店で話題に出さないように言っとくよ。」
ミーチャはそう言って一足先に帰って行ったのけど…
なんだか知らぬ間にすごいことになっちゃってた。
スサノオ「めりり、今日の所は家に戻ろうか。」
めりり「うん。なんか怖くなってきちゃった。」
私たちは慌てて残りの買い物を済ませ、村を後にしたのだった。